精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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231話 獅子の王子様ダンジョンへ行く

「魔獣の湧きがすごい?」

 

「ああ。だから一目散に逃げ帰ってきたぜ」

 

 中層から戻ってきた冒険者の話を聞いて、リリは首を傾げる。

 シキとライカたちが迷宮〈祖霊の渓〉に入って三日後、リリは冒険者ギルドを訪れていた。

 

「姫様のおかげで間引けてたんじゃないの?」

 

「そのはずだけどねぇ。たまたま魔獣の湧きが偏ってたとかじゃなくて?」

 

「いやいや、逃げる先に困るくらいだったんだって。あれは偏ってるとかそういうもんじゃないぜ」

 

 ギルド職員シンディーの指摘にも、冒険者は真っ向から否定した。

 

「うーん、だとしたら不穏だ。トラブルの前兆じゃないといいんだけど」

 

 リリの表向きの仕事は迷宮調査、及び過度に沸いた魔獣の間引きだ。

 そしてその裏ではシキの動向を監視している。

 厳密はシキにトラブルが降りかからないように監視している、だが。

 

「まぁ丁度よかったじゃない。もうすぐ間引き部隊が来るんでしょう?」

 

「うん。合流したら早速迷宮に向かうとするよ、って丁度来たみたいだ……げ」

 

 冒険者ギルドに入ってきた一団を見て、思わず変な声が出たため慌てて手で押さえた。

 いつもの迷宮調査メンバーに交じって、(たてがみ)の立派な獅子頭の大男がいる。

 

 シキと揉めた張本人、王族のリオン・シィズ・ブレイルだ。

 黄金の鎧はオルティエに壊されたからか、今日は銀色の鎧を纏っていた。

 

 王位継承権第一位の登場にギルド内は騒然となる。

 リリを見つけたリオンがこちらへやってきた。

 

「お前が迷宮調査員のリリか」

 

「はい。殿下」

 

「よい、面を上げろ」

 

 呼ばれたのでリリが仕方なく跪いていると、リオンは鷹揚に頷いた。

 リリの正体がギルドマスターのカルナノーラであることに気付いた様子はない。

 

「俺も迷宮の調査に参加する。ついてこい」

 

「ですが……」

 

「祖霊が眠る迷宮を管理するのも王族の務め。どれ、中層で任務に従事している我が妹を激励してやろうではないか」

 

(今まで一度も来なかったくせに)

 

 内心でリリは毒づく。

 それっぽいことを言っているが、リオンがわざわざ〈祖霊の渓〉に来る理由など一つしかない。

 

 シキたちへの報復だ。

 暗殺者でも差し向けるかもとは思っていたが、まさか自ら出向くとは想定外だ。

 しかも到着が早いので、これは最初から来るつもりだったのだろう。

 

「迷宮では何が起こるかわかりません。もし継承権第一位の御体に何かあっては、国王陛下に申し訳が立ちません」

 

「案ずるな。父上の許可は得た。むしろ快く送り出してくれたぞ」

 

(だろうね。ドラ息子が殊勝にも責務を果たそうとしたなら、あの親馬鹿は素直に喜ぶだろうさ。裏の事情も知らないだろうし)

 

 現在の国王のこともよく知っている。

 リリは顔が引き攣りそうになるのを必死に堪えた。

 

「それに共に迷宮へ潜るこいつは()()()()第一位階冒険者だ。魔獣如きに後れを取るなど、万に一つもないだろう?」

 

「そういえば迷宮調査の予定にいかなった人がもう一人いますね」

 

 リリはリオンの隣の外套を羽織っている人物に視線を向ける。

 その人物が外套を脱ぐと、全身に琥珀色の鮮やかな鱗を纏った蜥蜴人族の男が現れた。

 その姿を見て周囲の冒険者が再びざわめく。

 

「おお、第一位階冒険者」

「ランダークのオジキだ」

「あれがあらゆる魔術を弾く〈龍鱗〉か」

 

 蜥蜴人族の男が手を上げると冒険者たちのざわめきが止まる。

 蜥蜴の口からくぐもった低い声が漏れた。

 

「あらかた外野に言われてしまったが、〈龍鱗〉ランダークが王族からの護衛依頼を承った。祖霊より受け継ぎしこの鱗に懸けて、対価に見合う働きをすると約束しよう」

 

 ランダーク・ロンク・ブレイルは七氏族のうちのひとつ、ロンク族の長だった。

 王位継承権も第三位であったが、そのすべてを放棄。

 

 ただの冒険者ランダークになってから、もう二十年は経つ。

 リリはギルドマスターのカルナノーラとして、ランダークが子供だった頃から交流がある。

 

(あの泣き虫ランがよくここまで成長したものだ。翼人族の子供よりもぴーぴー鳴いて、私の後を追いかけてきて可愛かったなぁ)

 

 ……などとつい昔を懐かしんでしまったが、頭を軽く振って思い耽るのをやめて状況を確認する。

 親のコネで第一位階冒険者になったリオンとは違い、彼の実力は本物だ。

 

 他の面子も第三位階から第二位階冒険者たちなので、普通に迷宮調査するだけなら問題ない。

 問題ないことが問題だ。

 

 戦力不足を理由に撤退できないので、先に迷宮に潜っているシキたちに追いてしまう。

 だがリオン一人でどうやってシキたちに報復するつもりだろうか。

 さすがに出会い頭に斬りかかったりはしないだろう……しないよな?

 

 つまり協力者、別動隊がいるはずだ。

 リリ一人でリオンと別動隊を抑えるのは厳しいので、最悪ランダークに正体を明かして協力してもらうしかない。

 

「なんだ? 俺の実力に不満があるのか」

 

「いえ、そんなことは」

 

「ふっよかろう、ならばこれを見るがいい」

 

 リリの言葉を待たず、リオンが腰に差した剣を抜き放つ。

 漆黒の刀身は反り返っていて、表面では赤い血管のようなものが脈打っている。

 一見すると禍々しい様相の剣だが、ブレイル獣王国に住む者であれば真逆の感想を抱くだろう。

 

「まさかそれは」

 

「そうだ、よく見ろ冒険者ども。これが祖龍に認められし者だけが扱うことのできる宝剣〈爪龍剣〉だぁぁぁ!」

 

「「「うおおおおおおおお」」」

 

 剣を掲げてリオンが宣言すると、冒険者たちが盛り上がる。

 〈爪龍剣〉はこの迷宮の最奥にいる祖龍手と戦い、認められ与えられた爪によって造られた国宝。

 冒険者にとっては憧れの象徴であり、盛り上がるのは当然だがリリはそれどころではない。

 

(こいつ、私怨のためだけに宝剣を持ち出しやがった! あの馬鹿親が許可したのか!? あとギルド内で抜刀するな! 危ないだろうが!)

 

「はっはっは。どうだ素晴らしいだろう? これで王族に歯向かう不届き者など一刀に伏してやる」

 

(しかもそれを言うとか、隠す気ないのか? 馬鹿なのか?)

 

 リリの呆れ顔を他の冒険者と同じだと解釈したのだろう。

 リオンは牙を剥いて機嫌よく笑っていた。

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