精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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222話 技の1号 力も1号

 エリンは第二位階冒険者である。

 なので彼女の冒険者証があれば、迷宮〈祖霊の渓〉の最下層に入ることができるが……。

 

「母様は冒険者証の隠し機能のこと、知ってた?」

 

「いいえ、知らなかったわ。まさかそんな機能があるなんてね」

 

 シキたちが隠し機能について知ったのは、ギルドマスターのカルナノーラとサブマスターのバロウの会話を、リファの鼠型ドローンが傍受していたことが切っ掛けだ。

 その時点で詳細は不明だったが、運用を開始していた情報屋〈群れ鼠〉を活用した結果、一部の機能が明らかになった。

 

「どこの冒険者ギルドで登録したかだけでなく、現在位置もわかるみたいだね。母様が転移していること、レドーク王国の冒険者ギルドにバレてるかな?」

 

「マスターとエリンの冒険者証をスキャンし比較すると、僅かにエリンの冒険者証の方が内包する魔素量が多くなっていました。後者に何かしらの隠し機能が付与されている可能性があります」

 

 このような懸念があるため、エリンの冒険者証はエンフィールドに置いてきた。

 ちなみに冒険者証を持たずに迷宮に入ったことが発覚すると、罰則の対象となる。

 免許不携帯だ。

 

「王族を通してその辺の情報を開示要求してみる? 冒険者ギルドと国は別組織だから、どこまで介入できるかわからないけど」

 

「介入の余地があるという意味では、獣王国のギルドが相手でも良いかもしれません。私たちはリリの正体を知っていますし、情報の入手元が〈銀猫〉なのも問題でしょう。脅す材料としては十分です」

 

「一応友好関係を築けているし、脅すのはちょっと……」

 

 もしエリンの冒険者証をこちらのギルドで提示していた場合、何かしらの情報が抜かれていたかもしれない。

 エリンがブレイル獣王国に来なかったのはスケジュールの都合だったが、結果的に正解であった。

 

 

 

 迷宮〈祖霊の渓〉の中層は五つの階層に分かれていて、中間の三階層目に安全地帯がある。

 小型情報端末の事前調査によると、そこならスプリガンを〈ユニット転送〉できるスペースがあるそうなので、エリンもそのタイミングで帰還予定だ。

 

「迷宮MAPに敵味方の分布、配置されている宝箱の罠と中身もスキャンで看破済みか。なんだか真面目に探索してる冒険者たちに悪い気がしてきたよ。この情報で迷宮の攻略本を作ったら、大儲けできそうだね」

 

 中層に入ってから小一時間が経過。

 エリンの戦闘を見守りながらシキが呟く。

 

 対峙しているのは首無し騎士(デュラハン)と呼ばれる中層第一階層の守護者で、古びた甲冑を纏い、巨大な両手剣を振り回している。

 名前の通り首から上には何もなく、隙間から見える甲冑の中身も空であった。

 

「ご所望でしたら、羊皮紙のサイズに合わせたレイアウト用意しましょうか?」

 

「あ、いや冗談だから大丈夫だよ。別にお金に困っているわけじゃないからね。というか攻略情報の販売って冒険者のマナー的にどうなんだろう?」

 

「禁じてはいません。しかし攻略情報は冒険者の収入に直結しますので、情報を秘匿したい者からは恨まれる可能性があります」

 

「それもそうか。職人の技術なんかもそうだけど、自分の食い扶持を他人に提供したくないって考えは根強いよね。でもそれだと新規参入のハードルが下がらないから発展を阻害するんだよなぁ。序盤の攻略情報だけ公開なら両立できるか? 〈この先は君の目で確かめてくれ〉方式で……」

 

 などとシキが自領向けに流用できないかと考えている間も、エリンと首無し騎士の戦闘は続いている。

 エリンの武器はシキが貸した魔剣〈流星砕き〉だ。

 

 〈剣姫〉という二つ名を持つだけあって魔剣には興味津々。

 しかも道中のたった数度の試し斬りで、魔剣を扱う感覚を掴んだようであった。

 

 首無し騎士はエリンより二回りほど大きく、両手剣もエリンの身長より長い。

 そんな両手剣が力任せに振るわれた。

 

 エリンは決して真正面で受け止めず、力を逃がすように受け流している。

 それはじっくり相手の力量を観察し、完全に見切るまで続けられた。

 

 エリンが攻勢に転じたのは、首無し騎士が両手剣を真っすぐ振り下ろしてきた時だ。

 魔剣を振り上げ、両手剣を真正面から叩く。

 

 彼我の身長差から大人が子供に覆い被さるような光景だったが、結果は連想されるものとは真逆。

 両手剣が弾かれ、首無し騎士もよろめきながら後退した。

 

「は? 重くした魔剣を斬り上げた!? 」

 

 シキが驚くのも無理はない。

 魔剣〈流星砕き〉は魔力を込めると重量が増す。

 

 生物が纏う魔力に触れただけで数十キロの重さになり、目一杯込めると30トンまで膨れ上がる。

 この魔力調整が非常に繊細で、僅かな魔力でも数百キロから数トンまで重量が変化してしまう。

 

 先の闇蜘蛛(ダスク・アラクニド)との戦いで魔剣を使ったシキであったが、そのピーキーさに振り回された。

 まともに振れたのは縦振りだけ。

 

 重力には逆らえなかったのである。

 ところがエリンは超重量になった魔剣を斬り上げ、首無し騎士を押し返していた。

 

「エリンはインパクトの瞬間だけ魔力を込めているようです。であれば剣速にそのまま重量を乗せることができます。慣性の法則ですね」

 

「理屈は分かるけどあんな精密操作、俺には出来る気がしないよ。もしかして母様って魔術師の才能もある?」

 

「エリンの魔力操作は【剣神の加護】の影響を受けています。剣に関する事象については補正がかかりますが、それ以外には適用されません」

 

「なるほど。じゃぁ〈流星砕き〉が魔剣じゃなくて魔斧だったら、母様も扱いには苦労してたのか。鬼に金棒、剣姫に魔剣か」

 

 アトルランに住まう人々は、世界を創造した神々から加護を授かる。

 加護の内容は個人差や強弱があるが、エリンはその中でも強力な【剣神の加護】の持ち主であった。

 

「効果があるんだかないんだか分からない【吟遊神の加護】持ちの俺とは大違いだね」

 

「シキくんには私たちがいるんだから、いいじゃない」

 

「それはそう」

 

 気が付けば首無し騎士は防戦一方になっていた。

 エリンがインパクト時に込める魔力量を少しずつ増やす。

 

 それに比例して魔剣の重量は増加し、首無し騎士の両手剣が大きく弾かれる。

 魔剣の素性を知らない者が見れば、きっとエリンがとてつもない怪力―――剛剣の使い手に映るのだろう。

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