精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

194 / 266
192話 露出度ナーフ

「本当にいいの? ベルちゃん。ゼーレさんについて行ってもいいのよ」

 

「私が離れたら村の守りはどうするのよ。ってか、だからそんなんじゃないってば」

 

 などと言いつつも、ちらちらとシキの様子を伺うベルベット。

 宴でもてなされた翌日、出立するシキたちをナディット村の皆が見送るために集まっていた。

 シキが言えばベルベットは本当についてきそうだが、もちろんそのつもりはない。

 

 結局シキは一度もパワードスーツ〈GGT-117 ゼーレ〉を脱がなかった。

 飲み食いどころか用も足さない怪しい鎧男なのだが、生命活動を補助する魔道鎧だと説明してあったので、純粋な村人たちは疑うことなく信じてくれたようだ。

 夜中は中身だけ転移してエンフィールド男爵家の屋敷に戻っていたが。

 

 昨晩は宴をだらだら続けたままの雑魚寝で、エルもシアニスも兎人族のもこもこの毛皮に包まれて幸せそうに寝ていた。

 それを見てゼーレとしてではなく、シキとしてナディット村に訪れればよかったなぁと、ちょっと真面目に後悔したシキである。

 

 シキたちは十年前にこの辺りを訪れたかもしれない、知人の女性エフェメラを探している。

 昨夜リチャードたちにそう説明した時のことを思い出す。

 

 設定としては以前に迷宮都市ムルザで再会した、元カドナ村の住人であるステナに伝えたものと同じだ。

 ナディット村は〈克己の逆塔〉から最寄りだったので、本当にエフェメラが生きていたならここを訪れている可能性があったが、リチャードは首を横に振った。

 

「十年前なら既に私もこの村で住んでいましたが、そのような方を見たことはないですね」

 

「そうか……なら他に変わったことはなかったか? 例えば、魔獣の縄張りが変わったとか」

 

「あーかげまいがいなきゅなったころね。むにゃむにゃ」

 

「え、なんて?」

 

 べろべろに酔っ払い、半分寝ていたベルベットが不意に呟く。

 ベルベットは胡坐をかいて座っているシキの上に乗り、首に両腕を回して抱きついている。

 

 堅い鎧なので抱かれ心地は悪いと思うのだが、酒で火照った体をひんやりした鎧に押しあてる気持ちよさが勝っているようだ。

 

「ああ、確かに〈影舞い〉の姿が見えなくなったのが、丁度十年ほど前ですね」

 

 〈影舞い〉というのは〈地鳴らし〉と縄張りが隣接していた蝙蝠型の魔獣で、真っ黒で影のような姿が飛び回ることから、〈影舞い〉と呼ばれていたそうだ。

 〈影舞い〉の姿が消えた後、その縄張りは〈地鳴らし〉に吸収されている。

 

「十年前に縄張りから姿を消した、空飛ぶ大型魔獣……」

 

『縄張りを追われた結果、〈克己の逆塔〉を通過してカドナ村近隣まで移動したという可能性はあります』

 

『うん、そうだね』

 

 背後で笑っている(目は笑ってない)オルティエが見えたので、シキはベルベットを起こさないようにゆっくりと引き離す。

 そして既に宴をリタイヤし眠るエルや兎人族たちの間にそっと埋めた。

 

 というのが昨夜の出来事だ。

 

「それじゃあまたね! ゼーレ兄ちゃん」

 

「おう、またな」

 

 元気よく手を振るコデューロたちに見送られてナディット村を出立する。

 

「さて、これからの予定だけど」

 

「昨晩リチャードから山脈で暮らす翼人族の村の場所を聞きましたので、小型情報端末を先行させました。結果はこちらになります」

 

 オルティエの説明と共に拡張画面に映し出されたのは、廃墟となった村だった。

 背景には荒涼とした山々があり、標高の高い場所なのだとわかる。

 

「村人がいなくなって数年は経過していそうだね」

 

「リチャードたちもここ数年姿を見ていないとのことですが、エフェメラ様が行方不明になった時期よりは後のようです」

 

「うーむ、翼人族は貴重な手掛かりだったんだけどなぁ」

 

「ですのでシアニスをこのままブレイル獣王国の王都へ向かわせ、座標を取得次第リファによる情報収集を開始します」

 

 リチャード曰く翼人族は代々王族の護衛としての役割を担っているそうだ。

 つまり王都に行けば翼人族がいるので、何か情報を得られるかもしれない。

 

「マスターはレドーク王国の王都にお戻りください。今日は授与式の衣装合わせの日です」

 

「そうだった、仕方ない帰るか。シアニス後はよろしくね」

 

「はい! ご主人様!」

 

 張り切るシアニスの頭をわしわしと撫でてから、シキはレドーク王国の王都へ転移した。

 

 

 

 

 衣装合わせは王城で行われる。

 下級貴族なら店へと出向くが、上級貴族や王族ともなると呼びつける側だ。

 

 数日前から馬車数台に大量の衣装を積んで持ち込み、王城の大ホール全体を使ってセッティングする。

 シキとエリンが登城すると、一緒に授与式に参加するウルティアとボガード司祭だけでなく、何故か枢機卿兼〈暴君聖女〉のロゼリアもいた。

 

「ウルティア用に精霊様の祭服を披露してくれるのでしょう? 同じ地神教の乙女としてデザインが気になるわ」

 

 かなり駄々をこねてついてきたのだろうか、ボガードが疲れた表情をしている。

 異世界でも女性はファッションに敏感なんだなぁと、妙な納得をしながらシキがオルティエを表示させた。

 

 神々しい雰囲気を纏ったオルティエが天井から降りてくる。

 今回の衣装は(High)教皇(Priestess)だ。

 

 名前の通りタロットカードモチーフの衣装で、現在ウルティアやロゼリアの着ている法衣をより豪奢にしたデザインになっていた。

 白を基調とした法衣に金の刺繍があしらわれ、頭にはミトラと呼ばれる大きな帽子を被っている。

 

 そしてソシャゲのコスプレ衣装なので、胸元や腰回りの露出が激しい。

 一歩間違えれば娼婦が着る扇情的なドレスに見えてしまいそうだが、そこはオルティエの人知を超えた美貌が上回り、芸術品のような美しさを醸し出していた。

 

『毎回モデル役をさせてごめんね』

 

『問題ありません。精霊としての権威を示すことは、使役者であるマスターの権威を高めることに繋がります。機会があれば率先的に行うべきでしょう』

 

 オルティエの言う通り効果は抜群のようだ。

 この場に居合わせている女性陣の誰もが、うっとりとした表情でオルティエを見上げている。

 

「そういえばドロシー様は今回いないんですね」

 

 新衣装のお披露目となれば、いつもなら真っ先に犬のように飛んでくる令嬢の姿が見えず、シキが周囲を見渡す。

 

「他の商会の針子もいますから、ドロシーは邪……前回の衣装の作成に専念してもらっています」

 

 会場を取り仕切るイルミナージェが、一瞬邪魔と言いかけたが取り繕った。

 

「なんて美しいのでしょう。ですが地神教の衣装として落とし込むには、布の面積を増やす必要がありますね。さすがに露出が……」

 

「あら、私はこのままがいいかしら。今の法衣を着て戦うと、裾や胸元が破れることがあるのよね」

 

 針子とロゼリアがそんな会話をしている。

 神気を拳に纏って悪霊を殴る〈暴君聖女〉的には動きやすくて良い、という評価のようだ。

 

 確かに豊満な体付きのロゼリアはともかく、ウルティアにこの衣装は早い。

 ウルティアはシキより四歳年上の十六歳だが、強力な加護の影響で成長が鈍化していて見た目はほぼ同年代だった。

 

 つまり子供体―――不意にシキの背筋に悪寒が走る。

 

「シキ、そんな隅っこにいないでこっちにおいで。私の衣装に意見が欲しいなぁ」

 

「おっ、お構いなく。俺はこっちでボガード司祭と自分の衣装を選んでるので」

 

 遠くで笑っている(目は笑ってない)ウルティアの誘いをやんわりと断り、ボガードの背中に隠れるようにして退散するシキであった。




*誤字報告ありがとうございます*
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。