精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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204話 蚯蚓狩り

 スタナ、セリー、リリは第四位階冒険者で、パーティーを組んで一年ほど経つという。

 三人がとある魔獣を狩っている最中、薬草を採取していたシキが近くを通りかかったのが知り合った切っ掛けだ。

 

 そして今日はその時と同じ場所に来ていた。

 そこは王都から丸一日歩いた距離にある草原で、奥には森が見える。

 

「シキさん!」

 

 セリーの警告と共にシキの足元が揺れる。

 シキが後方に飛び退いた瞬間に地面から飛び出したのは、巨大な丸太―――ではなく生物だった。

 

 胴体の直径は二メートル、全長は見えている範囲だけでも五メートルはあるだろうか。

 全体的に粘液でぬめり光沢を帯びていて、胴体より一回り大きい頭部がシキを見下ろしている。

 頭部にあるのは大きな口で、鋸のようなギザギザの歯が並んでいた。

 

 森林蚯蚓(フォレストリーチ)と呼ばれる魔獣で、その姿を端的に表現するなら巨大ミミズである。

 名前の通り森に生息する魔獣だが、討伐するために草原へおびき寄せていた。

 

「そのまま引き付けてください」

 

「了解です」

 

 森林蚯蚓が頭から突っ込んでくるので、シキは更に飛び退いて躱す。

 足元の地中に森林蚯蚓が潜り込んだので、背中を向けて走り出した。

 

 走る速度はあえて遅め。

 足元の振動が追いかけてきているのを確かめながらだ。

 三十メートルほど走ったところで立ち止まり、シキは丸い耳をそばだてているセリーの合図を待つ。

 

「もう少し…………今です!」

 

 三度シキが飛び退き、森林蚯蚓が地中から顔を出す。

 その目の前にいるのは、節くれだった杖を掲げたリリだった。

 

「万象の根源たるマナよ 寄り合う焦熱を束ねて 彼の敵を貫き溶かせ」

 

 詠唱により構成が展開される。

 そこに魔力を注ぎ込むことにより、魔素を媒介として事象が発現した。

 

 杖の先端から炎の槍が射出され、森林蚯蚓の胴体に突き刺さる。

 

「Gyuooooooooooo!」

 

 魔術 《火炎槍》が森林蚯蚓の胴体に穴を開け内部で燃え上がると、ゴムが焦げたような嫌な臭いが周囲に漂った。

 熱に弱い森林蚯蚓は地面に横たわると、暫く痙攣していたがやがて動かなくなる。

 

「おお凄い、一撃ですか」

 

「ふふん、じゃんじゃん持ってきたまえ」

 

 黒いローブ姿のリリが、ドヤ顔で薄い胸を張る。

 その台詞を聞いた訳ではないが、タイミングよくスタナが森から戻ってきた。

 

「おまたせ~」

 

 前傾姿勢で両腕を大きく振った綺麗なフォームで、こちらに向かって走ってくる。

 競馬場が似合いそうだなぁとシキが思っていると、手前で大きく跳躍。

 シキたちを飛び越えて着地した。

 

「あとはよろしく~」

 

「わかりました」

 

 スタナは大きく迂回して森に戻っていく。

 シキがスタナの跳躍した辺りに近づくと、地中を進む森林蚯蚓の振動が伝わってきたので、先ほどと同じ手順で倒した。

 

 スタナが森から釣り、セリーが音を聞いて合図し、シキがおびき寄せて、リリが仕留める。

 これがシキたちの森林蚯蚓討伐ルーティーンだが、本来であればもっと苦戦する相手だ。

 

 タイミングよく躱すのが難しいため、囮役は立ち止まらず走り続けなければならない。

 地上に出てきたところを一斉攻撃するのだが、出てくる場所もタイミングも選べないので、《火炎槍》のような大技を当てるのが難しかった。

 

 森林蚯蚓に食われればひとたまりもないし、胴体による薙ぎ払いも脅威である。

 普通の第四位階冒険者パーティーの実力だと、一日一体倒すのが精一杯だが、シキたちは半日で既に四体を倒していた。

 

「こりゃ楽でいいや。スタナだとタイミングよく躱せないし、セリーは体力が続かないし怖がるし。シキがうまく森林蚯蚓を持ってくるから、何度も魔術をぶっぱできて気持ちいいよ。ふへへ」

 

「ありがとうございます。俺が難なく躱せるのは、セリーさんの適切な指示のおかげですよ」

 

「ごめんなさい。私もおびき寄せに参加できればよいのですが」

 

「いえいえ、セリーさんは合図するのに専念してもらって大丈夫ですよ」

 

 責任感の強いセリーがしゅんとしている。

 シキが一番危険な役目を負っているからだ。

 

 だがシキはちょっと……いや、結構ズルをしていた。

 上空には護衛役の〈SG-067 エキュース・キャバル〉が非表示設定で待機していて、 小型情報端末が周辺状況をスキャンし監視している。

 

 スキャンデータはリリの後ろで待機しているオルティエにより精査。

 地中を進む森林蚯蚓の姿も緻密なレイヤー表示となって、シキの拡張視覚として映し出されていた。

 

 つまりシキは地中から突き上げてくる森林蚯蚓の姿が見えていたのだ。

 セリーの合図も助かってはいるが、はっきり言うとなくても躱せた。

 

 何なら合図より僅かに早く回避行動をとっていたりする。

 もちろん一生懸命教えてくれるセリーには言えないが……。

 

「次で終わりにしますか。五体も間引けば、そうそう森からは溢れないでしょう」

 

「だねい。にしても五体分の素材代か。運搬手数料を差っ引いてもウハウハだね」

 

 人類の版図である獣王国内であっても、魔獣が生息する危険地帯というのは存在する。

 この森もそうだ。

 

 基本的には縄張りとなる森から出てこないが、魔獣の生息数が増えたりすると溢れて外に出てくることもあるので、こうやって間引くのが冒険者の仕事である。

 森林蚯蚓の軟質な体はゴムの代替品として重宝するらしく、後で別に雇った運び屋(ポーター)が回収しに来る段取りになっていた。

 

 シキたちは次元収納、に偽装した Break off Online 仕様のストレージボックスがあるので、その気になればすべての森林蚯蚓を回収できる。

 ただしそんな大容量の次元収納があるとしたら、それは国宝級で大騒ぎになるだろう。

 

 なのでオルティエが持つ次元収納は、容量が籠二つ分程度という設定にしてある。

 それでも伯爵以上の貴族でないと調達できないような代物なので、シキの身分の匂わせに一役買っていた。

 

「スタナさん、戻ってこないですね」

 

「どこまで行ったかねぇ、あの馬娘は」

 

 シキがちらりとオルティエの顔色を窺うと、彼女は無言で頷いた。

 そしてセリーとリリの背後から、ボイスチャットで報告する。

 

『マスター、スタナですが森林蚯蚓ではない魔獣に襲われています。振り切ろうとしていますができず、そのままこちらに戻ってきます』

 

 シキの視界に広がる拡張画面が、小型情報端末で捉えた森の映像を映し出す。

 そこには必死に走るスタナと、背後から迫る魔獣の姿があった。

 

 スタナが全然戻ってこないので、耳をすませて森の様子を伺っていたセリーも異変に気が付いたようだ。

 

「スタナの足音と……これは!?」

 

「トラブルみたいですね。オルティエ」

 

「承知しました。マスター」

 

 オルティエがシキへ駆け寄り、スカートの前面をたくし上げる。

 股の間から出てきたのは一振りの剣で、シキは受け取ると鞘から抜き放つ。

 

 それは片手半剣(バスタードソード)と呼ばれている剣だ。

 大人なら片手剣よりやや長いくらいだが、子供のシキが持つと特大剣(グレートソード)のように見えた。

 

「次元収納は貴重品だから隠し持つのはわかるんだけど、出し方がエロすぎない?」

 

「みんなごめん~! 逃げて!」

 

 リリがぼやくと同時に、森からスタナが飛び出してくる。

 その背後には巨大な蜘蛛が迫っていた。




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