精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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217話 早めのネタバレ

「シキ殿、私が不甲斐ないばかりに申し訳ない」

 

 くーん、と鳴きながらバルザがしょんぼりしている。

 戦闘試験の翌日、シキは再び冒険者ギルドを訪れていた。

 先日は訓練場から真っすぐ帰ってしまったため、改めて手続きが必要だったからだ。

 

 禍根を残す去り方だったので、粘着されるかもしれない。

 リオンを警戒して冒険者ギルドに小型情報端末を飛ばし、いないことを確認してからの訪問である。

 

「リオンは冒険者ギルドに滅多に寄り付かないから、安心してくれていい。もし鉢合うようなら職員がすぐに知らせるよう手配しておく」

 

「わざわざそこまでして頂いてすみません」

 

「いや、こちらの不手際だからね。ギルドマスターとしても謝罪するよ」

 

 受付にいるヤチヨに第三位階冒険者への昇格手続きをしようと話しかけたのだが、そのままギルドマスターの執務室に案内される。

 そしてギルドマスターのカルナノーラからも謝罪を受けた。

 

 現在この場にいるのはカルナノーラとサブマスターのバロウ。

 試験官を務める予定だったバルザ、そしてシキとオルティエである。

 

「重要な案件があるからと言われて登城してみれば、どうでもいい商人の投資話を聞かされたのだ。あれは明らかな陽動であった。代理の試験官はギルドと調整済みだと聞いたが、まさかそれがリオン殿下だったとはな」

 

「それでバルザさんはいなかったんですね」

 

「うむ。しかも試験官の調整も嘘で割り込みだと言うではないか。殿下の傍若無人は周知の事実だ。シキ殿も怪我をさせてしまった……この不始末は私が責任を負おう。冒険者として活動する上で要望があれば、何でも言ってくれたまえ。出来る限りのことをしよう」

 

 何でも……それなら、その白くてふわふわした毛並みをもふもふしたい。

 などと思ったシキであったが、相手は成人男性である。

 

 下手をすれば辱めと受け取られかねないし、冒険者と関係もないため残念だが諦めた。

 とても残念だが……。

 

「ありがとうございます。困った時は相談させてください。第三位階冒険者になれましたので、俺たちは迷宮〈祖霊の(たに)〉に挑戦するつもりです」

 

「ほう、〈祖霊の渓〉か。あの迷宮の(いわ)れは知っているかね?」

 

「おおよそは」

 

「ならば私が詳細を説明―――」

 

「おっほん」

 

 オルティエがわざとらしく咳をして割り込んだ。

 皆の視線が集まる。

 

「どうしたのかね? オルティエ殿」

 

「あー、どうやらオルティエが説明をしたいみたいなので、聞いてもらえますか?」

 

「構わないとも」

 

 前回バルザに薬草知識の教師役を奪われてからというものの、オルティエは対抗心を燃やしている。

 隙あらば解説を入れてくるようになった。

 

「譲って頂きありがとうございます。まずはマスターへのおさらいですが、かつてこの地には龍脈と呼ばれる巨大な魔素溜まりがあり、人の住める環境ではありませんでした。その龍脈を地中の奥底に封じ込めたのがブレイル獣王国を建国した七人の英雄です」

 

「うんうん」

 

「英雄たちは封じ込めには成功したものの、完璧ではありませんでした。龍脈が魔素が漏れる場所が現在もあります。さてマスター、どこでしょう?」

 

 突然のクエスチョンだが、文脈からして答えは一択だった。

 

「〈祖霊の渓〉かな」

 

「正解です」

 

「まぁ名前もそのままだからね」

 

「迷宮は神々が作り、このアトルランで生きる人々に与えられた試練の場だと言われています。〈祖霊の渓〉も神々の介入があったかまでは定かにはなっていませんが、溢れる魔素が迷宮を構成するエネルギーになっているのは間違いありません」

 

 レドーク王国の迷宮都市ムルザにある〈星屑の迷宮〉も、太古に外様の神が落とした隕石が大元になっていたのを、シキは思い出した。

 

「〈祖霊の渓〉は通常の迷宮とは違う点がいくつかあります。まず上層には出入口が存在せず、龍脈があった渓そのものが迷宮化しています」

 

「それじゃあ、あの真っ暗な出入口はないんだ」

 

「あるにはあるのですが、通常の出入口に該当するものは迷宮の中層、渓の底にあります。そこから暫くは通常の迷宮のように階層に分れており、最下層には七氏族の祖先を祀った霊廟、及び龍脈があるとされています」

 

「されている?」

 

「龍脈は七氏族の祖先が封じ込めたのを最後に、辿り着いた者がいません。なので建国以前の文献や伝承のみでの情報となります」

 

「なるほど」

 

「建国以降の、公式の〈祖霊の渓〉最奥到達記録として残っているのは、霊廟の先に待ち構える最下層守護者〈祖龍〉となります」

 

「おお……祖龍」

 

 カッコいい名前を聞いてテンションが上がるシキ。

 シュヴァルツァみたいな前脚と翼が一体化した飛竜タイプだろうか。

 

 それとも東洋の龍のように胴の長いタイプだろうか。

 勝手なイメージだが白い鱗に覆われていて、遠距離から一方的に吐息(ブレス)を放ってきそうだなと思った。

 

「おや、知らなかったのかい? つまり祖龍が目当てではなかったと」

 

「さすがに最下層守護者は格上過ぎます。目標は中層ですかね」

 

 微妙にずれた答えが返ってきて、質問したカルナノーラが目を細める。

 

「獣王国を訪れて間もないというのに、よく調べているね。オルティエ殿」

 

「畏れ入ります」

 

「では祖龍と七氏族にまつわる伝承は知っているかね?」

 

「いえ、宜しければご教授頂きたいです」

 

「勿論いいとも」

 

 本当は諜報活動で調査済みだが、知り過ぎていると悟られないように、あえてオルティエは譲った。

 バルザ曰く、祖龍は龍脈を守る存在だという。

 なんでも龍脈は非常に不安定で、迂闊に接触すると魔素が再び溢れ出してしまう可能性があった。

 

「故に祖龍を倒すことは禁忌とされている」

 

「え、倒すのは駄目なんですか?」

 

「うむ。龍脈が暴走したら国が亡ぶからな。ただし戦いに挑むことは許されていて、祖龍に認められたものは爪を折って渡される。そしてそれは王位を認める証でもあるのだ」

 

 初めて爪を持ち帰ったのは今から三代前のシィズ族の長だ。

 それまでは七氏族すべてが王族として獣王国を運営していたが、シィズ族が爪を持ち帰ってからは王族と貴族という立場に別れたという。

 

「最初は七氏族が対等だったのに、途中からひとつの氏族だけが突出したんですか?」

 

「時代とともに権力者の勢力も変化する。龍脈の安定が獣王国の安定と同義である以上、祖龍の爪は国を統べる者の証として絶対の効力を持つ。祖先が定めた国の法でもそうなっているのだよ」

 

 三代前の時点でシィズ族は七氏族の中でも最大勢力だったが、祖龍の爪の獲得により王の地位を盤石のものとした。

 そして他の氏族と対立、排斥し始めた。

 

「祖龍の爪は代替わりしても有効なんですか?」

 

「有効だ。優秀な一族の子孫なのだからな。ただし国の運営に問題があれば、七氏族に属するものであれば、決闘によって王位を奪うことができる。また不慮の事故や病気で現在の国王が死んだ場合に備えて、七氏族の中で王位継承権も定められているのだ。ちなみに私は継承権第七位で、リオンは一位だ。上位はシィズ族で固められている」

 

 あれで一位かよ、というシキの驚いた表情を見てカルナノーラが補足した。

 

「祖龍の爪は加工すると強力な武器になる。その時作られたのが〈爪龍剣〉でシィズ族の象徴であり、決闘の際には振るわれてきた。〈爪龍剣〉があれば、あのリオンでも他氏族を退けることができるだろうね」

 

「おお、それはすごい」

 

『にぃに、いいこと教えてあげる』

 

 不意にリファからボイスチャットが飛んできた。

 この場にも鼠型ドローンが配置されているため、会話は傍受されている。

 

『〈爪龍剣〉は偽物だよ。本当は祖龍に認めてもらえなかったんだけど、それっぽい魔剣を用意して誤魔化したの』

 

「……」

 

「どうかしたかね? シキ殿」

 

「いえ、なんでもないです」

 

 最近は不意打ちに慣れてきたので、なんとか無表情を崩さなかったシキである。

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