精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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189話 うさぎとかめ

「これまでのエフェメラ母さんの足跡をおさらいしよう。十年前にカドナ村を闇の眷属が襲撃。村付きの冒険者だった母さんが村人を避難させつつ応戦。その後行方不明になってしまった」

 

 その二週間後、近隣にあるメイクイ村の村付きが翼人族から〈克己の逆塔〉が破壊されたと聞かされる。

 発見した〈克己の逆塔〉がある洞窟は意図的と思われる崩落で封鎖されていた。

 

 崩落の先には無数の魔獣の死骸。

 迷宮の入口と思われた〈克己の逆塔〉は山岳地帯の南へと抜けるトンネルだった。

 

 というのがシキがこれまでに得た情報である。

 

「これらの情報がすべて繋がっていると仮定した場合、以下の出来事が想定されます。まず〈克己の逆塔〉から魔獣が溢れ、地上の闇の眷属が棲家を追い出される形でカドナ村を襲撃。エフェメラ様はマスターたちを逃がした後、闇の眷属襲撃の原因を探るために単身調査を開始。〈克己の逆塔〉を発見し魔獣が溢れないように封鎖。洞窟内の魔獣を殲滅した後にこの森へ抜けました」

 

「カドナ村から〈克己の逆塔〉って結構離れてるけど、そんなすぐに見つかるものなのか? とか疑問は色々あるけど、大筋では合っていて欲しいね。気になるのは父さんの最新の未来予知の内容だ」

 

 それは〈古き墓所を見下ろす祭壇にて眠る〉というものだった。

 死んでいる者は未来予知できない。

 死んでいるのだから未来がないのは当たり前の話で、コンスタンティンはエフェメラの未来を予知しても暗闇しか見ることができなかった。

 

 あんたが生存を信じなくてどうする。

 そうシキが発破をかけた結果が、今回の予知結果だ。

 

 未来予知できたということはエフェメラは生きているのか?

 それとも死者を対象に予知できるようになっただけなのだろうか?

 

 予知の〈墓所〉〈眠る〉というワードがどっちとも取れるため不穏だった。

 

「まだ希望はあるはず……申し訳ないけど、引き続き協力を頼むよ」

 

「はい。お任せくださいマスター」

 

「ありがとう。山脈を超えたけど、植生はそんなに変わらないみたいだね」

 

「そのようですが、魔獣については早速初見のものが出現しました。御覧ください」

 

 拡張画面に〈SG-064 エル・レプリ〉のメインカメラの映像が表示される。

 森を俯瞰しながら飛んでいる映像の中に、前方を走る巨大な物体が映っていた。

 

「えっ、走る亀?」

 

 上空からは木々の間を縫って走る亀の甲羅がはっきりと見えた。

 周囲の木々との対比からすると、甲羅の長手方向で三メートルくらいはあるだろうか。

 それがもの凄いスピードで走っている。

 

 甲羅から飛び出した足は、普通の亀と同じかやや長い程度なので、腹が森の起伏でつっかえそうなものだが、驚異的な質量と脚力で強引に突き進んでいた。

 亀の魔獣は狩りの最中のようで、短い首を伸ばして噛みつこうとしている先には、必死に逃げる白いもこもこが映っている。

 

『むっ、可愛い()()発見。これよりレスキューに入る』

 

 宣言と共に〈SG-064 エル・レプリ〉が瞬間加速(クイックブースト)で急降下する。

 重量逆関節の機体が緑の絨毯の中へ沈み込み、走る亀の魔獣の背中へと器用に着地した。

 

 総重量20トンを超える金属の塊が高速で飛来するという状況は、もはや砲弾が着弾するのと何ら変わらない。

 耳をつんざく破壊音が轟く。

 

 衝撃波が周囲の木々を薙ぎ倒し、先を走る白いもこもこを吹き飛ばした。

 〈SG-064 エル・レプリ〉は非表示設定なので、もし傍から見ている者がいたならば、亀の魔獣が突然地面にめり込んだように見えただろう。

 

「うわああああぁ」

 

『あ、やば』

 

 エルは亀の魔獣の上に〈SG-064 エル・レプリ〉を乗せたままハッチを開けて飛び降りると、地面を転がる白いもこもこへ走り寄った。

 ぐでっとしているそれの両脇を抱えて持ち上げる。

 

『只の兎……じゃないよね。さっき二本足で走って悲鳴も上げていたし』

 

『兎人族のようですね』

 

 オルティエが兎人族と呼んだ白いもこもこの見た目は、二足歩行ができる兎であった。

 もしチョッキを着せて懐中時計を持たせたら、某不思議の国の兎とそっくりになるだろう。

 

「ううん……ひっ。お、お姉さんは誰?」

 

 目を覚ました兎人族は自分が謎の少女に抱えられていることに気が付くと、小さな悲鳴を上げた。

 そして恐る恐る問いかける。

 

「私はエル。今日から君はうちの子ね」

 

「え?」

 

『いやいや、何言ってるの?』

 

「大丈夫。三食昼寝付きで、そのまるい尻尾をモフられるだけの簡単なお仕事だから」

 

 シキのツッコミも意に介さずエルが兎人族に謎の要求を突きつけていると、背後で土煙が上がった。

 〈SG-064 エル・レプリ〉の着地の衝撃で気を失っていた亀の魔獣が目を覚ましたのだ。

 

 柔らかい地面に埋もれたことで衝撃が吸収され、致命傷を免れていた。

 ひび割れた甲羅からは血が流れているが、地面から這い出ようともがいている。

 

「ひいいいいぃ。お姉さん、後ろ!」

 

 兎人族の悲鳴は一発の銃声によって遮られた。

 上空で待機、警戒していた〈SG-071 シアニス・エルプス〉のアサルトライフルによるもので、暴れる亀の魔獣の脳天を撃ち抜く。

 

 トドメを刺された亀の魔獣は血と脳漿を撒き散らしながら、今度こそ絶命した。

 なおアサルトライフルも攻撃判定以外は非表示なので、兎人族からは突然亀の魔獣の頭が破裂したように見えている。

 

「ぎゃああああぁ……ぁ」

 

 恐怖が限界を超えてしまったのだろう。

 兎人族は再び気絶してしまった。

 

『エルちゃん、ちゃんと倒したか確認しないとダメだよ』

 

『サンキューシアちゃん。ごしゅじん、というわけでこの子は連れて帰るね』

 

『こらこら、誘拐になるからやめなさい。多分この辺りに住んでる亜人だと思うから』

 

『マスター、先行させていた小型情報端末(リーコン)がこの先で村を発見しました。住人は兎人族が大半なので、この個体の棲家かもしれません』

 

『それなら送り届けてあげよう』

 

『了解。現地で直接交渉する』

 

『諦めてないのか……』

 

 エルは自機〈SG-064 エル・レプリ〉を自動追従モードに切り替えると、気絶してぐったりした兎人族を抱えたまま走り出した。

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