精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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219話 探索者

 〈祖霊の渓〉はブレイル獣王国の北東にある。

 今回もほぼ真北にあるナディット村とは割と近い位置にあった。

 

「〈祖霊の渓〉は東西に延びていて、東端に中層への入口があります」

 

「渓自体が迷宮化してるんだっけ」

 

「はい。ですので周囲に発生する魔獣は死体が残らず、魔素の粒子となって消滅します」

 

 魔獣の中でも迷宮で生み出されたものは、魔法生物と呼ばれている。

 倒すと体が消滅して素材を得られない代わりに、稀に魔素の結晶である魔石を落とした。

 普通の魔獣からも採れることがあるが、魔法生物のほうが頻度や純度は高いと言われている。

 

 魔石は魔力を内包しており、魔術や魔術具の触媒として使われた。

 地球における化石燃料のような扱いで重宝されるため、冒険者からすると良いお小遣いになるらしい。

 

 〈祖霊の渓〉はその名の通り渓流になっていた。

 真っすぐ伸びる河川の左右に急な斜面が聳え立ち、中腹あたりに馬車が辛うじて通れるような細い道がある。

 

「渓の上部、迷宮化した範囲の外側に村があります。冒険者ギルドの支部もそこにありますので、そちらに向かいます」

 

 左側の斜面の道を上っていくと、小さな集落が見えてきた。

 斜面にぽっかりと開いた平地に、複数の建物が並んでいる。

 

「いらっしゃぁい」

 

 冒険者ギルドの支部に入ると、気だるそうにカウンターで頬杖をついている職員が出迎えた。

 ビーグル犬のような、茶色の垂れ耳が特徴的な女性だ。

 

 セラが馬車返却の手続きをしている間、シキは周囲を見回す。

 村が斜面の途中にある影響で日が当たりにくく、屋内は薄暗い。

 冒険者の数も少なく閑散としていた。

 

「獣王国ゆかりの地なのに、寂れててビックリしたでしょ」

 

「えーっと」

 

 シキの心の内を見透かすように、女性職員が話しかけてくる。

 

「昔は魔石目当ての冒険者で溢れていたらしいわ。渓がひとつの大きな階層みたいなものだから、魔獣探しが楽なのよ。だから数をこなせるから魔石も手に入りやすいってわけ」

 

「今は違うんですか?」

 

「ええ、今は―――」

 

「シンディーただいまー。ってあれ、シキ君じゃないか」

 

 冒険者ギルドに入ってきた黒いローブの女性が、驚いた表情を浮かべている。

 

「あら、リリちゃん。こんなところで会うなんて奇遇ね〜」

 

 シキが反応する前にアリエが駆け寄り抱きついた。

 意外とシキは顔に出るので、悟られないためのフォローだ。

 

 リリことカルナノーラがシキたちを追い越し、待ち伏せしているのはわかっていた。

 リオンが手配した冒険者に扮した密偵も到着しており、ギルトの隅の椅子に座ってこちらの様子を伺っている。

 

 オルティエによってマーカーが付けられているため、密偵の位置は常に把握が可能。

 目当ての獲物が釣れるまで密偵は泳がせると、満場一致で決まっていた。

 

「なんでここにいるの?」

 

「私は()()()でね。迷宮の調査に来たのさ。冒険者はおまけでこっちが本業なのだよ」

 

 二の腕に豊満な胸を押し付けて質問してくるアリエに、恨めしそうな視線を送りつつリリが答える。

 探索者とはギルドに所属し、冒険者の支援を目的として様々な調査をする職業だ。

 シキは知らなかったが、探索者という職業はどの国の冒険者ギルドにもある。

 

「国内に迷宮は複数あるけど、同じものはひとつもないし日々変化しているんだ。魔獣分布、迷宮構成、出現アイテム。これらの情報は冒険者からも買っているけど、基本的には彼らが情報を買う側だからね。迷宮調査はギルドが主体となって行っているんだ。それに魔獣の氾濫も未然に防がないといけないから、国の支援も受けているよ」

 

「それで渓の様子はどう?」

 

「魔獣の沸きは七割ってとこかな。そろそろ間引きが必要かも」

 

「うへぇ。また王族に媚びへつらわないといけないのね」

 

「ははっ。いくら王族がアレだからって、そんなことを言っては駄目だよ、シンディー」

 

 リリがギルド職員のシンディーの発言を窘めるが、リリの発言も似たようなものだ。

 

「そういうことは、あまり大きな声で言わないほうが」

 

「大丈夫だよシキ君。王族当人か直属の家臣以外は皆が思ってることだから。誰も告げ口なんてしないさ。うん」

 

 リリの台詞が静かなギルド内に響き渡ると、周囲の冒険者たちは苦笑いを浮かべていた。

 大半の冒険者はそうかもしれないが、その中にリオンの密偵がいることを知っているので、シキとしては気が気ではない。

 

 ちらりと密偵の様子を伺うと、周囲と同様に苦笑いを浮かべていた。

 あれがこの場に紛れるための演技でないとよいのだが……。

 

「引き続き中層以降もお願いね」

 

「うん。さすがにソロは無理だから仲間が到着してからだけど」

 

 リリが意味ありげに視線を送ってきたが、シキは首を横に振る。

 

「すみません。俺たちは真っすぐ迷宮に潜るつもりなので、調査の協力はできません」

 

「ありゃ、あっさりフラれちゃった。まぁ私がいても邪魔者か。シキ君のパーティー加入条件は、やっぱり胸の大きい女かな?」

 

「いや……そうじゃない仲間もいますよ」

 

「え、そこで男もいるって返しじゃないってことは、もしかして全員女なの?」

 

「ええと……」

 

 咄嗟に反論できないシキに、リリが若干引いていた。

 それを見て頬を膨らませたのはアリエだ。

 リリの背後に回ってヘッドロックを仕掛ける。

 

「ちょっと~、うちのシキくんをいじめないでくれる」

 

「いやいや、今のは不可抗力じゃないかなぁ? ぐぐぐ。苦しいけど背中は柔らかいし良い匂いだなもう」

 

「現在の中層にはバイフ族のお姫様が籠ってるから、渓より間引きは進んでるはずだし急がなくていいわよー」

 

 じゃれている二人をぼんやり見ながらシンディーが言うので、ここぞとばかりにシキが話に乗っかる。

 

「お姫様なのに迷宮に潜っているんですか?」

 

「そうよ。昔は他の氏族もいたらしいんだけど、王族が資源保全を名目にして人数制限をかけてからは、誰も寄り付かなくなったわ」

 

 過去にはシィズ族の部隊が中層入口―――渓底に駐屯し、検問していた時期もあったという。

 

「日頃から圧力もかけられているし、〈祖霊の渓〉の中層以降に挑む人は殆どいないわ。下層には七氏族の祖先を祀る霊廟もあるし、荒らされたくないって気持ちもわからなくもないわ」

 

「ちなみにさっき探索者は国の支援を受けていると言ったけど、そのせいでギルドには中層以降に挑む人の数を把握し、状況を報告する義務があるんだ。けどまぁシキ君たちなら多少暴れても黙認するから、安心してよ」

 

「そ、それはどうも……」

 

 アリエをくっつけたままリリがサムズアップする。

 またもや密偵に聞かれたくない内容だったので、どうしてもそわそわしてしまうシキであった。

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