精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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203話 キークエスト

 冒険者の階級は実力に見合ったものでなければならない。

 もし何らかの手段で実力以上の階級を得たとしても、実力が伴わなければ依頼はこなせないだろう。

 

 すぐに化けの皮は剥がれるが、依頼失敗による被害と信用の低下は避けられない。

 逆もまた然りで、低級冒険者の狩場に中級以上の冒険者が居座れば、低級冒険者の収入や成長の機会を奪うことになる。

 

 つまり、冒険者ギルドは冒険者の階級を適切に、且つ迅速に調整し維持しなければならないのだが……。

 

「採取依頼、十件終わりました」

 

「にゃにゃっ」

 

 シキがヤチヨの担当するカウンターに紙束を乗せる。

 それらはすべて薬草の採取依頼書で、既にギルド内の解体所で現物を引き取った証となる、受領印が押されていた。

 

「え、本当に全部終わったのにゃ? 依頼を受けたのが一昨日(おととい)なのに? 野宿しながら全ヵ所回るだけでも五日はかかると思うけど」

 

「はい。なので可能な限り走ってました」

 

「にゃぁ」

 

 状況が飲み込めずヤチヨは放心状態(宇宙猫)になる。

 一部は〈ユニット転送〉による転移を使用したものの、目的地に辿り付いたという証拠を残すために、通行人がいる区間はちゃんと走った。

 

 だからシキは嘘を言ってはいない。

 

 薬草の採取依頼は徒歩での移動を基準で、早朝に出発して早ければ昼過ぎ、遅くとも夕方には戻ってこれるような設定になっている。

 通常なら一日一件、採取地点が近ければ寄り道して二件こなすのが精々だ。

 

 ではシキのように二日半ほどで十件回ることは不可能だろうか?

 理論上は可能である。

 

 早馬並みの速度で採取地点に向かい、王都には戻らず真っすぐ次の地点に向かう。

 これを繰り返せば移動だけなら間に合うが、問題はまだある。

 

 採取地点に到着したからといって、すぐに目当ての薬草が見つかるわけではない。

 探して採取するのにも時間がかかる。

 

 また十件分の薬草を持ち歩こうと思うと、背負うタイプの籠で最低でも二つ分にはなる。

 通常荷物の他にそれを背負って走り続けるというのは、現実的ではないだろう。

 

 となると不正を疑わざるを得ない。

 

「ちょ、ちょっと待つにゃ」

 

 ヤチヨはシキの採取してきた薬草の状態を確認するべく、解体所へ向かった。

 

「ねえ、聞きたいんだけど」

 

「さっき受け取った薬草のことだろ? 来ると思ったぜ」

 

 解体所の職員曰く、採取された薬草はどれも新鮮で根が残っている状態だという。

 もし王都内の市場で買って誤魔化したのだとすれば、根は切り落とされ鮮度も落ちているはず。

 

「他の冒険者から買った可能性もないわけじゃないが、そんな都合よく買えないだろうし、薬草の状態からして全部同じ人間が採取したものだと思うぞ。荷物量についてもあのべっぴんメイドが次元収納持ちだったから問題ないな。スカートの中に次元収納を隠してたんだ。手を突っ込んだ時は眼福……おっとなんでもねぇ」

 

 オルティエのちらりと見えた生足を思い出して、鼻の下を伸ばした職員だったが、ヤチヨの鋭い猫目で睨まれて黙り込む。

 

「俺の勘だがあいつらは本物だと思うぜ。ギルドマスターには戻り次第報告したほうがいいな」

 

「うーん、わかったにゃ」

 

 ヤチヨとしても職員の意見に概ね納得できた。

 これは早急にギルドマスターに報告しなければ。

 

 また裏取りとして、昨日と今日で採取依頼を受けていた他の冒険者に、シキたちを目撃したか聞いておこう。

 少しでも情報の確度を上げておかないと、あのギルドマスターはうるさいのだ。

 そう考えながらカウンターに戻る。

 

「お待たせしました。採取内容の確認も取れましたので、受理させて頂きますにゃ」

 

「ありがとうございます。次はこっちの討伐依頼五件を受けるのでお願いします」

 

「にゃ、にゃんとっ」

 

 次の戦闘試験が二十日後に迫っている。

 シキはそれまでに第三位階に昇格するのに必要な依頼を、すべて終わらせるつもりだ。

 

 昇格するのに達成しなければいけない依頼は、採取が五件、討伐が五件、護衛が一件。

 これの二階級分なのでそれぞれ倍をこなす必要がある。

 

 幸いにも採取依頼は間口が広く、第三位階昇格に必要な依頼も第五位階の時点で受注が可能だった。

 問題は討伐と護衛依頼だが、こちらは第四位階冒険者と臨時パーティーを組めば、第五位階冒険者でも第三位階昇格用の依頼を受注することができる。

 

 第四位階昇格用の依頼は合計六日で終わらせた。

 残るは第三位階昇格用の討伐五件と護衛一件だ。

 

 ここからは臨時パーティーを組まなければならないが、既に目星はついていた。

 

「それじゃぁシキちゃん、よろしくね~」

 

「マスターに近づかないでください」

 

 馴れ馴れしくシキに抱きつこうとした馬人族の女だったが、オルティエが間に入って妨害した。

 冷たく言い放たれたわけだが、女が気にした様子はない。

 

「オルティエちゃんもよろしく~。あら、なんかひんやりしてて気持ちいいわね」

 

 そのままシキの代わりにオルティエに抱き着くと、その冷たい感触を堪能していた。

 

「ちょっとやめてよ。うちのスタナがすみません」

 

 スタナと呼ばれた馬人族の女の尻尾を掴み、引き剥がそうとしているのは、小柄な鼠人族の少女だ。

 名をセリーという。

 

「ねえ次元収納はどこに隠してあるんだい? 見ていい?」

 

「こらっ、リリやめて!」

 

 真っ黒なローブを纏った人族の女、リリがしゃがみ込む。

 そしてオルティエのスカートに頭を突っ込もうとしたので、セリーが大慌てで止めに入った。

 スタナの尻尾を左手で掴みながら、リリのローブの裾を右手で引っ張っている。

 

「あはは、相変わらず大変みたいですね。セリーさんは」

 

「見てないで助けてっ。貴方のメイドでしょ」

 

「おっとすみません。オルティエ」

 

 シキが声をかけると、オルティエは自分に抱き着くスタナの顎を押して剥がした。

 次にスカートの裾を掴みながら一歩下がると、バランスを崩したリリがべしゃっと冒険者ギルドの床に倒れた。

 

「「ちぇ~」」

 

 二人とも全く懲りていない様子だ。

 頑張って止めようとしていたセリーだけがぐったりしていた。

 

「オルティエって意外と自分のことには無頓着だよね」

 

「そうでしょうか? 日頃からシアニスやエルが抱き着いてくるので、スキンシップに慣れているというのはあるのかもしれません。はっ、もちろん異性には指一本触れさせません。私はマスターの所有物ですから」

 

 そう言うと無表情だったオルティエが、恥ずかしそうに頬を赤らめた。

 

「同性ならいいんでしょ? ならもっかい~」

 

「ねぇ、次元収納どこ?」

 

「だから二人ともやめなさい! シキさん、早く臨時パーティー申請をしてしまいましょう」

 

「はい、今日はよろしくお願いします」

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