精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
魔剣〈流星砕き〉は〈星屑の迷宮〉では有名な剣ではあったが、正式な銘が付いたのはごく最近のこと。
シキが手に入れてからだ。
〈星屑の迷宮〉中層のとある階層守護者を倒すと、冒険者パーティーが何組も休息できるくらい広い安全地帯がある。
剣はその安全地帯の中央、隕鉄と呼ばれる大岩に半ばまで突き刺さった状態で、大昔から存在していた。
冒険者の誰かが刺したものなのか、それとも迷宮自身が用意したものなのか。
詳細は不明だったが、確かなことが一つだけある。
誰にもこの剣は抜けなかったということだ。
シキが「例の選ばれし者だけが抜けるやつだ」とテンションを上げたのは言うまでもない。
この隕鉄は魔力を帯びると強度が増す特性を持つ。
土台となっている隕鉄の大岩は、迷宮から常時供給される魔力によって強化されている。
つるはしで叩きつけても傷一つつかなかった。
なので剣を抜くには正攻法しかないのだが、いつまで経っても誰にも抜けない。
中層の安全地帯の目立つ位置にあることもあり、いつからかこの場所は〈隕鉄広場〉と呼ばれ、冒険者たちの待ち合わせ場所として使われるようになった。
何故誰にも抜けなかったか。
それは先に述べた通り、この剣は魔力を帯びると重量が増加していくからだ。
絶えず隕鉄の大岩から魔力が供給されているため、その重量はなんと30トン。
大人のゾウで10頭分、電車なら2両分の重さくらいあるのだから、人間が持ち上げられるわけがなかった。
ではシキの代わりに迷宮に潜っていたアリエたちがどうやって抜いたのか。
スプリガンを使ったのだ。
幸いにも〈隕鉄広場〉はスプリガンが直立できる程に天井が高かった。
この時点で重量が30トンあるなどとは判明していなかったが、アリエは折角スプリガンが入るのだし、力づくでやってみようと思い立つ。
フル装備のスプリガンで重量はおよそ20トン。
自重より重い剣だったが、引き抜こうとすると確かな手応えを感じる。
最終的に銃口を剣の鍔に引っ掛け、てこの原理を利用することによって引っこ抜けた。
もちろんスプリガンは非表示状態なので、傍からは側にいたアリエが抜いたように見えただろう。
魔力の供給源である大岩から外れた剣は、急激に軽くなっていた。
その後、迷宮の外へ持ち帰り詳しく調べた結果、重量が増す性質だと判明する。
ここでようやく、抜けなかったのは「ただ重かった」だけだと知ったのであった。
〈星屑の迷宮〉の管理者であるジョルジュ・アートリース伯爵はこの剣を〈流星砕き〉と名付け、国宝級の魔術具であると認定。
国宝級の魔術具は領主が買い取る法律になっている。
しかし以前にシキと「一点までは買い取りを免除する」と約束してしまったため、そのままシキのものとなった。
ジョルジュ・アートリース伯爵が変な約束をしなければよかったと、頭を抱えたとか。
〈星屑の迷宮〉の名物である剣が抜けたのだから、冒険者の間では大騒ぎ。
剣を抜いたアリエは一躍有名人となる。
黙ってれば美人だし、剣を抜くほどの
調子に乗ったアリエはそれを利用してシキに無茶難題を―――閑話休題。
アトルランで暮らす生物は必ず魔力を纏っている。
そして魔剣〈流星砕き〉は生物が纏う魔力に触れただけで、数十キロの重さになった。
意識して魔力を込めればあっという間に数百キロから数千キロになるため、扱いが非常に難しい。
とてもピーキーな魔剣であった。
シキもまだ魔力の調整がうまくいかず、目まぐるしく変動する剣の重量に振り回される。
それでも重力を利用した縦振りであれば、オルティエに負けない攻撃力を発揮していた。
ちなみにオルティエが使っている戦斧も、国宝級ほどではないが迷宮産の中では高品質のものである。
二本目の脚を切断された闇蜘蛛であったが、機動力は殆ど落ちていない。
切断箇所が左右の同じ位置だったので、それはそれでバランスが取れているのだろう。
目の前にいるシキを威嚇しながら、尻から蜘蛛の糸を放つ。
「スタナ、後ろ!」
「きゃっ」
狙われたのは背を向けて逃げるスタナだ。
セリーが警告したが間に合わず、抱えていたリリごと蜘蛛の糸に絡め捕られて転倒した。
闇蜘蛛は蜘蛛の糸を周囲に撒き散らす。
転倒したスタナが起き上がろうするが、その粘着性は強力だ。
藻掻けば藻掻くほど絡まり、抜け出せなくなっていた。
シキも蜘蛛の糸で近づけず、二の足を踏んでいるうちに闇蜘蛛は倒れたスタナの元へ向かう。
自身の出した糸が脚に張り付くことはないので、迂回して追いかけたシキよりも断然早い。
「くそっ、まずい」
これ以上は無理か。
シキが上空で待機する〈SG-067 エキュース・キャバル〉に援護射撃の指示を検討しだす。
当然セリーたちはそんな最終手段があることを知らないので、必死に抗っていた。
その抵抗の甲斐があって、逃げながら撃ち続けていたセリーの矢が、闇蜘蛛にようやくダメージを与える。
頭胸部で赤く光る八つの目の一つに突き刺さったのだ。
「Whooshaaaaaaaaaaaa!」
脚を切られても痛がる反応を見せなかった闇蜘蛛が、気門から空気を吐き出しながら苦しんでいる。
セリーたちの追撃は止まらない。
転倒したスタナの下敷きになっても集中を切らさず、魔術の構成を編み続けていたリリが魔術を放つ。
「万象の根源たる魔素よ
スタナの脇の下から伸ばした杖の先に、直径一メートルくらいの火球が生まれた。
それはまるで太陽のように
リリが杖を振ると火球は飛んでいき、闇蜘蛛の頭上で弾けた。
無数の火弾が闇蜘蛛の複数の目を焼き、腹部の産毛にも燃え広がる。
《火炎槍》より多くの魔力を込めた《爆裂火球》は、闇蜘蛛の魔術耐性を上回っていた。
「お待たせしてすみません」
皆の視界から外れていたオルティエは、
踊るように戦斧で連続回転斬りを繰り出すと、追加で脚を二本切断した。
さすがに堪らず闇蜘蛛の体が傾き、地面に倒れ込む。
「マスター、止めを」
「わかった」
シキは闇蜘蛛の傾いた側を足掛かりにして、腹部の上に飛び乗った。
蜘蛛の心臓は腹部の背中側にある。
魔剣〈流星砕き〉を両手で逆手に持ち、思い切り心臓を目掛けて突き下ろす。
同時に目一杯魔力を込めると、その瞬間に剣の重量は数トンまで増加。
ここまでくるともはや切れ味なんて関係ない。
高密度の質量兵器と化した剣は、闇蜘蛛の腹部を易々と貫いた。