精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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226話 状況を整理しよう

「母さんが国王の命の恩人? 一体どういうことなんだ」

 

 迷宮〈祖霊の渓〉を脱出したシキたちは、冒険者ギルド支店の隣にある宿を取った。

 ライカたちも普段はここを拠点にしているという。

 

 王族の圧力でここに訪れる冒険者の数が少ないため、宿は閑散としていた。

 ライカたちを部屋に招き、母エフェメラの情報を聞き取りしたシキであったが、わけがわからず首を傾げる。

 

「でもこれで母さんが生きてブレイル獣王国まで来たことは確定した。やはり〈克己の逆塔〉を封鎖したのも母さんだったか」

 

「その後エフェメラさんは、祖龍に挑んで敗れたって王様が言ってた。それって……」

 

「ライカ様が母さんのことを知っているなら話は早いです。俺は母さんを探しにこの国に来ました。母さんの足跡を、一部は想像になりますが説明します」

 

 シキはこれまでにわかったことを頭の中で整理しながら、ライカたちに時系列を追ってエフェメラの行動を説明した。

 

 事のはじまりは十年前。

 エフェメラとシキが暮らしていたレドーク王国のカドナ村が、魔獣(闇の眷属)に襲撃されたことから始まる。

 

 村付きの冒険者だったエフェメラはシキを含めた村人たちを逃がすと、魔獣襲撃の原因を調べるために単身で森に入った。

 そして〈克己の逆塔〉と呼ばれる洞窟を発見。

 

 この洞窟はレドーク王国とブレイル獣王国を繋ぐトンネルだった。

 ここから強い魔獣が森に移動し、縄張りを追い出された魔獣がカドナ村を襲ったと思われる。

 

 エフェメラは洞窟を崩落させ、レドーク王国とブレイル獣王国の繋がりを断った。

 これにより魔獣の移動がなくなり、カドナ村周辺は平和を取り戻したと思われる。

 

 時を同じくしてライカの住むバイフ族の屋敷に、当時はまだ王子だった国王とエフェメラがやってきた。

 一か月に満たない期間であったが、ライカと親交を持つ。

 そしてその後行方不明となる。

 

 それから九年後。

 ライカが国王に謁見した際に、エフェメラは迷宮〈祖霊の渓〉の祖龍に挑み敗北したと知らされた。

 

「山脈の向こうにある国と繋がってたんだ。知らなかったそんなの。モアは知ってた?」

 

「いいえ、知りませんでした」

 

「普通に考えると敗北はすなわち死なんだけど、ここでもう一つ重要な手掛かりがあります。【巡礼神の加護】持ちの人がいて、その人の未来予知によると〈古き墓所を見下ろす祭壇にて眠る〉母さんが見えたそうです」

 

「古き墓所って、まさか」

 

「俺は〈祖霊の渓〉にある霊廟のことじゃないかと思っています」

 

 この情報はリファの諜報活動の成果である。

 レドーク王国で亜神ベリーズを倒し、シキが辺境伯を叙するまでに一か月以上の待機期間があった。

 

 〈SG-061 リファ・ロデンティア〉の鼠型ドローンは、その期間中にブレイル獣王国へ侵入。

 先行して徹底的な情報収集を行っていた。

 

 情報収集にはスキャンした書物の内容も含まれる。

 とある古文書に霊廟の内部が描かれていたのだが、それはまさに〈古き墓所を見下ろす祭壇〉だったのだ。

 

 鼠型ドローンで霊廟への直接侵入を試みようとしたが、内部に神気の反応があったため断念。

 外様の神ムハイがそうだったように、神気を帯びた存在はスプリガンの非表示設定を看破する可能性がある。

 霊廟への接近は慎重にならざるを得なかった。

 

「なるほど、そうだったんだ!」

 

「シキさん。どうして〈祖霊の渓〉の霊廟だと思ったんですか? 他にも〈墓所を見下ろす祭壇〉はありそうな気がしますが」

 

 ライカは素直に納得したが、モアはそうではなかった。

 疑惑の眼差しをシキに向けている。

 

 ライカは王位継承権を持つ姫であり、最近は武勇を示したこともあり利用価値が高い。

 これまでも様々な輩がライカをかどわかそうと近寄ってきた。

 本人が純朴で貴族としての機微に疎いため、モアが代わりに警戒する役目を負っている。

 

 妙に都合良く助けに現れた展開に、モアは違和感を拭えない。

 さすがに全能熊(マイティ・ベア)をけしかけられたとまでは思っていないが、何か隠し事をしているような気がしていた。

 

「ええと、それは」

 

 諜報の事実は伝えられない。

 どう返事をしようかシキが迷っていると、オルティエのフォローが入る。

 

「【巡礼神の加護】による未来予知、つまり未来の光景となるため、現在進行形でエフェメラは祭壇で眠っているはずです。他の街の墓所や迷宮を調べましたが、条件に該当しそうな場所はありませんでした。その一方で霊廟は封印されているため内部の詳細は不明です。消去法になりますが霊廟しか目星がない状況のところに、ライカ様からエフェメラが祖龍に挑んだという情報を得て、確信に変わったのです」

 

「そういうことでしたか。とりあえず理解しました」

 

「それでボクの王位継承を手伝うって言ったんだね。祖龍に挑む過程で霊廟に寄るから。けれどボク、王位に興味はないんだよね」

 

「えっ」

 

「ああ、でも心配しないで! 祖龍には挑むつもりだから。ボクね、エフェメラさんに憧れてたんだ。小さい体なのにすごく強くて、ボクに武術の楽しさを教えてくれた人。だからもし祖龍に敗れたのが本当なら、ボクが代わりに倒すよ。それが恩返し」

 

 ライカは大きく頷いてからシキを見つめる。

 翡翠の瞳は羨望で揺らいでいた。

 

「シキはおかーさま……エフェメラさんが生きてると思ってるんだね」

 

「そりゃぁ、生きてないと未来は見えませんからね」

 

「うーん、でも未来予知なんて凄い能力が本当にあるのかも疑いたくなるけど、そっちもシキは信じてるんだね。そんな気がする」

 

「ええ、まぁ……」

 

 ライカの意外と鋭い指摘にたじろぐシキであった。

 

「それでは祖龍に挑むお手伝いはさせてもらえる。ということでよろしいですか?」

 

「うんいいよ、よろしく。あと命を助けてもらったお礼もしないと。何でも言ってね」

 

「姫様!?」

 

 唐突な安請け合いにモアが青ざめた。

 ライカはお構いなしに喜びを爆発させる。

 

「やったねモア、パーティーが組めるよ! 王族の圧力に負けて尻尾を巻く人ばっかりでうんざりだったもん。でもシキたちの方が強いし、ボクたちがおまけじゃないの?」

 

「母さんを見つけること以外に興味はありません。恩返しをしたいということであれば、俺たちの代わりに矢面に立って頂けないでしょうか」

 

「そういうことならわかったよ。でも一つだけお願いが。ボクをシキたちの弟子にしてよ」

 

「ええっ」

 

「だから言葉遣いも気にしなくていいし、ボクのことも呼び捨てでいいよ」

 

「姫様ぁ!? 百歩譲って教えを乞うのは構いませんが、ご自身の身分をお考えください!」

 

「王族じゃあるまいし、ボクはボクより強い人たちに威張るの嫌だもん」

 

「強さを尊ぶのは構いませんが、身分を覆すほどのものではありません」

 

「えーそんなことないよ。強さのほうが大事だよ」

 

 ライカとモアが口論を始めてしまった。

 なんだか長引きそうなので一旦放置して、シキは気になったことをオルティエとこっそり相談する。

 

「母さんが国王の命の恩人って話、詳しく知りたいな。というか間違いなく国王が関与してるよね。王族には近づきたくないけど、そうも言ってられなくなってきたかー」

 

「王都での調査は継続しますので、まずは迷宮探索を進めましょう。また新たに得た情報源も有効活用しましょう」

 

 ライカたちの前なので言葉を濁しているが、前者は鼠型ドローンによる諜報活動のことだ。

 そして後者は情報屋〈群れ鼠〉のことで、オルティエは速やかに指令を下す。

 

『聞いていたわね、リファ』

 

『了解。任せておいて』




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