精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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207話 真打登場

「「「「かんぱーい」」」」

 

 木製のコップを勢いよくぶつけ合うと、皆でその中身を一気にあおる。

 

「ぷはぁ、生き返るねぇ」

 

「無事に帰ってこれてよかった~」

 

「シキさんとオルティエさんがいなかったら、どうなっていたことか」

 

「いえいえ、皆で協力したからこその勝利ですよ」

 

 闇蜘蛛を倒したシキたちは、森林蚯蚓(フォレストリーチ)を含めた死骸を雇った運び屋に任せて、最寄りの街の酒場で祝杯をあげていた。

 

 未成年のシキだけ果実水で、他の皆はエールだ。

 アトルランに細かい法律があるわけでもないのだが、前世の常識に引っ張られて飲酒は避けているシキである。

 

「オルティエさんとも喜びを分かち合いたかったのですが」

 

「ありがとうございます。俺から皆さんが喜んでいたと伝えますよ」

 

 飲食のできないオルティエは不参加だ。

 貴族の晩餐ならメイドらしく背後で控えることも可能だが、ここは平民用の酒場。

 そんなことをすれば目立つし、周囲からしても迷惑だろう。

 

「いやぁ闇蜘蛛の素材も回収できたから、精算が楽しみだね。高級な魔術触媒を買おう。それにしても森の中で闇蜘蛛と遭遇して、よく外まで逃げてこれたね。森の奥まで入ったんだろう?」

 

「うっ、ごめん。でも違うの、聞いて~」

 

 責めるでもなく気になったことをリリがスタナに尋ねると、彼女は闇蜘蛛と遭遇した場面を語り始める。

 

「五匹目の森林蚯蚓を見つけて誘導しようとしたら、何故か近くに闇蜘蛛もいたの。だから決して森の奥には入っていないわ」

 

「ということは、闇蜘蛛が森の浅いところまで移動していたのですね」

 

「なんでそんなところに闇蜘蛛がいたんですかね?」

 

「ふぅむ、闇蜘蛛は森林蚯蚓も捕食するからね。我々が森林蚯蚓を間引きし過ぎたのかもしれない。獲物が少なくなって闇蜘蛛が森の奥から出張ってきて、折角見つけた獲物もスタナに横取りされて怒った、とか」

 

「「「…………」」」

 

 リリの推測を聞いて、黙り込む他の三人。

 今度はシキがセリーに質問する。

 

「四匹ってそんなに多い数なんですか? 普段から間引く依頼は出ているんですよね?」

 

「ペースとしては早いのかもしれません。普通は一日一匹だし、実は森林蚯蚓の討伐依頼って不人気なんですよね。地中に潜って戦いにくいので」

 

「そう言われると、この依頼を受ける冒険者パーティーって週に一組ぐらいかも?」

 

「ということは単純計算で、普段は四週間かかる間引きを半日でやってしまったんですね。前例……がないから冒険者ギルドも上限設定してないのか」

 

「結果うまくいったんだから、反省会はそのくらいでいいじゃない。それ以上は酒が不味くなるよ。ぷはぁ、おねーさんエールおかわり」

 

「そ、そうね。わたしもおかわり~」

 

 リリの景気の良い飲みっぷりを契機となり、改めて祝杯ムードに戻った。

 皆で注文した飲み物と料理で舌鼓を打つ。

 

 こうして下町の酒場に書き入れ時に入る経験がなかったので、シキは串焼きを頬張りながら周囲を見渡す。

 酒場はほぼ満席で、冒険者と一般市民の割合は半々くらいだろうか。

 

 誰もが楽しそうに酒と食事を楽しんでいるが、一部の男たちがシキの方をちらちらと見てくる。

 いや、正確にはリリたちを見ていた。

 

 酒場という場所柄、客層は男に偏っている。

 若い女性となると冒険者くらいしか出入りはなく、今日に限っては他に女性冒険者はいなかった。

 視線が集まるのもさもありなん、といった感じだ。 

 

「そんなに場末の酒場が物珍しいかい?」

 

「あ、いえ。てか場末って」

 

「大丈夫だよ、これだけ騒がしければ聞こえないから。というか聞こえても誰も気にしないさ。ふぅむ、やはりその立ち振る舞いや考え方からして平民ではないと思っていたけど、どこかの国の貴族なのかな?」

 

「リリ、冒険者相手に素性の詮索は駄目ですよ」

 

「おっと失礼。酔っ払いの戯言だと思って聞き流してよ。まぁ欲を言えば別に返事はいらないから、勝手に盛り上がるくらいは許して欲しいかな? 将来有望な若い男が現れたんだ。それに乙女としては粉をかけたくなるんじゃない? ねぇセリー」

 

「ええっ、いや、あの、私はその」

 

 セリーの顔が酒とは違う理由で赤くなる。

 それまでは一切顔色が変わっていなかったのだが、鼠人族で小柄な外見の割に酒豪のようだ。

 

「シキさんはオルティエさんのような人を従えているのですから、きっと私のような平民とは住む世界が違います、というか釣り合わないといいますか、もちろん求められたら応じるのは吝かではないですが」

 

「は~い、私は粉かけたいかな」

 

 目をぐるぐるさせながら早口で呟くセリーを遮ったのは、完全に出来上がっているスタナだ。

 赤ら顔でシキの隣にやってくると腕に抱きつく。

 慎ましくも柔らかい感触がシキの二の腕に伝わってきた。

 

「ぐぎぎ……」

 

「ん?」

 

 どこからともなく歯軋りの音が聞こえてきた気がしたので、シキはそちらに顔を向ける。

 すると嫉妬で目が血走った中年男性冒険者と目が合う。

 シキはそっと視線を逸らした。

 

「えっと、すみません。気持ちは嬉しいのですがそういった予定はなくてですね」

 

「まぁまぁ慌てなさんな。私たちは出会って間もないからね。これからお互いのことを知っていけばいいさ。引き続きパーティーを組んでくれるんだろう?」

 

「そのことですが」

 

「スタナぁ、色気が薄いよ何やってんの。シキが全然動じてないじゃぁないか」

 

「む~それならこれでどう」

 

「シキ君おまたせー」

 

 スタナがシキにしなだれかかろうとしたところで、背後から何者かに声をかけられる。

 その人物はシキの両脇に手を入れると、スタナから奪うようにして抱き上げた。

 

「あ~っ、何するのよ……っ!?」

 

 色仕掛けを邪魔されたスタナが振り返り文句を言おうとしたが、驚きで言葉が詰まる。

 そこにいたのはウェーブのかかった白銀髪が特徴的なゆるふわ美女だ。

 

 貴族軍人が着るような仕立ての良い泥濁(カーキ)色のブレザーとミニスカート姿。

 白のニーソックスと肉感的な太腿が作り出す絶対領域が眩しい。

 

「もう着いたの? 予定では明日合流じゃなかったっけ」

 

「そんなのシキ君に早く会いたいから、ちょっぱやで依頼を終わらせたに決まってるじゃない。あ、二人ともこっちよ、こっち」

 

「ちょっと、宿の手続きを途中で放り出さないでちょうだい」

 

「せめて自分の荷物くらいは持っていけ」

 

 ゆるふわ美女に呼ばれてやってきたのは、これまた絶世の美女二人だった。

 全員軍服姿だがそれぞれ細部が違う。

 

 一人はスカートではなくパンツとロングブーツを履いていた。

 翡翠色の髪をサイドアップにしていて、髪と同じ色の瞳は瞳孔が縦に長い。

 

 もう一人はロングコートを羽織り、足元は臙脂(えんじ)色の袴と草履が見える。

 長い髪を後頭部でまとめて垂らし、切れ長な瞳が凛々しい。

 その色はどちらもシキと同じで黒だ。

 

「こ、この方たちは?」

 

「紹介しますね。彼女たちはアリエ、セラ、スース。俺の仲間です」

 

 シキが真面目な顔で紹介する。

 

「すーはー」

 

「「「…………」」」

 

 しかしアリエが抱きかかえているシキの頭に顔を埋めて深呼吸しているため、そちらに気を取られてしまうセリーたちであった。

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