精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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184話 両親の運命的?な出会い

 さて、お茶会での本題はエフェメラなので、ドロシーのことは置いておく。

 今はまだ興奮冷めやらぬが、もう少ししたら犬みたいな過呼吸も治まるだろう。

 

 肩で息をしているのに、スケッチする腕がぶれることはない。

 無駄に凄い技術だとシキは感心する。

 

「エフィは隣国に出向いていたコンスタンティンの前に颯爽と現れ、その命を救ったのよ」

 

 フランルージュとエフェメラの間には親交があり、コンスタンティンとの出会いについてはよく話を聞いたそうだ。

 それは今から十四年前。

 国王アレクサンドと王弟コンスタンティンがまだ協力していた頃のこと。

 

 レドーク王国の西隣にはエルワンという王国がある。

 エルワンとレドークは友好な関係を築いていたが、エルワンの更に西にあるイルグリッサ王国とエルワンは戦争状態にあった。

 

 元々イルグリッサとエルワンは一つの国だったのだが、王族の内部分裂によりそのまま国自体が分れてしまう。

 それからはエルワンとイルグリッサの国境線では小競り合いが続いていた。

 

「レドーク王国はエルワン王国に派兵していると聞いています。もしかしてレドーク王国とイルグリッサ王国も仲が悪いのでしょうか?」

 

「あら、こう言ってはなんですけれど、シキは意外と国の情勢に詳しいのですね」

 

「視察団に参加したリーゼロッテ・ミゼット様から派兵の話を聞いたことがあったので」

 

「なるほど、〈風使い〉から聞いていましたか。レドークとイルグリッサの仲ですが、決して悪くはありませんよ。あくまでエルワンとイルグリッサの戦争ですから」

 

 お互いの国が隣国から派兵を募ってはいるが、あくまで主力は自国の軍隊。

 雇われ傭兵のような立場だ。

 仮にリーゼロッテが大活躍したとしても故郷のレドークではなく、彼女を徴用したエルワンに恨みの矛先が向かうようになっていた。

 

 軍役だから仕方がないのだが、リーゼロッテも戦争で少なからず人を殺しているのだろう。

 あの溌溂とした少女の表情の裏にあったであろう壮絶な戦いを想像して、シキは異世界の厳しさを思い知る。

 

「隣国を巻き込めば自国の味方だけでなく敵も増やすことになるし、魔獣や邪人の脅威もあるわ。元々小国だったのに分裂して更に国力は低くなっているから、戦争にばかり注力するわけにはいかないの。それに国が分裂した理由の半分くらいが、王子と王女の近親婚を物理的に阻止するためだったから、好きな相手のいる国を本気で殴れなかったのよ」

 

「ええ……」

 

「ああ、これは公然の秘密だから言いふらしたら駄目よ」

 

「国が分れるほどの隙を見せるだなんて、王族としては失格ですね」

 

「うんうん」

 

 近親婚そのものにはそれほど忌避感を見せない三人を見て、シキは王族の闇の深さを感じ取る。

 なので追及はせずに聞き流した。

 

「それで国の分裂に関わったもう半分の中の一部の勢力が、相手の軍隊に紛れて王族を殺そうとする未来をコンスが予知したの。もしそれが現実になれば、最悪本気の殴り合いに発展してしまうわ」

 

 隣国の情勢不安は自国にも影響を与える。

 コンスタンティンの未来予知の力は国外へは隠蔽していたし、未来予知も必ず当たるわけではない。

 説明が困難なことから、コンスタンティンは自ら解決するべき視察を理由にしてエルワンへと赴いた。

 

「危険だとわかっていて王弟はエルワンに行ったんですか?」

 

 シキが父親のことを王弟と呼んだのを聞いて、フランルージュは僅かに眉尻を下げた。

 

「コンスの未来予知って、予知の対象に近づいた方が精度が上がるらしいの。だから昔は国内外を動き回っていたわね」

 

 コンスタンティンはエルワン軍の中に紛れ込んだイルグリッサの間者が、エルワン軍の王族将校を暗殺する光景を予知していた。

 具体的にはイルグリッサとの戦闘中に、背後から不意打ちするというもの。

 

 戦場ではコンスタンティンが介入するタイミングがないため一計を案じる。

 暗殺対象の王族将校が戦地へ赴く日の前夜、歓待と称して宿泊していた宿に招き入れる。

 

 そして酒に一服盛って体調不良にさせて戦場から遠ざけた。

 そうやって時間を稼ぎつつ間者の情報を集め、捕まえる予定だったが、一つ誤算が生じる。

 

「王族の護衛だった〈炎導の申し子〉アグエラに一服盛ったのがバレちゃったの。アグエラというのはエルワンの秘蔵っ子で、見た目は小さな森人族(エルフ)の女の子なんだけど、強力な火精霊と契約していて戦場の主戦力でもあったわ。アグエラは長命種であることを利用して、エルワン側の王族の血筋そのものに懸想している、ちょっと変わった子なの。最初は王族の兄妹の近親婚に賛成していたんだけど、ある事件がきっかけで……」

 

「お母さま、話がそれています」

 

「あら、ごめんなさい」

 

 シキとしても非常に続きが気になった。

 だが、またもや闇が深そうな話だったので再び聞き流す。

 

「王族将校をそのまま宿で匿っていたのだけれど、アグエラが乗り込んできてコンスに引き渡すよう要求してきたの。コンスは【巡礼神の加護】による未来予知について説明して、間者による暗殺の危機と一服盛った理由を説明したわ。でもアグエラは未来予知を信じなかった。それはそうよね。あのような希少で強力な加護、聞いたことないでしょうから」

 

 引き渡し要求を暗殺を理由に断り続けるコンス。

 痺れを切らしたアグエラは火魔術で実力行使に出た。

 

「ここでついにエフィの登場よ。彼女はコンスが泊まっていた賓客用の宿で給仕として働いていたの。アグエラが乗り込んできたのは夕食の時で、コンスの側には偶然エフィがいたわ。アグエラが炎の精霊を呼び出して攻撃した瞬間、コンスはエフィの腕を掴んで自分の前に差し出したの」

 

「…………はい?」

 

 あまりの展開にシキは呆然としてしまう。

 それは予想通りの反応だったようで、フランルージュたちはニヤニヤしている。

 

「なんとエフィは〈炎導の申し子〉が放った《火槍》を素手で打ち払ってしまったの。エフィは強力な【武闘神の加護】の持ち主で、素手での格闘に長けた娘だったのよ」

 

「あー、なるほど。【武闘神の加護】ですか」

 

 最近同じ加護を持つ〈暴君聖女〉ことロゼリアと出会っていたので、すぐにイメージが湧いた。

 拳に魔力や気のようなものを纏えるのだろう。

 カドナ村周辺の村人やステナから聞いていた、エフェメラの戦闘スタイルとも一致している。

 

「つまりコンスはエフィの存在も予知していたの。エフィが宿の給仕として働いていたこと、〈炎導の申し子〉の魔術を防ぐほどの加護の持ち主だったということ、そして三者がこの場に揃うこと。そのすべてがコンスは関与できないものであり、未来予知でしか知り得ないと改めてアグエラを説得したわ」

 

 その説得でアグエラは完全に納得したわけではなかった。

 しかし愛する王族将校の命が狙われているかもしれない可能性を否定しきれなくなっていた。

 

 間者探しに協力し見事に見つけ出し始末したところで、ようやくコンスタンティンの未来予知を信じたという。

 

「あれ、でも未来予知って不規則で絶対ではないですよね? 王弟も随分と危ない賭けに出たものですね」

 

「そう! そこなのです!」

 

 フランルージュがむふーと鼻息を荒くしてシキに詰め寄る。

 その仕草はラシールにそっくりで……いや逆か。

 

「コンス曰く未来は無数にあるそうだけれど、エフィとの出会いだけは何度未来予知しても、同じ場面が見えたんですって。これって運命よね! エフィもこの話をする度に惚気ていたわ」

 

「悔しいけれど、叔父様とエフィ姉様はお似合いでした」

 

「うんうん。わたしは見たことないけど、きっとそう」

 

 そう言ってうっとりする王族女子三人。

 本当にそうかなぁ?

 

 実は二割~三割くらいの確率だったとしても本当のことは言わなさそう。

 それに当時十四歳くらいのエフェメラを、いい大人が攻撃を防ぐ盾代わりに使うってどうなの?

 

 運命っていう言葉に惑わされてないかなと思うシキであったが、うっとりする三人に水を差すようなことは言えないので、三度聞き流すことにした。

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