精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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209話 お姫様商隊

「この度は商隊の護衛を引き受けて頂き、ありがとうございます。わたくしはラトピア・スウズ・ブレイルと申します」

 

 恭しく一礼したのは、質素ながら上質なワンピースで着飾った可憐な少女……と思われる二足歩行の鼠である。

 

「お、お貴族様ですか!?」

 

 慌てて跪こうとしたスタナをラトピアが手で制した。

 

「貴族といっても末端ですから、畏まらなくて大丈夫ですよ。こうして商隊を率いているくらいですもの。わたくしのことは気になさらず、冒険者の皆さまはお仕事に専念してくださいまし」

 

 そう言ってスタナの手を取り、立ち上がらせる。

 鼠人族のラトピアは同族のセリーよりも小柄で、背丈はスタナの半分に満たなかった。

 

 ナディット村に住んでいた兎人族のベルベットとコデューロ姉弟もそうだったが、獣人は同族でも外見の個体差が激しい。

 セリーは耳と尻尾以外は人族のものだが、ラトピアは全体的に鼠と人族の中間のような姿をしていた。

 

 四肢は灰褐色の毛におおわれた鼠のそれだが、背筋はぴんと伸びて直立している。

 顔は鼠にしては平坦で、目や鼻といったパーツはデフォルメされくりっとしていた。

 

 シキの言葉で説明するなら「ネズミのマスコットキャラクターみたい。ねん○ろいどっぽい」である。

 

「スウズ、ということは七氏族の末裔の方ですかね」

 

「お、よく知っているね。でも少し誤解があるかな。末裔を示しているのはブレイルのほうだね」

 

 少し離れた所でやりとりを見ていたシキに、リリが説明する。

 

「スウズは確かに七氏族のうちの一つだね。でもそれはあくまで貴族の家名を表しているだけなので、末裔じゃなくてもスウズは名乗れるのだよ。嫁入りや養子なんかがそうだね。一方でブレイルは直系の末裔しか名乗ることが許されていないんだ。だから末端と言えどもその血筋はとても尊いものさ」

 

「へぇ、そうなんですね」

 

「七氏族とはブレイル獣王国を建国した七人の英雄の子孫たちのことです。かつてこの地は龍脈と呼ばれる巨大な魔素溜まりがあり、人の住める環境ではありませんでした。濃すぎる魔素が人体に悪影響を与えるだけでなく、その魔素を吸って強力な魔獣が生まれ人々を襲ったのです。七人の英雄は蔓延る魔獣を殲滅し、魔素が溢れる龍脈を地中の奥底に封じ込めました。そして誕生したのがブレイル獣王国です。建国以来七人の英雄の子孫がこの国の王族、貴族となり運営しています。国名にもなっているブレイルという名が、英雄の末裔である証というわけですね」

 

「お、おお、そうなんだ。教えてくれてありがとう、オルティエ」

 

「いいえ、マスターのお役に立てたのなら嬉しいです」

 

 リリに対抗してオルティエが長尺な解説を披露した。

 そういえばバルザの薬草講習の時も張り合おうとしていたなと思い出し、シキはオルティエを褒める。

 

 少しばかり取って付けたような賞賛になったが、当人は満足したようだ。

 無表情ながらもふんすと鼻息を荒くしていた。

 

「今回は三組の冒険者パーティーにお声をかけさせて頂きました。護衛の隊列につきましては、各パーティーリーダーの方が、向こうにいるわたくしの従者と打ち合わせをしてくださいませ」

 

 ラトピアに促されてシキが移動を始めると、こっそり展開している小型情報端末が彼女の独り言を拾った。

 

『もう、本当はライカちゃんを誘いたかったのに、最近は迷宮に籠りっぱなしなんですもの』

 

 シキはこっそり側に控えているオルティエとアイコンタクトを交わす。

 向かった先には既にラトピアの側近と他のパーティーリーダーたちが待機していた。

 

 一人は見知った顔のセリーで、もう一人は狼耳を生やした狼人族の男だ。

 細身だが筋肉質でがっしりしていて目つきは鋭い。

 男はシキを見るなり顔を顰めた。

 

「てめぇが噂のハーレム小僧か」

 

「ええと……」

 

 自覚はあるものの、素直に頷きたくないシキである。

 

「冒険者として相応の実力があるなら、女だらけだろうがハーレムだろうが文句はねぇ。ただ依頼の邪魔にならないよう群れの管理はちゃんとしろ。それだけだ」

 

 男はシキの反応を待たずに一方的に言い放つと黙り込み、従者に説明を始めるよう視線で訴えた。

 

「それでは説明します」

 

 シキたちが護衛するのは、ラトピア・スウズ・ブレイルが率いる〈ラピア商会〉の商隊だ。

 目的地はブレイル獣王国北部にある開拓村。

 

 目的は支援物資の運搬が半分、現地開拓民との売買が半分である。

 オルティエがシキの拡張画面に地図を表示させると、ナディット村から南西に下った位置に目印となる赤い光点が灯っていた。

 

 開拓村と呼ばれている通り獣王国北部の開拓を進めていて、スウズ族が主導して行われている公共事業である。

 ブレイル獣王国に限らずだが、この神無き大陸に未開の地は多い。

 平地はともかく一歩森林に踏み込めば、闇蜘蛛や森林蚯蚓といった脅威が跋扈する。

 

 各氏族は各々のやり方で国の繁栄に加担している。

 ラトピアもその一人で、自ら率先して現地で活動する珍しいタイプだった。

 

「皆様には商隊の前後、そして中間で隊列を組んでもらいます。道中は野盗も警戒して頂きますが、目指すのは開拓地ですので、次第に魔獣の相手が主となるでしょう。ですがご安心ください。街道はニオウ族が巡回し安全が確保されていますので、そうそう戦闘になることはないでしょう。だからといって油断はしないでくださいね?」

 

「わかりました」

 

 後半は国民ではないシキに向けられた発言だったので、素直に頷いた。

 若干フラグっぽいなぁとは思ったが黙っておく。

 

 各パーティーの配置は、半日毎にローテーションで変更することが決定。

 最初は先頭がセリー、中間が狼人族の男、最後尾がシキたちのパーティーという配置で出発した。

 

 

 

 天気は快晴。

 合計六台の馬車の速度は人の早足程度なので、シキたちは徒歩で追従する。

 アリエたちの美貌は目立つため、フード付きのローブを羽織って誤魔化していた。

 

「片道三日の徒歩の旅ね。こうやってシキ君と長時間一緒にいられて、お姉さん嬉しいわ」

 

「旅じゃなくて護衛依頼だから。索敵に抜かりはないのはわかってるけど、傍から見てサボってるように思われないようにね」

 

 周囲を警戒する振りをしながら、シキは自動操縦で上空に浮かぶ〈SG-068 アリエ・オービス〉にも視線を向ける。

 もちろん非表示なので関係者以外には見えていない。

 

 小型情報端末も射出展開済みで、取得情報はオルティエが随時監視している。

 他の機体はエンフィールド大樹海の防衛ラインに配備してあり、もし大型魔獣の侵入があった場合は、シキが〈搭乗〉でパイロットたちを転送する段取りになっていた。

 

 大型魔獣の侵入頻度は、一日に一度あるかないか程度だが……。

 

「スース」

 

「くっ、かわや……お花を摘みに行ってきます。すぐ追いつくので先に行ってください」

 

 オルティエに声をかけられたスースが、悔しそうに宣言して隊列から離れる。

 コアAIはトイレに行きませんが、という捨て台詞を小声で残して。

 

 どうやらスースの防衛地点に大型魔獣が現れたらしい。

 スプリガンの手にかかれば、大型魔獣もトイレをすますくらいの短時間で殲滅可能である。

 

 相変わらず昔のアイドルみたいな物言いだなぁ。

 などと考えつつ、シキはスースの姿が完全に草むらに入ったところで〈搭乗〉コマンドを使用。

 エンフィールド大樹海へと転送した。

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