精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
〈SG-061 リファ・ロデンティア〉による諜報活動は常に行われている。
得られる情報は日々追加されていて―――
「〈爪龍剣〉を用意しろ。あの生意気なメイドを斬り殺す」
「殿下、無理を仰らないでください。そのような理由で国宝を持ち出せるわけがないではありませんか」
「剣は飾りじゃない。使ってこそだ」
「そう思われるのならば、殿下自ら陛下に打診なさってください」
「……ちっ」
冒険者ギルドから城に戻ったリオンが部下と会話をしている。
その様子を鼠型ドローンが監視していた。
「〈爪龍剣〉に斬れないものはないのだろう? 俺に舐めた態度を取った借りを返さなければ気が済まん」
「あれは一体何だったのでしょう。我々の足はまるで地面に縫い付けられた……いえ、あれは巨人に足を踏まれたような感じでしょうか。足の甲が割れるかと思いました」
「わからん。わからんが〈爪龍剣〉があれば負けん。あんな偽物でも宝剣だからな」
「殿下、滅多なことを仰らないでください」
「王族の私室で他に誰が聞いてるって言うんだ? 中位龍の爪であの切れ味だ。本物なら大地も割れそうだな」
―――という情報を新たに入手していた。
鼠型ドローンはその存在すら察知することが不可能なので、リオンが油断しきっているのも仕方がない。
アトルランにおいて、非表示設定のスプリガンの存在を看破できるものは
例外として、神格を得た存在には察知される可能性が高い。
なのでリファは諜報に細心の注意を払っている。
広域スキャンで濃密な神気を纏う存在がいないことを確認してから、鼠型ドローンを配置していた。
故に〈祖霊の渓〉の下層には事前調査は
『にぃに、こいつを消すときはいつでも言ってね。すぐに実行するから』
『……』
「それでは迷宮探索に専念するのかね?」
「あ、はい。無事に第三位階冒険者になれましたし、これから〈祖霊の渓〉に向かいます」
「すまないが私は迷宮に同行できない。その代わりにこの紋章を渡しておこう」
シキはバウルから小さなブローチを受け取った。
真鍮色のそれには、鋭い牙をモチーフにした紋章が描かれている。
「それはゴウル族の要人だけが持つものだ。揉め事に巻き込まれた時はこれを提示するといい。平民は当然として他氏族も牽制できる」
「ありがとうございます」
水戸黄門の印籠みたいなものか。
紋章をしげしげと観察していると、カルナノーラも似たようなブローチを渡してくる。
それには蔦の絡まる杖が描かれていた。
「レンド族のものも渡そう。いいよね? バルザ」
「そうですな。六つの氏族も一枚岩じゃない。複数の紋章を持っていると、他の氏族から誤解を受けるかもしれん。だが王族と揉めてしまった以上、多くの氏族で守ったほうがよいでしょう」
こうして第三位階冒険者の手続きを終えると、シキは〈祖霊の渓〉を目指して出発した。
迷宮までは馬車で三日。
冒険者ギルドが馬車を貸してくれるということなので、借りることにした。
ヤチヨ曰く冒険者ギルドで馬車を所有していて、遠征する冒険者に貸し出すシステムがあるという。
「各冒険者ギルドの支店に返せばいいって、レンタカーみたいで便利だ」
「ただし馬車の数は少なく、返却先も主要の迷宮や都市に限られるとも言っていましたね」
オルティエが馬車の手綱を握っている。
ラトピアの護衛依頼の際に練習したので、オルティエは御者が出来るようになっていた。
御者のコツは馬と心を通わせること。
商人からそう教わっていた。
オルティエが「今日はよろしくお願いしますね」と目を見ながら話しかけると、馬がびくりと体を震わせる。
するとそれまで落ち着きなく嘶いていた馬が、軍馬のように大人しく、従順になった。
あれは心を通わすというよりは服従……
のような気もしたが、オルティエが嬉しそうに手綱を握っているので、余計な事は言わないシキである。
「今回は転移を使ったショートカット無しで、普通に三日かけて〈祖霊の渓〉に向かうんだね」
「はい、マスター。王族にもですが、ギルドマスターからの監視にも備えなければなりません」
「まさかリリさんとギルドマスターが同一人物だったとはねぇ」
カルナノーラの正体についても、リファの諜報によって看破している。
「どうやって姿を変えてるんだろう。やっぱり魔術かな。映像で見た時はびっくりしたよ」
「カルナノーラ・レンド・ブレイルはギルドマスターであると同時に、現役の第一位階冒険者でもあります。〈
「そんなに」
「最近はリリという仮の姿で不審な冒険者の偵察や、若手の支援を行っているようです。〈祖霊の渓〉に先回りして接触してくるかもしれません」
「それじゃあショートカットしたら怪しまれるか」
「そうよ~、だからシキ君はお姉さんと馬車の旅を楽しみましょうね」
御者台に座っていたシキに、アリエが背後から勢いよく抱きつく。
「よしなさいアリエ。馬が驚いて暴れたらどうするの」
「大丈夫よ。オルティエの調教済みだから、たとえ魔獣が来ても動じないわよ」
セラに注意されても、アリエはどこ吹く風だ。
ちなみにスースはいつぞやの時のように、馬車の天井で胡坐をかいて周囲を警戒していた。
当然の如く、通行人からは奇異の目で見られている。
「変なこと言わないで。これは心を通わせた証よ。そうでしょう?」
「neigh!」
オルティエの問いに、馬が短く鳴いて答える。
イエス・マムと言っているような気がした。
「よく訓練されている」
「マスター?」
「なんでもないです。ところで七氏族って民主政権の与党と野党みたいだよね。与党が王族になったシィズ族で、野党がその他の六氏族。過半数をシィズ族が占めているうえに、六氏族は結束できないみたいな。祖龍の爪があれば一発下剋上だけど……」
「ひとつの氏族を除いて爪を諦めて、政治で戦っているようですね」
そう、とある氏族だけは祖龍の爪を諦めていなかった。
今も迷宮に籠って最下層を目指している。
その人物との邂逅が、シキの目標のひとつであった。