精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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225話 掴みはOK?

 シキが言ったプランAとは、王位継承権第十一位のライカ・バイフ・ブレイルをリーダーに据えて、シキは後援者として同行し祖龍及び霊廟まで辿り着く作戦である。

 ブレイル獣王国の情勢を配慮するなら、これが一番穏便な手段だ。

 

 プランBはシキ自らがリーダーとなるパターン。

 部外者が表立って祖龍に接触したとなれば、王族が間違いなく反発するだろう。

 

 最期のプランCは一切合切を無視して強行突破。

 〈目標の霊廟〉へ行くだけなら最短ルートだが、間違いなくブレイル獣王国は混乱に陥る。

 

 ギルド職員のシンディー曰く、中層の魔獣はライカたちによって間引かれているとのことだったが、ここに来るまでに相当数の魔獣を蹴散らしてきた。

 間引いてあの数なのか、それとも何か異変が起きているのか。

 ライカたちが危機に陥っていたこととも関連があるのかもしれない。

 

「大丈夫ですか?」

 

 改めて声をかけるが、助けたライカは床に座り込んだまま、驚きの表情でシキを見上げていた。

 バイフ族は虎人族で構成されている。

 

 ライカの外見は銀髪のショートカットに翡翠色の瞳。

 頭頂部には虎の耳が生えていて、白と黒の縞模様になっている。

 つまり白虎であった。

 

 暫く呆然としていたライカ、ぽつりと呟く。

 

「君は、エフェメラお姉ちゃんの家族か親戚?」

 

「……!? 母さんを知っているのか!」

 

 今度はシキが驚く番だった。

 母の名が出るとは思わず声が大きくなる。

 

「どこで知ったんだ?会ったことがあるのか? 教えてくれ!」

 

「姫様に近づかないで」

 

 ライカに詰め寄ろうとしたシキだったが、従者のモアが素早く割って入った。

 動きに合わせて肩口で切りそろえられた薄桃色の髪が乱れる。

 

 その間からは羊人族の証である捻じれた角が生えていた。

 赤い瞳がシキを睨みつける。

 

「あ、ごめん」

 

「Roaaaaaaaaaaar!」

 

 ここでシキが殴り飛ばし気絶していた熊型の巨大魔獣が、意識を取り戻した。

 めり込んでいた壁から出てくると、怒りの咆哮が周囲に響き渡る。

 脅威が去っていなかったと知り、ライカとモアが身を強張らせた。

 

 ゆったりとした動きで袴姿の美女、スースが魔獣へと歩み寄る。

 手にしているのは市販のブロードソードではなく、Break off Online 製の白鞘の刀だ。

 

 スースに反応した魔獣が威嚇するように後足で立ち上がる。

 ただでさえ大きい体が、更に大きく見えた。

 

 迷宮の天井すれすれの位置まで前足が持ち上げられると、スース目掛けて一気に振り下ろされる。

 スースに回避する素振りは見られない。

 

「「危ない!」」

 

 悲鳴じみたライカとモアの警告も空しく、鋭い爪がスースの体を通過した。

 ―――かに見えたが様子がおかしい。

 スースの全身が血で濡れたが、何故か傷を負った様子はなかった。

 

 足元に何かが落ちている。

 それは切断された魔獣の前足だった。

 

 いつの間にかスースが斬っていたのだ。

 つまりスースを濡らしたのは、すべて魔獣の返り血である。

 

「Roaaaaaa―――」

 

「反応が遅い」

 

 言い終わるよりも先に、スースは白鞘の刀を水平に振り抜いていた。

 一太刀で魔獣の首が刎ねられ、咆哮は強制終了。

 

 

 魔獣は自らの血の海に沈む。

 

 この魔獣は魔法生物だった。

 血肉は魔素により再現されたものなので、死ぬと十数秒で粒子となって消え去る。

 返り血を浴びて全身が真っ赤になっていたスースも、血が虹色の泡に変化して消えると元通りになった。

 

 Break off Online 製の武器で敵を倒すとその肉体は消滅し、ゲーム内通貨であるCR(クレジット)を得る仕組みになっている。

 なので通常の魔獣を倒してしまうと問題になるが、魔法生物なら先に魔素となって消えるので問題ない。

 魔石のドロップが確定でゼロになるが、倒すだけならこのほうが手っ取り早かった。

 

「シキくん。詳しい話は戻ってからにしましょ」

 

「そうだね。ライカ様、立てますか?」

 

「ふおおおおおお。すごい! つよい! ……いたた」

 

「姫様っ」

 

 スースの活躍に興奮したライカが立ち上がろうとしたが、足首を押さえて蹲った。

 よく見ると足を捻ったのか、赤く腫れあがっている。

 シキが目配せすると、オルティエはスカートを翻して治癒の霊薬を取り出した。

 

「失礼します」

 

 小瓶を振って緑色の粉を足首にかけると、みるみるうちに腫れが引いていく。

 本人も痛みが引いたことに気が付いたようで、立ち上がると足を踏みしめたり飛び跳ねたりした。

 

「すごい! 痛くない!」

 

「姫様!? そんな変な粉をかけられただけで、一瞬で治るわけないじゃないですか」

 

「ううん、ちゃんと治ってるの!」

 

「ええっ?」

 

 モアの疑念はもっともで、通常の治癒の霊薬なら回復までに時間がかかる。

 Break off Online 製の治療薬だからこその即効性であった。

 

「危ないところ助けて頂きありがとうございました。知っているようですが、改めて挨拶させてください。ボクはライカ・バイフ・ブレイルです」

 

「あっ……私はライカ様の従者、モアです。助けて頂きありがとうございました」

 

 主が深々と頭を下げたのを見て、モアもそれにならう。

 

「それでそっちのお姉さんも凄いけど、シキも凄いね! あの著大熊(マイティ・ベア)を吹っ飛ばすなんて。やっぱりエフェメラさんの子供だから?」

 

「っと、そうだった。ライカ様は母さんとどこで―――」

 

「だからそれは戻ってからにしましょう。迷宮の中で話し込むのは危険よ」

 

 セラが後ろからひょいとシキを抱きかかえ、会話を強引に終わらせた。

 

「安全地帯はあの王族がいるし、込み入った話はあそこでしないほうがよさそうね。一緒に村まで撤収でどう?」

 

「はい、私たちも探索は限界だったので撤収で構いません」

 

 ライカとモアも承諾したため、シキたちは〈祖霊の渓〉の外にある村まで戻ることになった。

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