精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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214話 謎のルーキー

 場所は王都の冒険者ギルド。

 二階にあるギルドマスターの執務室で、一人の男が仕事をしていた。

 

 白髪をオールバックにした壮年の牛人族で、分厚い筋肉に覆われた巨体を小さく畳んで事務机に向かっている。

 男が集中して仕事をしていると、不意に窓が開いた。

 

「よいしょっと」

 

 窓から部屋に侵入したのは、真っ黒なローブを纏った人族の女。

 第四位階冒険者のリリである。

 

「おかえりなさいませ。カルナノーラ様」

 

「ただいま。バロウ」

 

 バロウと呼ばれた男が視線を動かさずに声をかける。

 リリも返事をして自分の席―――ギルドマスター用の椅子へと向かう。

 

 その間にリリの姿が変化する。

 黒髪は金髪に、黒いローブは明るい灰色に。

 背が少し伸びて、顔つきも若々しいものから、大人びた妙齢の美女へと変化する。

 

 リリというのは仮の姿。

 その正体はギルドマスター兼、現役の第一位階冒険者〈後見(うしろみ)の魔女〉カルナノーラであった。

 

「ふう、久々にリリの時間が長くて疲れた」

 

「それで例の新人はどうでした? 何か素性は掴めましたか?」

 

「うーん」

 

 そのままカルナノーラが黙り込んでしまったため、バロウが机から頭を上げて振り向いた。

 カルナノーラは時折リリの姿で市井に潜り込んでいる。

 そして権威者の立場ではわからない現場の情報を仕入れていた。

 

 冒険者ギルドの運営を円滑に行うための仕事の一環である。

 その間の事務仕事はサブマスターのバロウに任せて……。

 

 最近はセリーのパーティーに兼業冒険者という形で、不定期に参加していた。

 〈ラピア商会〉の商隊の護衛依頼は無事に完了。

 一日休養を挟んで窓からの重役出勤である。

 

「具体的なことは何もわからなかったね。他国の上流階級なのは間違いないけれど、どこの国かはわからない。強いて上げれば商業都市なんだけど、いまいちしっくりこないんだよ」

 

「踏み込んで聞かなかったのですか?」

 

「シキが侍らしている女どもの圧がすごくてね。本人はのほほんとしてるんだけど、迂闊に近づこうものなら女どもが殺気を放ってくるのさ」

 

「第一位階冒険者のカルナノーラ様が気後れするほどですか? ワイバーンですら子犬みたいにじゃれつかせてから仕留める貴女が」

 

「言うようになったじゃないかバロ坊。孤児のあんたのおしめを替えてやったのは誰だっけ?」

 

「……」

 

 揶揄うように言われて、バロウが口をつぐむ。

 〈後見の魔女〉カルナノーラは、今年五十歳になるバロウが赤ん坊の時、いや、それよりも昔からギルドマスターとして君臨している。

 

 彼女の本名はカルナノーラ・レンド・ブレイル。

 ブレイル獣王国建国の祖である七氏族のうちのひとつ、レンド族直系の娘だ。

 

 人族の英雄を祖に持つレンド族の中でも、特に優秀だったカルナノーラは瞬く間に第一位階冒険者へと登り詰める。

 カルナノーラが持つ特別な加護の影響もあり、人族を超越した寿命を得ていた。

 

「とにかく底の知れない女どもだったんだよ。あれは実力を隠してるね。全員が不自然なほど魔力が薄いし、魔術も一切使わなかった」

 

 その真相はスプリガンは魔力を纏わないし、魔術も使えない、である。

 しかしアトルラン生まれのあらゆる物質は魔力を持つため、何かしらの装飾品や武器を身に着けていればカモフラージュが可能だった。

 魔力を視覚化できる魔眼持ちの〈雷霆〉ランディでもない限り看破はできない。

 

「素性はわからずじまいですか。では目的の方はどうですか? 第三位階冒険者を目指す理由である、迷宮探索以外に何かありそうですか?」

 

「うーん、そっちもそれ以外にはなんにも。ああ、迷宮の遺産であろう魔剣は持ってたよ。性能の癖が強いが、あれは間違いなく国宝級だ」

 

 カルナノーラがシキの魔剣〈流星砕き〉の説明をすると、バロウは眉間に皺を寄せた。

 

「そんな大層な性能を持つのに、初めて名を聞く魔剣ですね。いよいよどこの者かわからなくなってきました。相応の実力や武器を持っていれば、嫌でも有名になるものですが」

 

「冒険者証も残念ながら普通の仕様だったからね。少なくとも登録時は一般人扱いで、碌に活動してなかったんだろう」

 

 冒険者証には隠された追加機能がある。

 表向きは氏名と階級、そして本人照会用の血液登録だ。

 

 実はその他に登録したギルドや受注した依頼内容、更にはおおよその現在位置まで把握できる機能を冒険者証に付与できた。

 だが追加機能を付与するには相応の費用がかかる。

 

 すべての冒険者証に付与は不可能なので、冒険者ギルドとして動向を監視したい冒険者にだけ密かに付与していた。

 これは冒険者ギルド内でも上位の者しか知らない最重要機密である。

 

「いずれにせよ彼らは悪人ではないよ。それは私が保障する。むしろ変なのに絡まれて大事にならないよう調整してやったほうがいいね。特に王族は駄目だ。シキは人族だから取り込まずに排斥に動くだろう。今日の戦闘試験で順当に第三位階冒険者になるだろうから、他の氏族と連携して―――」

 

 そう言いかけたところで、扉が激しくノックされる。

 

「ギルドマスター! いらっしゃいますか!?」

 

「どうしました? ヤチヨ。そんなに慌てて」

 

 バロウが扉を開けると、走ってきたのか肩で息をしているギルド職員のヤチヨがいた。

 

「と、突然第一位階冒険者のリオン様が現れまして、戦闘試験の試験官の役を受け持つと仰いました。そしてシキさんが……」

 

 思わずカルナノーラとバロウは顔を見合わせる。

 

「訓練場に急ぎましょう」

 

 三人で急いで冒険者ギルド内にある訓練場へと向かう。

 そこには無数の人だかりができていたが、辺りは異様な静寂に包まれていた。

 

「通してください。ギルマス、サブマス、こちらです」

 

 ヤチヨが人だかりをかき分けると、訓練場の石畳が見えた。

 そこには二人の人物がいる。

 

 一人は獅子頭の大男。

 そしてもう一人は、その男に頭を踏まれて地面に這いつくばるシキの姿であった。

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