精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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221話 負けない想い

 助けた冒険者パーティーは、お礼としてその日の稼ぎである魔石をすべて渡してきた。

 

 シキの掌には形の歪なビー玉が二つ乗っている。

 軟泥蛞蝓の魔石だ。

 

「本当にいいんですか?」

 

「それはこっちの台詞だよ。本当にそれだけでいいのかい? 使ってくれた治癒の霊薬のほうが絶対高いと思うけど」

 

「あー、あれは元手はそんなに掛かってないので、大丈夫ですよ」

 

 深手を負った仲間二人は、けろりとした顔でシキたちにお礼を言っている。

 鎧は引き裂かれたものの、体調は前より良さそうだ。

 

 元手が掛かってないなら掛かってないで、やばい回復力の霊薬じゃないか。

 そう思った冒険者ではあったが、相手は命の恩人なので深く追及はしなかった。

 

「首狩りの魔石まで貰っちゃいましたし」

 

「そっちに関しては所有権を主張する気はないよ。ただまぁ、首狩りの魔石なんてとてつもない価値があるはずだから、君たちに実入りがあったという意味では良かったと思うよ」

 

 魔石を落とす確率は十体狩って一つ出るか出ないかくらい。

 そして首狩りは渓流の最奥に一体だけ出現する魔獣で、一度倒すと一か月は現れない。

 冒険者がシキに説明した。

 

「おお……ものすごい限定湧きなんですね」

 

「前に首狩りが倒されてもうすぐ一か月なのは知っていた。だから上流には近寄らないつもりだったんだけど、軟泥蛞蝓を狩るのに夢中になりすぎたみたいだ。今日はもう引き上げるけど、村で会ったら飯でも奢らせてくれ……ほら、行くぞ」

 

「いたた、わかったから引っ張らにゃいで」

 

 オルティエの手の平に乗った首狩りの魔石を、物欲しそうに猫の目でじーっと見つめていた女冒険者だったが、耳を引っ張られて渋々諦める。

 パーティー全員で礼を言うと、渓流を下って去って行った。

 

「改めて実感したけど、冒険者って命がけだね」

 

「ボスは私たちがしっかり守るから、安心していいのよ?」

 

「うん、ありがとう。だからといって油断だけはしないようにするよ」

 

 つい先日やらかしたばかりなので、気を引き締め直すシキである。

 

 

 

 助けた冒険者パーティーと別れて渓流を登ること数十分。

 中層への入口である黒い穴が見えてきた。

 

 斜面に張り付いていて、見た目は洞窟の入口のように見える。

 渓流は左にカーブして続いているので、この先が首狩りの湧くポイントなのだろう。

 

 中層に入ると、自然そのものだった渓から環境ががらりと変わる。

 迷宮ではお馴染みの石造りの通路が現れた。

 

「―――スキャン完了しました。この階層に他パーティーは二組ですので、鉢合わせしないルートでご案内します」

 

「うん、頼むよ」

 

「それとマスター、エリンの手が空いたそうなので呼んで欲しいそうです」

 

「ん、了解。なら一旦外に出ようか」

 

 エリンには無償チップを使用し、グレード2の拡張機能に設定されている〈パイロット登録〉を付与してあった。

 これによりエリンもスプリガンの複座経由による転移が可能になっている。

 

 エリンは過去に無実の罪でレドーク王国の牢屋に投獄されたことがあり、そこから救出するための処置であった。

 

「シキ~疲れた~」

 

 転移してくるなり、エリンがシキに抱き着く。

 スプリガンを除くと唯一ブレイル獣王国に同行できるのがエリンだったが、ここ暫くはエンフィールド辺境伯領を訪れる貴族の対応に追われ忙しくしていた。

 シキが実の母であるエフェメラ探しに専念できるようにと、仕事を肩代わりしていたからだ。

 

「ありがとう、母様」

 

 これには本当に感謝しかないため、シキはエリンを抱き返した。

 

「ふわああああ」

 

「母様?」

 

「な、なんでもないわ」

 

 まさか抱き返してくれるとは思わず、変な声を上げてしまう。

 普段からスキンシップはしているが、シキからのアプローチは珍しい。

 

 シキは転生者であり、アトルランに生まれた時からその精神は成熟している。

 時々精神が肉体に引っ張られはするが、基本的には大人の対応となるので、自ら他者とベタベタするような行動は取らない。

 

 侵されてしまって久しいが、シキのパーソナルスペースは本来広いのである。

 そんなシキに抱きしめられたのだから、エリン的には最高のご褒美だ。

 

 堅苦しいドレスで着飾り、貴族と面倒な腹の探り合いをした甲斐があったというもの。

 オルティエたちが羨望半分、嫉妬半分で睨みつけてくるが、エリンは不敵な笑みを浮かべて睨み返す。

 

 シキにとって特別な存在というポジションを、エリンはスプリガンに奪われてしまった。

 だが簡単に引き下がるつもりはない。

 

 確かにスプリガンはシキの前世と同郷なのかもしれないが、それが何だというのか。

 スプリガンは精霊の言語を理解する者ならば誰でもいいのだ。

 同郷の者ならば、シキでなくともマスターと認め忠誠を誓っていただろう。

 

 それが悪いことだとは言わない。

 主従関係から始まり育まれる愛情だってある。

 

 だがもしシキとスプリガンたちの主従関係が、何らかの理由で解消された場合、それまでに育まれた愛情も消え去ってしまわないだろうか?

 エリンはシキがどんな立場になろうが、決して見捨てないし裏切らない。

 

 二人が出会ったのは二年と少し前、シキが九歳の頃だ。

 幼くしてシキは当時世話になっていた孤児院を影から守り、奴隷商人と繋がっていた貴族と敵対し一人で戦っていた。

 

 エリンはシキのその大人顔負けの精神性に惚れたのだ。

 ……後から中身が大人だと聞いた時は驚いたが。

 

 シキと出会ってまだ二年だが、ぽっと出のスプリガンに負けるわけにはいかない。

 とはいえスプリガンは長年に渡りエンフィールドを守ってきた精霊である。

 敵対なんてするはずがないし、礼節を尽くすのが当然だろう。

 

 だがシキに関しては、それはそれ、別問題。

 恋愛でそんな生っちょろいことを言っていたら、あっという間に掠め取られる。

 負けられない乙女の戦いがそこにはあるのだ。

 

「母様、苦しいよ」

 

「ごめんごめん。それじゃあ迷宮探索をしましょうか」

 

「大丈夫? 疲れてない?」

 

「精神的に疲れてたけど、シキに抱き着いて回復したからもう平気よ。体の方はむしろ運動不足で鈍ってるし、ひと暴れしたいところね」

 

 好いた惚れたはひとまず終了。

 ここからは冒険の時間だ。

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