精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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230話 なぜベストを尽くさないのか

「どーん」

 

 エルの上体が沈んだかと思うと、次の瞬間には対峙していた敵が吹っ飛ぶ。

 巨体が砲弾のように壁に激突してめり込んでいた。

 

「ふおおおおおお、すごい! よく見えなかったけど、背中で体当たりしたんだよね?」

 

「ちっちっ、ただの体当たりじゃない。インパクトの直前に足払いをかけて浮かしてる。だから相手は踏ん張りがきかない。人はこれを鉄山靠と呼ぶ」

 

「ふおお、てつざんこー!」

 

 興奮した様子のライカに、エルが口の前で指を振りながら説明をした。

 前に悪党相手にも披露していた技である。

 

 小柄なエルではあるが、実はスプリガンの中ではフェリデアに次いで格闘技が得意だった。

 繰り出す技がどれもこれも3D格闘ゲーム風なのが興味深い。

 

 このまま一撃KOかと思われたが、階層守護者の意地だろうか。

 腕が伸びて崩れた壁の縁を掴むと、ひび割れた甲冑鎧が出てきた。

 

 昨日に引き続き、二度目の登場の首無し騎士(デュラハン)である。

 パーティー入れ替えをしたシキたちは、早速迷宮〈祖霊の渓〉に潜っていた。

 

「む、意外と頑丈」

 

「でも甲冑がもうボロボロだ」

 

 壁から這い出した首無し騎士を迎え撃つのは、左右に布陣したルミナとエキュースだ。

 ルミナは自身の体より大きいタワーシールド()()を構えていて、首無し騎士の振り下ろした両手剣を真正面から受け止めた。

 

 傍から見るとか弱い少女が襲われている構図だが、真実は異なる。

 

「えいっ」

 

 ルミナはタワーシールドで両手剣を防ぐだけでなく、首無し騎士に向かって押し込んだ(シールドバッシュ)

 衝撃で首無し騎士の篭手が砕け、両手剣は弾き飛ばされ天井に突き刺さった。

 ルミナが更に踏み込むと、タワーシールドに押された首無し騎士の巨体が尻もちをついて転倒する。

 

「はいっ」

 

 そこへ元気の良い掛け声と共に、距離を詰めていたエキュースが得物の薙刀(グレイブ)を一閃。

 胴体を袈裟斬りにされた首無し騎士は、魔素の泡となって消失した。

 

「ルーちゃんナイスー」

 

「エッちゃんもナイスですー」

 

「うーん、なんかラクロス部っぽい」

 

 勝利を喜びハイタッチする二人を見ながら、シキが感想を漏らす。

 どちらも夏季仕様の士官用シャツに紺のプリーツスカートと女子高生ルックだし、とにかくさわやかなのだ。

 

 前世の高校生活を思い出すと共に、自分とは無縁の世界だったなぁと、勝手にダメージを受けてシキが胸を押さえる。

 

「ご主人様!? どうかしましたか?」

 

「あ、いや、なんでもないよ。青春を感じていただけだから」

 

 側で護衛していたシアニスが心配そうにしているので、シキは苦笑いを浮かべながら頭を撫でた。

 

「本当に強いんですね……」

 

 モアは第三位階冒険者で【狩猟神の加護】を持つ弓使いである。

 ライカと協力すれば首無し騎士を倒すことも可能だが、さすがに三手では無理だ。

 

 あっさり首無し騎士を倒してしまったエルたちには驚きを隠せない。

 昨日から驚き過ぎて、もうぐったりだった。

 

「軽装なのも納得ですが、さすがにスカートはまずくないですか?」

 

「大丈夫ですよ、もし捲れて見えてしまっても平気なのを履いていますの……で……」

 

 大丈夫と言った傍から、エキュースの顔がみるみるうちに赤くなる。

 ちらちらとシキの様子を伺っているので、見られた時のことを想像しているのだろう。

 

「全然平気じゃないじゃーん」

 

「ちょ、やめてってばエルちゃん」

 

 エルが冷やかしでプリーツスカートを引っ張るものだから、エキュースの顔がもう真っ赤だ。

 片手は薙刀で埋まっているので、もう片方の手でスカートを押さえている。

 

「わ、わたしは見られても平気でしゅ」

 

「ルミナも無理しなくていいよ。緊張して嚙んじゃってるじゃん。アンダースコートだっけ? まぁいくら見られてもいい仕様だからといって、まじまじと見られたら恥ずかしいよね」

 

「アリエあたりならこれでもかと見せつけてきそうですね。やはりマスターは乙女の下着、見たいですか? 私も履きましょうか?」

 

「いや、やめてね? スカートを持ち上げないで。あとアリエには言わないでよ。絶対調子に乗るから」

 

 エキュースたちのこの初々しさが、余計に女子高生っぽいなと思う。

 アリエとオルティエも見習って欲しいものである。

 

「私から話を振っておいてあれですが、これは何を見せられているんだろう」

 

「はいはい! 次の階層守護者はボクにやらせて。首狩りの魔石入りの〈雷撃〉を試したいから」

 

 スカートの話には興味がなかったのだろう。

 一人で鉄山靠の練習をしていたライカが手を上げた。

 丁度良い機会なので、シキは確認しておきたかったことを尋ねる。

 

「ライカ様。首狩りの魔石なんかもそうですけど、もし強力な武器が手に入ったら、惜しみなく使えますか?」

 

「どういう意味?」

 

「武闘家として武器に頼るのは駄目とか、心得としてあるのかなと」

 

「あー、そういうことね。稽古や試合ならともかく、迷宮でそんなことやってたら死んじゃうよ。でもそれを理解している人って少ないんだよねー」

 

「弱い人ほど武器の性能を理由にして勝敗に難癖をつけますね」

 

「うんうん、そうそう」

 

 かつて実際に難癖をつけられたことがあったのだろう。

 ライカとモアは思い出したように顔を顰めた。

 

「強い武器を使いこなすのも実力のうちだよ。でも武器に頼り切りになるのは駄目。戦ってる最中に武器を失うかもしれないから。武器だけじゃなくて体格や加護の力、その日の体調でも実力なんて上下するんだし、常にその時の自分の全力を出せるようにするのが大事なんだよ」

 

「なるほど、よくわかりました。ありがとうございました」

 

 これで緊急時はライカたちに Break off Online 製の武器を持たせる選択肢ができた。

 祖龍戦においてシキたちはライカのフォローに徹するつもりだが、勝てる見込みがなさそうであればそうも言ってられない。

 

 全力を尽くす大切さを教わったばかりなのに、さっそく縛りプレイの算段となってしまい、内心で申し訳なく思うシキであった。

 

「というわけで早く進も~。〈雷撃〉撃ちたいよ」

 

 さぁ話はおしまいだと、落ち着かない様子のライカが、シキの腕に抱きついてぐいぐいと引っ張った。

 それを見てモアの目が吊り上がったのは言うまでもない。

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