精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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223話 ロボに勝ちたい母

 エリンと首無し騎士の打ち合いは長く続かなかった。

 限界を迎えた両手剣が半ばからへし折れたからだ。

 

 首無し騎士の間合いが半減したが、それでもまだエリンより広い。

 切っ先を失い処刑人の剣(エクセキューショナー)のような見た目になった両手剣が、エリンの首を刈り取るべく振り下ろされる。

 

 エリンは引き下がらない。

 それは先に攻撃を当てることを意識した、速さだけに特化した突きだった。

 

 フェンシングのように半身に構え、踏み込みと同時に魔剣を繰り出す。

 ただの突きなら甲冑の表面を撫でるだけで終わるが、これは魔剣〈流星砕き〉だ。

 

 小手調べを終えていたエリンは、決着を付けるべく魔剣に魔力を最大限まで込める。

 その瞬間、魔剣は高密度の質量兵器へと変貌した。

 

 魔剣の切っ先が首無し騎士の胴体に触れると、甲冑が陥没し大きなクレーターが出来上がる。

 音を置き去りにして、首無し騎士が吹き飛んだ。

 コンマ数秒遅れてやってくるのは、空気を裂くような轟音と衝撃波。

 

「うおおおおおおっ」

 

 思わずシキが悲鳴を上げる。

 普通に怖かった。

 

 瞬間的に増えた魔剣の重量は新幹線一両分より重く、速度に至っては音速を超える。

 そんなものが直撃して無事な物体があるだろうか。

 

 首無し騎士は迷宮の壁に激突したはずだったが、そこにもクレーターがあるだけで姿は見当たらない。

 既に魔素の粒子となって消滅していた。

 

「母様……?」

 

 耳鳴りが収まらない両耳を押さえながら、シキがエリンに声をかける。

 エリンは突きを放った姿勢のまま硬直していた。

 

 少し間を置いて残心を解くと、こちらへゆっくり振り返る。

 表情は渾身の一撃を繰り出した満足感からか、微笑を湛えている(アルカイックスマイル)

 そして何か言おうと口を開いたところで―――両目両耳から血が噴き出した。

 

「ちょっ、オルティエ、治療薬!!」

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、全力で攻撃したら大変な目に遭ったわ」

 

 けろりとした顔でエリンが言っているが、体に負ったダメージは相当なものだった。

 Break off Online 製の治療薬がなければどうなっていたことか。

 

「魔力は最大でも三割で十分ね」

 

「ねえ母様、魔力を込める加減が絶妙に上手いのはわかったけど」

 

「えへへ、それほどでも」

 

「魔力を込め終わった後はどうしてるの? 魔剣から魔力が抜けるまでタイムラグがあるけど、その間は重たいよね?」

 

「すぐに自分で魔力を吸い取るから、重たいのはほんとに一瞬だけね」

 

「え? 吸い取る??」

 

 意味が分からずシキが首を傾げる。

 シキにとって魔力の放出は不可逆のものであった。

 

 強引に例えるなら、魔力は意識して出せる汗のようなものだ。

 魔剣に汗を吸わせることはできるが、吸わせた汗を回収することはできない。

 

「うーん、吸い取るって言うと少し違うかも? 魔力をグッてしておいて、いらなくなったらギュッとするの」

 

「うわ出たよ感覚派ぁ」

 

 休憩がてらじっくり話を聞くと、なんとなくだがエリンの言いたいことがわかってきた。

 魔力を手の平から出すのだが、放出せずに手の平に留まらせて、不要になったら体内に戻すのだという。

 

「そんなことできるの?」

 

「なんかやってみたらできた」

 

「【剣神の加護】の効果かと思われます」

 

「そうやってなんでも加護のせいにしてさ……事実なんだろうけど」

 

 魔剣〈流星砕き〉と〈剣姫〉エリンが揃って初めて起こる事態なので、レアケースもいいところだろう。

 通常であればシキのように、魔剣の重量に振り回されるのが関の山だ。

 

「これならあの大きなスプリガンにも対抗できるかしら」

 

「ほう、我々に挑むか? エリン」

 

 エリンと同じ剣士枠にいるスースが反応した。

 普段から何かと張り合い、剣の手合わせをしている二人だ。

 お互いにライバル視している節がある。

 

「いやいや、さっきみたいに母様の体がもたないでしょ。というか生身で換装式汎用人型機動兵(スプリガン)器に挑まないでよ」

 

「むぅ」

 

 エリンが可愛らしく頬を膨らませたが、物騒この上なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 小一時間の休憩を挟んで、中層の攻略を再開する。

 中層第二層に守護者はいないので、オルティエがナビする最短ルートを一気に駆け抜け、第三階層の安全地帯にあっさり到着。

 

 他のパーティーに見られないうちに、迷宮へ不正侵入しているエリンは転送で帰還させた。

 

「安全地帯って決まって噴水があるよね。各迷宮のつくりは全然違うのに、ここだけ統一感があるのが不思議だ」

 

「つまり迷宮の雛型は存在していて、他と似ないように使い分けているのかしら」

 

「エアスト村を作る時に〈談話室〉とか〈補給倉庫〉〈貯水庫〉なんかを購入して配置したけど、それと同じだったりして」

 

 シキとセラが迷宮談義をしていると、安全地帯の奥から誰かが近づいてくる。

 

「ちょっといいかしら」

 

 それは豪華な金属鎧を身に着けた()()()()()であった。

 獅子頭というだけで、スプリガンたちの周囲の空気がひりつく。

 シキも気を引き締めようとしたが、別件で衝撃の事実に気が付いた。

 

「女性なのに、たてがみがある…だと…」

 

 女性陣は妙に敵意剥き出しだし、少年は変な驚き方をしている。

 出鼻を挫かれたが、獅子頭の女は軽く咳払いをしてから訂正した。

 

「これは髪の毛よ。たてがみ風に見せているの」

 

「あ、なるほど。それは失礼しました」

 

「貴方たち、見ない顔だけど第四階層よりに進むのであれば、冒険者証を見せて頂戴。悪いけど規則なの」

 

 彼女はナウラ・シィズ・ブレイルと名乗った。

 シィズ族、すなわち王族の一員として、この安全地帯で検問を実施しているという。

 ちなみにリファの諜報によると、ナウラは王位継承権第四位だ。

 

「注意事項は三つ。霊廟に入るな。祖龍に挑むな。魔獣を乱獲するな。と言っても霊廟は封印されているし、祖龍は挑んで勝てるわけがないし、乱獲は人数制限をしているから問題なし。はい、第三位階冒険者だから通ってよし。それじゃぁ頑張ってね」

 

 シキの冒険者証を確認すると、ナウラは検問のある天幕へ戻っていった。

 

「意外とあっさり通されたね」

 

「マスター」

 

「なに? オルティエ」

 

「目標が魔獣に襲われ危機に陥っています」

 

「まじか、急いで助けに行こう。プランAが崩壊してしまう」

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