精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

193 / 266
191話 運命は出来心

『亜人の生態はその種族によって様々です。異種間交配についても同様で、異種間交配ができないもの、できるが女性しか生まれないもの、身体的特徴を引き継ぐもの、引き継がないもの。兎人族は異種間交配が可能で、その身体的特徴は個人差が激しいと、サマンサの手稿に記載がありました』

 

『つまりベルベットは人族の特徴が強く現れているのか』

 

 シキは隣に座るベルベットをまじまじと観察した。

 頭頂部に白い兎耳が生えている以外は人間のそれで……いや、もう一か所だけ相違点がある。

 

 本来耳のある場所に耳がなくてつるりとしているのが、燃えるような赤い髪の隙間から見えた。

 かつて熊人族のバウルという大男に会ったことがあるが、彼には熊耳と人耳、合計四つの耳がついていたのを思い出す。

 

 最初はリチャードとベルベットが夫婦だと思ったのだが……。

 ま、まぁ愛の形は人それぞれである。

 

「何見てるのよ。言っとくけど私は負けてないからね。あの時は調子が悪かっただけだもん」

 

「風土病の〈肺枯れ〉にかかっていたんだから、まぁそうだろうな」

 

「てか兜取ってあんたも飲みなさいよ。そしてその面見せなさいよ」

 

 酔いが回り先ほどとは違う理由で赤ら顔のベルベットが、胡坐(あぐら)をかいて座っているシキの膝に乗る。

 ヘルメットに整った顔を近づけて、手の甲でこんこんと叩く。

 

 パワードスーツ〈GGT-117 ゼーレ〉が外気を遮断するタイプでなければ、酒気を含んだ甘い吐息をシキは嗅いでいただろう。

 

「事情があって兜は脱げないと言っただろ。俺の代わりにエルとシアニスをもてなしてやってくれ」

 

 シキとエルはナディット村を救った英雄として迎え入れられた。

 宴でもてなしたいと言われたのだが、正体を隠しているシキはゼーレを脱ぐわけにはい。

 

 なので別行動をしていた(ということにしてある)シアニスも呼んで、宴に参加してもらった。

 エルは兎人族の丸い尻尾がお気に入りのようで、お礼を言いに来た兎人族の尻尾をとっかえひっかえ撫でまわしている。

 

 まるでセクハラ親父のような所業だが、兎人族たちもシアニスの犬耳と尻尾をもふもふしているのでおあいこか。

 自分たちとは文字通り毛色が違って気になるようだ。

 

 シアニス本人は出された食事を美味しそうに頬張っていて、兎人族が纏わりついても全く気にしていない。

 少女と兎たちが戯れる、なんとも平和な光景だった。

 

「あらあら、ベルちゃんはゼーレさんを随分気に入ったのね」

 

「ちがっ、そんなんじゃないし」

 

 給仕として忙しなく働いていた母ララァに揶揄われて、ベルベットは慌ててシキから離れる。

 顔は第三の理由で赤みを増した。

 

「この子はこれでも槍術が得意なんですよ。たまに村へ来る冒険者が求婚してきても、自分より強い奴じゃないとやだって言って、村から叩き出しちゃうんですから」

 

「ほう……」

 

「だから本調子じゃない私に勝ったからって、勘違いしないでよね」

 

 あ、これは絶対再戦しないほうがいいやつだ。

 もし要求されても、のらりくらり躱すことを決めたシキである。

 

「それにしても、まさか北の山脈を越えて来たとは。翼人族以外では聞いたことがないですよ」

 

「というわけでこの辺りの土地勘は全くないんで、色々と教えて欲しいんだ」

 

 シキはリチャードから色々な情報を仕入れた。

 まずここはブレイル獣王国の北端にあるナディット村で、リチャードは獣王国の元貴族だという。

 

「獣王国という名ですが、亜人の割合は国民の六割程度で残りは人族です。私は司法に携わる一族の出なのですが、どうにも貴族社会が肌に合いませんで。趣味で薬師の真似事をしていたのですが、そちらの研究に没頭していました」

 

 ナディット村を訪れたのもその研究のためで、この周辺の森は希少な薬草が沢山採れた。

 最初は王都から通っていたのだが、薬師の研究にのめり込むうちに家からは見限られ勘当。

 

 帰る家を失ったリチャードを可哀そうに思った村娘ララァが、世話を焼いているうちに恋仲になり、そのまま住み着いたそうだ。

 余所者だが持ち前の人の良さと教養が評価されて、村長を任されるほど村に馴染んでいた。

 

「風土病の〈肺枯れ〉は不治の病ではありません。ただ希少な薬草を使うのと、群生地が〈地鳴らし〉の縄張りにあるので、常に不足していました」

 

「なるほど、それでコデューロが採りに行こうとしたのか」

 

「改めてお礼を言わせてください。息子を救って頂きありがとうございます」

 

「〈地鳴らし〉を倒してしまったから、魔獣の生息域が変わるかもしれないから気をつけてくれ」

 

「えっ、倒した?」

 

 てっきり無事に逃がしてくれただけだと思っていたリチャードなので、倒したと聞いて絶句してしまう。

 

「嘘よ。あの〈地鳴らし〉を倒せるわけないわ」

 

「姉ちゃん本当だよ。地面に埋まったかと思ったら頭がパーンってなったんだ」

 

「むぅ、よーし、じゃぁお姉ちゃんが明日確かめに行くからね」

 

「〈地鳴らし〉は筋肉亀(マッスルタートル)という魔獣が長生きした結果、巨大化して縄張りを得た個体です。確かに魔獣の生息域に変化はあるかもしれませんが、〈地鳴らし〉以外にそこまで強い魔獣はいないので、なんとかなると思います。むしろ縄張りにあった薬草が採りやすくなるので助かります」

 

「そんなに気になるなら、暫く村に残って魔獣の動きを見張っていきなさいよ。せっ、責任取りなさいよね」

 

「すまないが俺たちは目的があって北の山脈を越えて来たんだ。あまりここに長居することはできない」

 

「あらあら、フラれちゃったわね」

 

「だ、だからそういうんじゃないってば母さん」

 

 責任を問われると真面目なシキは弱ってしまう。

 ナディット村を小型情報端末で常に監視するわけにもいかないので、代替案を〈ショップ〉で探して……CRを使い購入した。

 シキがどこからともなく取り出したのは、ペンの形をした機械だ。

 

「森の生態系を壊したことは事実だ。これをベルベットに渡しておこう。これは緊急事態を伝える魔道具だ。もしこの先、ナディット村に危機が訪れた時は、先端のカバーを外してボタンを押してくれ。俺が駆け付ける。まぁ多少時間はかかるが」

 

 それは緊急ロケータービーコンと呼ばれるもので、いわゆる遭難時に救難信号を発信することができる端末だった。

 

「普段は家に置いておいて、持ち運ぶときはこのストラップに……聞いてるか?」

 

「えっ? ええ。聞いてるわ。私が危機の時に助けに来てくれるんでしょう?」

 

「いや、村のだからな?」

 

 シキが訂正してもベルベットは聞いていなかった。

 嬉しそうに顔をほころばせて、豊かな胸の前で緊急ロケータービーコンを大事そうに、両手で包み込むようにして持っている。

 

『そういうところですよ』

 

『ええ……』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。