精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
ラトピアの従者の言う通り、開拓地までの道中は安全……とはならなかった。
「やっぱりフラグだったかぁ」
シキは連なった馬車の中間、三台目の屋根に飛び乗り前後を見渡す。
どちらからも野盗が現れ、戦闘が始まっている。
現在の配置は先頭が狼人族の男、最後尾がセリーたち。
フォローのためにシキはセラとスースを前後に派遣している。
「これはやはり、妨害を受けていますわね」
難しい顔をしたラトピアが、馬車から身を乗り出し前方を見つめていた。
「顔を出したら危ないですよ」
「あら、昨日のようにシキ殿が助けてくれるのではなくて?」
「もちろん助けますが……」
野盗の素性といえば身持ちを崩した一般人、と相場が決まっている。
つまり農民や冒険者になれず失敗したような落ちこぼれなので、個の戦力は低い。
数が多いため厄介ではあるが、三組の冒険者パーティーを相手にできるほどではなかった。
「また捕まえて取り調べしますか?」
「そうですね。お願いします。今回も新しい手掛かりは得られないのでしょうけれど」
王都を出発して二日目の昼。
目的地までは行程の半分を過ぎた辺りだが、既に三度の襲撃を受けていた。
今回で四度目だ。
さすがにおかしいので、一度は引き返そうかと考えたラトピアであったが、
「野盗如きいくら出てこようが俺たちの相手じゃねぇ。お前らもこの程度で尻尾丸めるわけねえよなぁ?」
と言うボーグ―――狼人族の男の発言にセリーもシキも同意し、護衛依頼は継続していた。
シキとしても護衛依頼が中止で終わってしまうと困るので、反対する理由はない。
「ニヤニヤして余裕じゃねぇか、小僧」
「ええまぁ、余裕はありますね」
シキがニヤニヤしていたのはボーグが、群れとか尻尾を丸めるとか、言葉の端々に狼要素を入れてくるのが面白いからだ。
もちろん真実は言えないので誤解させたままにしておいた。
ただ誤解の内容に誤りはなく、余裕があるのも事実。
その証拠にスプリガンたちはまだ一人も野盗を殺していない。
セラとスースは王都で調達した数打ち品の片手剣を、鞘から抜かずに使用している。
不揃いな得物を構えて襲い掛かる野盗共を、鞘による峰打ちで倒していく。
可能な限り人殺しはさせたくない。
シキの我儘だった。
「相変わらず甘めぇな」
大きな曲刀で野盗を斬り伏せたボーグが、隣で戦うセラを見て鼻先に皺を寄せる。
「小僧の言いつけを守って敵に情けをかけるってか。そういう油断が命取りになるんだぜ」
「油断? これは余裕よ。私たちの実力はもう知っているでしょう。それに群れのボスの命令は絶対よ」
「はん」
面白くなさそうにボーグは悪態をつきながら、別の野盗を斬り裂く。
ボーグたちのパーティーは五人組で、全員が家族だという。
一番狼要素の強いのが祖母で、次が息子のボーグとその嫁。
孫二人のうち姉が祖母に似て狼要素が強く、弟はボーグと同じくらいだ。
家族というだけあって連携はお手の物。
ボーグを中心にして野盗たちを順調に屠っていた。
最後尾ではスースとスタナが前衛、セリーとリリが後衛となって戦っている。
スタナは装備したバックラーで野盗の攻撃をいなし、隙が出来たところをショートソードで喉元や脇腹を突く。
堅実で安定した立ち回りを見せていた。
先の討伐依頼では活躍の機会がなかったスタナであったが、面目躍如といったところだろうか。
その隣ではスースがスタナと足並みを揃えながら、鞘で野盗を叩きのめしている。
時折、矢だけでなく魔術 《火球》も飛んでくるが、どちらも余裕で斬り払う。
後ろで弓を構えているセリーが驚きで目を丸めていた。
リリは魔術を撃つ魔力がもったいないと言って応援モードだ。
「妨害してくる相手に心当たりはないんですか?」
「聞きたいですか? 聞くと後戻りできなく……きゃっ」
ラトピアに向かって飛んできた矢を、シキが素手で掴み取る。
「うーん、なら聞かないでおきます」
「冗談ですよ。国民なら誰もが知っている噂ですわ。落ち着いたらお教えしましょう」
直後に指笛の音が鳴り、それが合図となって生き残った野盗が撤退を始めた。
自分の命と釣り合うかどうかが、野盗の損益分岐点である。
今回の獲物は物資に加えて上玉の女たちがいるため、野盗のリーダーはギリギリまで粘ったようだ。
しかしそれが命取り。
上玉の女たちは特大の地雷である。
既に戦線は崩壊していたため、野盗たちは逃げる余裕もなく倒されていく。
いや、街道脇の森から矢を放ったリーダーだけは逃げる時間があった……はずだった。
自分の命
「シキ君。それっぽいのを捕まえてきたわ」
「ありがとう、アリエ」
矢の飛んできた森からアリエが出てきた。
気絶した男を引きずりながらだ。
戦闘は終了し、野盗の死体はリリが魔術で地面を掘った穴に埋める。
生きている者は治療せずに荒縄で拘束し道端に並べた。
運が良ければ死ぬ前に巡回しているニオウ族―――牛人族で四本足らしい―――に回収されるだろう。
ただし回収後はよくて奴隷落ち、普通で極刑である。
道端に転がされる悪党は珍しいものでもない。
もし通行人がいても近寄って助けたりはしないだろう。
「マスター、残党はいません」
周囲を偵察してきたオルティエが、小型情報端末で索敵した結果を報告する。
「貴女、森の中をメイド服で動き回ったのに、木の葉ひとつくっつけていないなんて凄いですわね」
「お褒めに預かり光栄です。これもマスターに仕えるメイドの嗜みです」
「まぁ、シキ殿は優秀な家臣をお持ちなのね」
オルティエはラトピアの賞賛を受け取りつつも、シキとの主従関係のアピールを忘れない。
物理判定をオフにして走り回っていたので、木の葉どころか幹や枝の干渉すら受けていない、というのが真実だ。
「ボーグ、また尋問を頼めるかい? 私たちがやってもご褒美にしかならないからね」
「ふん、言ってろ」
リリの軽口をボーグが一蹴した。
柄は悪いが冒険者としては真面目なのがボーグである。
気絶している盗賊のリーダーを蹴って起こすと、すぐに尋問を始めた。
*誤字報告ありがとうございます*