精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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185話 正妻たちの余裕

「こうして運命的な出会いを果たした二人は恋に落ちて、事件解決後はレドーク王国に戻ってきたのよ」

 

「運命的なのはわかりました。それでエフェメラ母さんって何者なんですか? 来賓向けの宿で働けるくらいなのですから、エルワン王国の貴族の娘とかですか?」

 

「身分としてはエルワンの伯爵令嬢だったのだけれど、養子だったそうよ」

 

「養子……」

 

 既視感を覚える生い立ちにシキが言葉を詰まらせる。

 エフェメラはエルワンの西端、イルグリッサとの国境に面した伯爵領の戦争孤児だった。

 偶然通りかかった伯爵に拾われ、気に入られたのかそのまま養子になったという。

 

「場所柄戦争孤児が多くて、軍人でもある伯爵が孤児を拾っては育てていたそうよ。エフィもその中の一人だったの。黒髪と黒い瞳が珍しいから伯爵がエフィの素性を調べたけど、イルグリッサより更に西からやってきた流民かもしれない、というところまでしかわからなかったんですって」

 

 レドークに返ってきてからのエフェメラは、コンスタンティンの侍女兼護衛という立場に収まる。

 【武闘神の加護】により素手での戦闘に長けているため、武装が制限される王城では有利に働いた。

 実際にコンスタンティンを狙った別派閥の暗殺者を何度か撃退している。

 

 規格外な未来予知の力を持つだけでなく、王族でもあったコンスタンティンの女性人気はすさまじかった。

 コンスタンティンはそれまで女性を寄せ付けなかったこともあり、突如現れたエフェメラの存在は一際目立つ。

 

「相当な悪意に晒されたはずだけど、エフィはけろりとしていたわ。正妻の余裕というやつかしらね。他に女性の影なんてなかったけれど。ああ、おませさんなナージェはよくエフィに勝負を挑んでいたわね」

 

「お、お母さま!?」

 

 急な流れ弾を受けて、イルミナージェが慌てふためいている。

 なんでも当時四歳のイルミナージェはコンスタンティンに懐いていて、大きくなったらお嫁さんになると息巻いていたらしい。

 エフェメラのことをライバルと認定し、勝負……と称して遊んでもらっていたのだ。

 

「まぁなんとなくそんな気は俺もしていましたけど」

 

「シ、シキまで!?」

 

 シキの前でコンスタンティンのことを早口で語ったりと、結構わかりやすい反応をしていたのだが本人は自覚していなかったようだ。

 

 別に煽ったつもりはなかったのだが、イルミナージェの目が据わる。

 獲物を狙うような鋭い眼光でシキを見つめた。

 

「あの強いエフィお姉様のことですから、()()()()()()ですがきっと元気でいらっしゃいます。叔父様との仲を引き裂くわけにもいきませんから、私も新たな恋にまい進するといたしましょう。ねぇ? シキ」

 

「む、お姉様ずるい。わたしが先なの」

 

「シキは救国の英雄ですから、王女二人で嫁いでも構いませんよ」

 

「ははは……あ、ドロシー様。新しい衣装はいかがですか?」

 

「はっはっはっはっ」

 

「お嬢様、せめて言葉で返事をしてください。シキ様、その場しのぎでお嬢様の純情を弄ばないでください。本当に責任を取ってもらいますよ。側室の私込みで」

 

「うっ、すみません」

 

「はっはっはっ………ちょっと待って。何しれっとキャロラインまで入ってるのよ。貴女までやってきて張り付かれたら、気兼ねなく徹夜仕事ができないじゃない」

 

「これからは気兼ねしてちゃんと寝てください。細かい仕事は部下に任せて、お嬢様は社交界に出ていかないといけないのですから。また化粧で隠せないほどの隈を目の下に作って、相手を驚かせるのですか?」

 

「私は服を作るの。がるるるるるるる」

 

 一瞬人に戻ったドロシーであったが、すぐに犬のように唸る。

 こうして姦しいながらもお茶会の時間は和やかに進む。

 空中ではチャイナドレスに身を包んだオルティエが、余裕のある笑みを浮かべながら見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「それでお兄様のお母様はどうして城を離れたのですか?」

 

()()()曰く、俺の存在を知られないためだってさ」

 

 お茶会の翌日、シキはエンフィールド大樹海にあるエアスト村に転送でやってきていた。

 すぐにでもエフェメラ捜索を再開したいところであったが、亜神ベリーズ戦で負傷しているし(完治はしている)、休息が必要だとスプリガンたちから説得を受ける。

 

 なので発見した手掛かりである〈克己の逆塔〉の探索はシアニスとエルに任せ、シキはエイヴェと共に寛いでいた。

 エアスト村の入口がある崖の中腹は開けていて、テニスコート一面分くらいの広場がある。

 広場は東向きなので午前中から日が当たり、ぽかぽかしていた。

 

「Gyaruuuuuu……zzz」

 

 エアスト村周辺を縄張りとし、国防の一端を担っている黒竜シュヴァルツァも気持ちよさそうにうたた寝している。

 その横に軍用のキャンプシートを広げ、シキはエイヴェに膝枕されていた。

 

 エイヴェの両腕は純白の美しい鳥の翼になっているのだが、左の翼はシキの体に羽毛布団のように被せ、右の翼でシキの額を優しく撫でている。

 後頭部を乗せた太腿は柔らかく、体は肌触りの良くて暖かい羽毛に包まれ、夢見心地であった。

 

 これは人を駄目にする膝枕である。

 

「俺の存在は両親にとって明確な弱点だったし、俺自身の命も案じていたんだ。派閥争いに巻き込まれたら胎児の俺も身重の母さんもさすがに厳しいからね」

 

 ちなみにシキがコンスタンティンのことを父さんと呼ぶのは、スプリガンたちの前だけだ。

 複雑な子供心である。

 

「にしても母さんの避難先を父さんにすら知らせないって、徹底しすぎじゃないかな。いやまぁそのおかげで母さんに敵対派閥の影は一切なかったけど、代わりに別の事件に巻き込まれちゃったし」

 

 エフェメラの実力があれば、シキさえ生まれてしまえばなんとかなるだろうとコンスタンティンは見立てたのだろう。

 実際になんとかなっていたが、エフェメラの優しさが仇になる。

 

 カドナ村の闇の眷属襲撃事件も、シキとエフェメラが逃げるだけなら余裕だった。

 しかしエフェメラは村人を見捨てなかったため、行方不明になってしまう。

 

「きっとお母様は生きています。そんな予感がします。再会できた時は私たちを紹介してくださいね」

 

「うん、もちろんだよ」

 

「王女たちも私たちの次ならいいですよ」

 

「うんうん……えっ」

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