精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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196話 神殿生まれのRさん

「なんで井戸?」

 

「奥様は表向きは病で亡くなったことになっていますが、実際は井戸に身投げされたのですじゃ」

 

「あー」

 

「しかもその身投げも、本当は第一発見者の側室が突き落としたのではないかという噂が」

 

「あぁー」

 

 これはもう日本でもお馴染みの、井戸から出てくるパターンじゃないですか。

 シキがそう思ったところで一つ疑問が生まれた。

 似たようなことを疑問に思ったのか、ウルティアが老執事に尋ねる。

 

「現れるのは当主の悪霊なのですか? 殺された正妻ではなくて」

 

「そうです。といっても見た目が男の悪霊というだけなので、当主様かどうかも怪しいのじゃが」

 

「早速出てくるわ」

 

 ロゼリアの警告を受けて皆が身構えると、がたがたと絵画が揺れた。

 もちろん誰も触っていない。

 

 それは背後の壁をすり抜け、掛けられた絵画を抱くようにして現れる。

 古めかしい貴族服を纏い、全身が半透明で青白い。

 頭髪は短いが生身の部分は木乃伊(ミイラ)のように枯れ果てているため、容姿の判別はつかなかった。

 

「これは……レイス?」

 

『はい、マスター。この個体は迷宮都市ムルザの〈星屑の迷宮〉で遭遇したレイスと酷似したエネルギー反応があります。ですが、それだけです』

 

「ここは私に任せて」

 

 武器を持たないロゼリアがレイスの前へと進み出る。

 何の気負いもない、ゆったりとした足取りだ。

 

「ohhhhhhhhh!」

 

 レイスの窪んだ眼窩が近寄ってきた美女を捉えた。

 低いうめき声を上げながら掴みかかろうとする。

 

「はっ」

 

 ロゼリアの軽い掛け声と同時に、空気を叩きつけたような、パン、という音が鳴り響いた。

 自然な姿勢で立っていたロゼリアが、いつの間にか腰を落とし正拳突きを放っている。

 

「あれ、レイスはどこいった?」

 

 ダンが消失したレイスを探して周囲を見回しているが、シキはそのおそろしく速い正拳突きを見逃していない。

 ナノマシンが脳内分泌に作用し、体感時間が大幅に加速していたおかげだ。

 

「ohhhh―――」

 

「ほっ」

 

 壁の向こう側まで殴り飛ばされてたレイスが戻ってきたが、今度はハイキックを側頭部に喰らって真横に吹っ飛んでいく。

 蹴りの風圧で〈暴君聖女〉ロゼリアの飴色の長い髪がさらさらと揺れた。

 

 ハイキックの姿勢のままぴたりと動きを止めているので、肉感的で白い美脚が剥き出しになっている。

 ロゼリアの法衣はスカートの左右に深いスリットが入っているのだが、こうやって蹴る時に邪魔にならないようにするためであった。

 

『ロゼリアの手足に微量ですが、圧縮されたエネルギーを感知しました。略称:ムハイとのエネルギー適合率は0.5%です』

 

「ふうむ……」

 

 それはつまり、神気を宿しているということだ。

 神気と分類されるエネルギー自体に善悪の区別はないので、ロゼリアが纏っていても何ら不思議はない。

 

 逆もまた然りで、ムハイは神気を宿した綿毛羊(フラフィーシープ)を捕食し取り込み、外様の神としての格を得ていた。

 他にもエンフィールド大樹海にある聖樹及び聖樹守り、そしてウルティアも僅かな神気を宿している。

 

 シキにはロゼリアの手足がぼんやりと発光しているようにしか見えなかったが、魔素を視認できる魔眼持ちのランディであれば、その神々しい輝きを眩しい程に感じていただろう。

 

「シキは見すぎ」

 

「あっ、すみません……」

 

 神気に注目していたつもりだったが、傍から見るとロゼリアの美脚を鑑賞しているみたいになってしまっていた。

 シキは急に恥ずかしくなって視線を外す。

 

「ロゼリア様もさっさと足を下してください」

 

「別に減るものじゃないし、見ていいのよ? そうやって恥ずかしがられると、妙にぞくぞくしちゃ―――」

 

「駄目ですってば」

 

「うふふ、冗談よ」

 

 そう言う割には頬を上気させ、艶めかしさが増しているロゼリアである。

 空気を読まずにレイスが再度襲い掛かったが、もはや相手ではない。

 

「ohhhhaaaaaa―――」

 

「はァ!」

 

 三撃目は掌底だ。

 腰だめにして放たれた掌が、レイスの腹に突き刺さる。

 ロゼリアの細腕がレイスの背中から飛び出すと、半透明の体が霧が晴れるようにして爆発四散した。

 

「ふう、倒したわ。強さは並みのレイスと同じくらいだったかしら。それでも一般人からしたら脅威だけれど」

 

「私の出番がありませんでした」

 

 珍しくアルネイズが愚痴をこぼしている。

 シキが加護の新しい使い方を提案してからまだ日は浅いが、何か新技を習得したのかもしれない。

 

 老執事は一方的な展開に終始圧倒されていた。

 少し間を置いて、ようやく因縁の相手が滅んだと理解する。

 力が抜けて杖を取り落とし、その場に崩れ落ちそうになったところで傍にいたダンに支えられた。

 

「顔はさすがにわかりませんでしたが、あの服は先々代の当主様のものだと思い出しました。現当主様に代わってお礼申し上げますじゃ。ありがとうございました」

 

 忠義を誓う主と父親の仇という相反する感情から、老執事は五十年の歳月をかけてようやく解放されたのであった。

 

 ルトラ伯爵家の屋敷を去ったシキたちは、その後も心霊スポットを何ヵ所か巡る。

 通過すると馬車の窓に子供の手形が付くトンネル、付けると外せなくなる仮面、座ると死ぬ椅子、etc……。

 

 それらは噂になっただけで実害のないものだったり、出てきてもレイスより格下の弱い悪霊だったり。

 ロゼリアの拳でさくっと祓われたため、他の面子の出番は一切ないまま終了した。

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