精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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215話 負けイベント

 時は少し遡る。

 シキは護衛依頼を無事に終えた翌日、オルティエと共に冒険者ギルドを訪れていた。

 他の面子は別の依頼を受けているのでいない。

 

 シキは第三位階冒険者まで昇格するための必要な条件を満たしたので、今日の戦闘試験をクリアすれば晴れて昇格となる。

 試験官役はあの犬人族(ボルゾイ)のバルザだという。

 模擬戦を行い、第三位階冒険者相当の実力だと認められれば試験完了だが……。

 

「お前が最近調子に乗っている人族のガキか。待ちくたびれたぞ」

 

 訓練場で待っていたのはバルザではなく、獅子頭の大男だった。

 身長は二メートルを超えていて、高級そうな金属鎧を纏っている。

 

 似たような鎧を纏った騎士を三人従えて仁王立ちしていた。

 想定外だったようで、案内役のギルド職員ヤチヨも狼狽している。

 

「リオン様!? どうしてこちらに」

 

「あの負け犬が面白いガキ相手に試験すると聞いてな。短期間で依頼を全部終わらせるくらい、将来有望なのだろう? ならば国を代表する第一位階冒険者で、王族でもあるこのリオン・シィズ・ブレイル様が直々に見てやろうと来てやったわけだ」

 

「第一位階冒険者……」

 

 初めて見る第一位階冒険者に、シキは純粋に興味を示していた。

 なんだかんだでレドーク王国では会う機会がなかったのだ。

 

「急にそんなことを言われても困ります。第一位階冒険者のリオン様とでは実力が離れすぎていますので」

 

「手加減すればいいのだろう? まぁ骨や内臓の一つくらいは潰すかもしれんが、治癒の霊薬を持ってきているから、そのくらいは治してやる」

 

「ですが」

 

「黙れ」

 

 リオンが殺気を放つ。

 もろに浴びたヤチヨの全身の毛が逆立ち、尻尾も膨れ上がる。

 よろめき腰を抜かしそうになっていたので、シキが横から支えた。

 

「平民風情が俺に歯向かうな。王族の命令には従え。お前も構わないだろう? だがまぁ怖いなら棄権してもいいぞ。あの負け犬みたいにな。くっくっく」

 

 そう言ってリオンがくつくつと笑う。

 雲行きは大分怪しい。

 

 この露骨に嫌味で高慢な態度からして、戦闘試験は簡単には終わらなさそうだ。

 本人は隠す気もないようで、言う通りこちらを痛めつけるのが目的なのだろう。

 

 しかし棄権するという選択肢はなかった。

 今回を逃せばまた一か月先まで戦闘試験が受けられず、目的の迷宮に入れない。

 それは困る。

 

 ちらりと側に控えるオルティエに視線を向けた。

 いつも以上に無表情で怖いが小さく頷いたので、シキの判断に任せるようだ。

 

 ならば実力が認められる程度に適当に戦って負けるのがいいだろう。

 反撃もしないほうがよさそうだ。

 

「それでどうするんだ?」

 

「やります」

 

「せ、せめてギルドマスター承諾を得てからにしてください。確認するのでお待ちください!」

 

 ヤチヨがギルドマスターのいる執務室へ向かって駆けていく。

 それを見てリオンが顔を顰めると、手に持っていた刃の潰れている二本の剣のうち、片方をシキに投げ渡す。

 

「ちっ、邪魔が入る前に始めるぞ」

 

「許可を得てからでは」

 

「今すぐ不合格だと言い渡してやってもいいぞ」

 

「……わかりました」

 

「先手は取らせてやるよ。かかってきな」

 

 剣を肩に担いだリオンが手招きした。

 お言葉に甘えて、シキは正眼に構えた剣を踏み込みながら振るう。

 

 リオンは担いだ剣を腕力だけで動かし、シキの剣の腹を叩いて打ち払った。

 衝撃でよろけたシキへの反撃は、返す刃ではなく前蹴りだ。

 金属製のブーツの底がシキの腹に突き刺さり、くの字になって吹っ飛ぶ。

 

「ほう、反応速度はなかなかいいな。だがいつまでもつかな」

 

 自ら後方に飛んで衝撃を和らげたシキが、空中で一回転してから地面に着地した。

 顔を上げると既にリオンが突っ込んできていて、目の前に剣が迫る。

 

 片手で軽々と振るうリオンの剣の連撃を、シキは両手持ちで慎重に受け流し続けた。

 日頃から〈剣姫〉エリンと訓練をしているため、剣術には多少覚えのあるシキである。

 

 流石は第一位階冒険者といった実力で、リオンも一応手加減しているようだ。

 しかし既に第三位階冒険者では捌けない剣速のような気もするが。

 

「ふん、やるじゃねぇか。少しだけ本気を出してやろう」

 

 シキは防戦一方だったが、有効打を与えられないためリオンは苛ついているようだった。

 鋭い牙を剥きながらそう宣言する。

 すると急激に威力が増し、受け損ねたシキの上半身が泳いだところへ、突きが放たれた。

 

「うおっ」

 

「マスター!」

 

 見守るオルティエが堪らず声を上げたが、シキは体を捻って紙一重で躱した。

 体内に取り込まれているナノマシンがシキの脳内分泌に作用し、体感時間が大幅に加速しているおかげで、突きははっきりと見えている。

 

 それにまだまだ、エリンの太刀筋と比べれば遅い。

 訓練の癖でそのまま一回転して、リオンの隙だらけの脇腹に剣を叩きつけた。

 

「ぐあっ」

 

「あ、やべ」

 

 リオンにダメージはなかったが、綺麗にカウンターを食らい鎧が傷付く。

 そしてシキのしまった、みたいな発言を聞いてリオンは逆上。

 

「貴様ぁ!」

 

 完全に手加減を忘れて剣を振り回す。

 それでもリオンの剣の腕はエリンより下だった。

 

 あの第一位階冒険者なのに? さっきの反撃だってエリンなら躱していただろう。

 少しがっかりしたシキであったが、別に剣が最も得意とも限らないかと勝手に納得しておく。

 

 それよりも問題なのは、ここから穏便に戦闘試験を終わらせる方法がないことだ。

 王族相手に勝つのはまずいし、このまま攻撃を防ぎ続けても悪目立ちしてしまう。

 

 第三位階冒険者より上の評価は不要だ。

 つまり適当な攻撃を受けてさっさと負けなければならない。

 

 痛いのは怖いが、もっと怖いのは……。 

 シキは大きく飛んで後退し、口元を掲げた剣で隠してからボイスチャットを送る。

 

『オルティエ、堪えてね』

 

『マスター!?』

 

 追ってきたリオンが振り下ろした剣を、真正面から受け止める。

 既に数十回と打ち合ってきたからか、両方の剣が限界を迎えて折れた。

 足癖の悪いリオンが再びシキを蹴りつけると、今度はもろに鳩尾に突き刺さる。

 

「がっ」

 

「このクソガキがァーーーッ」

 

 リオンが地面に倒れたシキを蹴る、蹴る、ひたすら蹴る。

 

「毛無しの分際で俺様に一太刀浴びせやがったな」

 

 シキは起き上がることもできず、体を丸めて耐え続けた。

 第一位階冒険者相手に健闘してたシキを見て、ギャラリーの冒険者たちも最初は声援を送っていた。

 しかし現在は静まり返っている。

 

 大男が少年を滅多蹴りしているため凄惨な光景だが、実はシキは殆どダメージを受けていない。

 インナーとして着込んでいるパワードスーツ〈GGX-104 ガイスト〉に守られているからだ。

 頭部さえ守っておけばいくら蹴られても問題ない。

 

 このままリオンの怒りが収まるまで耐えるつもりなのだが、反比例するかのように怒りのボルテージを上げている人物がもう一人いる。

 はっきり言ってリオンなんかより、こっちの方がよっぽど怖い。

 

 シキはちらりとオルティエの様子を伺い……あ、これはまずいと慌てて声を上げた。

 

「オルティエ、俺は大丈夫だから―――」

 

 その一瞬の油断が仇となった。

 リオンの踵がシキの顔面にクリーンヒット。

 

 自らの顎の骨が砕ける音を聞きながら、シキは意識を失った。

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