精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

215 / 267
212話 無欲系主人公

「にゃー」

 

「はい。次はバイフ家の……」

 

「にゃー」

 

「承知しました。それでは明後日の夜、例の場所で待機しています」

 

 猫と女は打ち合わせをして解散した。

 映像では猫はにゃーにゃー鳴いていただけだったが、女と意思の疎通ができているようだ。

 

 身近なところだと白銀狼のガルムが、テレパシーのように脳内へ直接語り掛ける能力を持っている。

 それと似たような能力なのだろうとシキは想像する。

 

『あのサビ猫が〈銀猫〉だったのか。全然銀色じゃないね』

 

『マスター、立ち去った配下の女が銀髪の猫人族でしたので、そちらから〈銀猫〉と名がついたようです』

 

『そうだったんだ。フード被ってたからわからなかったな』

 

 〈銀猫〉の情報源は、王都に住む野良猫たちなのであった。

 あのサビ猫が各地の野良猫から情報を収集し、猫人族の女を使って情報を売っていたのだ。

 

 その後の女とサビ猫の足取りを映像ログで追いかけた結果を、オルティエが報告する。

 

『情報料は野良猫を支援している団体に寄付され、エサ費用として野良猫たちに還元されているようです』

 

『へぇ、そんな現代的な団体があるのか。野良猫というか地域猫だね。報酬の使い道は健全というか、ほのぼのというか』

 

『またいくら神出鬼没な野良猫といえども、得られる情報に偏りがあります。なので他の情報屋から買った情報も流して偏りを目立たなくしています。おそらくサビ猫に辿り着いた者は私たち以外にいないでしょう』

 

『おお、さすがスプリガンだ。そんな〈銀猫〉の真相に辿り着くなんて。リファたちも情報屋をやったら儲かりそうだね』

 

『情報の売却による金銭効率はあまり高くありませんが……いえ、これまでは受動的な情報収集に限られていましたが、能動的に情報操作できるようになれば、金銭はともかく情報精度の向上は約束されるでしょう。情報屋の開業を了承頂けますか? マスター』

 

『もちろんいいよ』

 

 この瞬間、情報屋〈群れ鼠〉が誕生したのであった。

 近い将来〈銀猫〉とは熾烈な情報戦を繰り広げることになる。

 

 

 

 

 明くる三日目は盗賊の襲撃もなく、夕暮れを迎える前に開拓地に到着した。

 名前の通り開拓地はまだ村の手前といった様相だ。

 

 ラトピアも所属するスウズ族に雇われた男たちが中心になって、森を切り開き、畑を耕し、家を建てている。

 運んできた支援物資は開拓に必要な資材と食料。

 商品は開拓者たちを慰めるための、酒や煙草といった嗜好品だ。

 

「開拓者へ支払う給料を、嗜好品を売って回収してるのか。よくできてるなぁ」

 

「あらいやですわ。価格は良心的にしてますのよ」

 

 僻地価格にしてはですが、と小声で付け足しながらラトピアがほほほと笑う。

 これから開拓地の責任者と打ち合わせをするということなので、冒険者パーティーの各リーダーも参加することになった。

 

「魔獣の出没が増えているのですか?」

 

「そうなんでさぁ。開拓団で雇ってる冒険者で捌ききれなくなってきやした。森の奥の大型魔獣の縄張りに変化があったのかもしれねえ、ってんだろう?」

 

 開拓団の責任者の男が、隣の男に話を振る。

 彼が雇われている冒険者らしく、頬に古傷を付けたその男は把握している情報を説明した。

 

「灰色狼や剣角鹿といった弱い魔獣の姿を見ることが多くなった。森を切り開いているから普通は森の奥に逃げていくんだが、最近は逆に森の奥から逃げてくるようになった。つまり俺たち人間より怖いものが森の奥にいるということだ」

 

 魔獣の生態系は繊細なんだなぁと、他人事のように聞いていたシキであったが……。

 

「それで俺は単身で森の奥へ確かめに行った。そこにいたのは、空を飛ぶ真っ黒な影だった」

 

「……うん?」

 

「そいつを表現するには影としか言いようがない。恐ろしい速さで木々の間を飛び回っていて、目で追うのがやっとだった。戦う気にはならなかった。俺はすぐに逃げた。アレがこの辺りの主に違いない」

 

『マスター、小型情報端末が〈影舞い〉を捕捉しました。どうやら縄張りを広げているようです』

 

「あー」

 

 〈影舞い〉というのは、ナディット村の周辺を縄張りにしている蝙蝠型の魔獣のことだ。

 この開拓地からナディット村は割と近いため、どうやら〈影舞い〉の縄張りの範囲でもあるらしい。

 

 少し前までナディット村周辺は〈地鳴らし〉という魔獣の縄張りだったが、襲われていた村人のコデューロを助ける際に倒してしまった。

 その後釜に収まったのが、隣接した縄張りを持っていた〈影舞い〉である。

 〈地鳴らし〉と違って〈影舞い〉は縄張りを広げることに貪欲らしい。

 

「どうかしましたの? シキ殿」

 

「いえ、なんでもないです」

 

 不可抗力ではあるが開拓地に悪い影響を与えてしまったことに、気まずさを感じてしまうシキである。

 打ち合わせが終わり自分たちの天幕に戻ると、シキはオルティエに相談した。

 

「〈影舞い〉をこっそり倒したらまずいかな?」

 

「短期的には解決しますが、長期的には良い手段とは言えません。別の大型魔獣がやってくる可能性がありますので」

 

「ううむ、その後もずっと俺たちで守る、ってのも違うよね」

 

 シキはスプリガンという絶大な力を持っている。

 その気になれば世界征服だってできるかもしれないが、当然そのつもりはない。

 

 シキが望むのはエンフィールド辺境伯領、及びスプリガンたちの安寧である。

 「高い地位(ノブレス)には義務が伴う(・オブリージュ)」とは言うが、どこまで弱者を守るという義務を負うかは、線引きが必要だ。

 

 義務を全うするためにスプリガンを犠牲にするのは本末転倒。

 そんなことをするくらいなら、利己主義者(エゴイスト)と責められても構わないとシキは思っている。

 

 オルティエからすれば他人を助けるために悩んでいる時点で、シキは全く利己的ではないのだが。

 というか他人のことばかりに気を使って、自身の望みを全く言わないのがシキである。

 

 本人はエンフィールドとスプリガンの安寧だとか、エフェメラの捜索だとかで我儘を言っているつもりのようだが、勘違いしている。

 それこそただの義務であり、果たした義務によって生じた権利をシキは行使していない。

 

 強いて言えば前世の記憶に引っ張られて、美味しいものに興味があるくらいだろうか。

 だがそれも現状あるもので満足してしまっている。

 

 マスターはもっと欲を出してほしい。

 

 ()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()

 間もなく声変わりも始まることだろう。

 

 性欲は心配になるくらい無いが、これも前世の記憶の影響を受けているのか、忌避しているようにさえ見える。

 まぁこちらはシキが Break off Online のシステム上で成人扱いになる、十八歳になってからが勝負だ。

 

 それまで変な虫がつかないようにさえすれば、あとは―――

 

「オルティエ、どうかした?」

 

「―――失礼しました。〈影舞い〉は倒さずに、前の縄張りに戻ってもらいましょう。倒してしまうよりも、そのほうが森の秩序は長持ちします。元の状態に戻してあとは開拓団に委ねる。という線引きでいかがでしょうか」

 

「そうだね、それがいいかな。でも縄張りを戻すことなんてできるの?」

 

「はい、お任せください。成功例は既に一件、ありますから」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。