精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
「つまりさっきの亀の魔獣はこの辺りの主だったというわけか」
「そ、そうだよ。〈地鳴らし〉っていうんだ」
目を覚ました兎人族の少年、コデューロの案内でシキたちは森を進んでいる。
エイヴェには樹海の防衛に戻ってもらい、シキはパワードスーツ〈GGT-117 ゼーレ〉を着込み合流していた。
真の実力はどうであれ、エルのような見た目がか弱い少女が一人で森をうろついているのは怪しい。
故にゼーレが〈地鳴らし〉の討伐役兼、エルの保護者役だ。
シアニスは自機に搭乗したまま上空から、オルティエはいつも通り非表示でシキに追従している。
「北の森は危ないから入っちゃいけないって言われてたんだ。でもどうしても母ちゃんたちの病気を治すのに必要な薬草が欲しくて」
「大丈夫。うちのごしゅじんなら治せる」
「ほんとに!?」
「エル、安請け合いをするんじゃない。症状もわからないのに」
『マスター、先行している小型情報端末で村人全員をスキャンしました。五名に肺炎による発熱と衰弱の症状がみられますが、治療薬で問題なく回復します』
「……」
シキが横を飛ぶオルティエに視線を向けると、彼女は得意げに胸を張っていた。
「まぁ治療はするとしてコデューロ、あのまま逃げていたら村に〈地鳴らし〉を呼び寄せてしまっていたんじゃないか? 村に〈地鳴らし〉を倒せる戦力はあるのか?」
シキの問いにコデューロは青ざめた……かは白い毛皮に覆われていてわからなかったが、ピンと伸びた長い耳が力なく垂れ下がる。
「ううん倒せない……そんな……僕はなんてことを……」
「どっちみちすぐに追いつかれて食べられてた。〈地鳴らし〉が村に気付くかは半々くらい? 私たちが助けたから結果オーライ」
「家族のために行動するのは偉いが、今後はもっと考えて行動することだ。でなければその大事な家族を傷つけることになる」
「うん……わかった」
暫く走ると森を抜けて開けた場所に出る。
そこがコデューロの住む村で、入口には槍を構えた女性が待ち構えていた。
頭頂部から兎耳が生えているが、それ以外は人間の姿をしている。
「コデューロ! 無事だったか。あんたたち、コデューロを離しな!」
「えー」
「あっ、こら」
コデューロを抱えていたエルが嫌がるように抱え直してしまったため、勘違いした女性が襲い掛かってきた。
鋭く突き出される槍を、シキはパワードスーツ〈GGT-117 ゼーレ〉の掌で弾く。
「待って! この人たちは敵じゃないよ」
「その通りだ、話を聞いてくれ」
「問答、む、よう……」
コデューロとシキが話しかけても女性は攻撃をやめなかったが、数度突きを放っただけで息が上がり、熱に浮かされたように顔が赤くなる。
ついには槍を手放しその場に倒れ込んでしまったので、シキが慌てて体を支えた。
「おっと」
『マスター、彼女が衰弱と肺炎の症状があるうちの一人です』
『ええ……安静にしてなきゃダメだろう』
シキは意識が朦朧としている女性を抱きかかえると、コデューロに指示を出す。
「他にも病人がいるんだろう? まとめて治療するから案内してくれ」
コデューロに連れられてやってきたのは、村の中央に位置する質素な平屋だった。
「コデューロ! 無事だったのか。そちらの方々はお客さん、でいいのかな?」
中にいたのは人族―――つまり普通の人間の中年男性と、並べられた布団の上で苦しそうに眠る兎人族が四人。
「ああ、ベルベット。無理をするなと言ったのに。すまないがこちらに寝かせてくれませんか」
ベルベットと呼ばれた兎耳の女性を寝かせてから、シキは中年男性に尋ねる。
「俺はゼーレ。こっちはエルだ」
「よろしく」
「私はリチャードです。このナディット村の村長をしています」
「病人はこれで全員か? 森で偶然コデューロと出会って事情は聞いている。いきなり現れて信用できないと思うが、俺たちが持っている霊薬なら皆を治療できるが使ってもいいか?」
「ええっ、この病を治せるのですか?」
「父ちゃん、ゼーレさんたちは〈地鳴らし〉に襲われている僕を助けてくれたんだ。だからいい人たちだよ」
「なっ、〈地鳴らし〉だって!?」
矢継ぎ早に与えられる情報を処理しきれず、リチャードは混乱している。
それを見てせっかちなエルは埒が明かないと思い、ボイスチャットで打ち合わせしていた段取りをさっさと進めてしまった。
「論より証拠。さらさら」
小瓶に移してあった Break off Online 製の治療薬を、寝ているベルベットの顔面に振りかける。
最初こそ緑色の粉が気管に入り、咳き込んだベルベットであったが、すぐに治療薬の効果が現れた。
発熱による顔の赤みが引き、荒い呼吸が治まったかと思うと、かっと目を見開き起き上がる。
「あれ、私は……全然苦しくない」
「ベルベット! 本当に治ったのかい!?」
「んなっ、くっつくな!」
喜び抱き着くリチャードをベルベットが押し退けようとしている。
その間にエルは残りの兎人族も治療していく。
四人ともすぐに目を覚まし、急激な回復に戸惑ってはいるものの、安堵した様子だった。
「あなたっ!」
「ララァ!」
回復した兎人族のうちの一人が、勢いよくリチャードに飛びつく。
兎人族は人間の子供くらいの大きさなので、リチャードはララァと呼んだ兎人族を抱っこした。
リチャードに頭を撫でられて、ララァは気持ちよさそうに目を細めている。
「ん? 今
「本当に治してしまうなんて、ゼーレさん、エルさん。貴方たちは僕たち家族……いや、この村の恩人だ。改めて紹介します。彼女が私の妻のララァ、そして娘のベルベットとコデューロです」
『なん…だと…』
幸いシキの台詞はボイスチャットになっていたので、リチャードたちには聞こえなかった。