精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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232話 連携◎

「やっぱり魔獣の湧き、多くない?」

 

「ええ、これはおかしいです」

 

「そう? ボクはいっぱい戦えて嬉しいけど」

 

 迷宮の通路を歩きながらシキとモアが話していると、ライカが割り込んできた。

 前者と後者では声のトーンに大分差がある。

 

 迷宮に籠って三日。

 中層にある安全地帯を拠点にして、シキたちは最下層への攻略を進めていた。

 

 小型情報端末(リーコン)を先行して飛ばしているので、迷宮の構成と魔獣の配置は筒抜けだ。

 シキの拡張視覚の端にはMPA表示があり、魔獣の動きが赤い光点で記されている。

 

 本格的に迷宮攻略を始めた際には、

 

「オルティエさん、本当にマッピングをお任せしてよいのですか? 筆記具もないようですが」

 

「問題ありません。通った道は全て記憶していますので」

 

「そう、ですか」

 

 などと疑いの視線をぶつけてきたモアだったが、攻略初日の帰り道に本当に覚えているのだとわかると、今度は信じられないものを見るような目に変わった。

 

 実際は通った道以外も魔獣の配置も全部わかると知ったら、怖がられてしまうだろうか?

 ちらりとオルティエの顔色を伺ったシキだが……心底どうでもよさそうな顔をしていた。

 他人にどう思われようが興味がないのだろう。

 

 最短で最下層へ向かうことも可能だが、手の内は明かせないので普通に攻略している。

 ただ分かれ道の際に、それとなく正解の道を提案してはいるが。

 

 それにライカたちとしっかり連携できるかどうかの確認も必要なので、魔獣との戦闘はある程度こなしたい。

 ついでに間引ければよかったのだが、魔獣の湧きが凄くMAPの赤い光点は増える一方だった。

 

「姫様、いつもと違うということは迷宮で異変が起きているということです。あそこにいるはずのない著大熊(マイティ・ベア)に襲われたことをお忘れですか?」

 

「うぐぅ、わかってるよ。でもあの時は帰り道で疲れてたし、不意打ちで油断してただけだもん。今なら勝てるもん」

 

 両手を頭の後ろに回して言い訳を連ねるライカ。

 しかし急に立ち止まる。

 白虎耳をぴんと立てると、進行方向の突き当たりの丁字路を睨みつけた。

 

「左から何か来る」

 

『小型情報端末の映像を画面に出します』

 

 殿を務めるオルティエが、シキとスプリガンたちに情報を伝達。

 そこに映る集団を確認してルミナが駆け出した。

 

「範囲攻撃が来ます。皆さん私の後ろに」

 

 ルミナが先頭に踊り出てタワーシールドを掲げるのと、丁字路の左側から顔を出した魔獣が魔術を放つのはほぼ同時だった。

 虫の翅を生やした小さな妖精のような魔獣、中級妖魔(ミドルイービル)の指先から、凍てつく氷の刃が放射状に放たれる。

 

 しかしシキたちは既に一直線に並び、ルミナのタワーシールドの陰に隠れていたので命中することはない。

 ガリガリとタワーシールドが削られるような音が通路に響き渡るが、それだけだ。

 

 魔術 《氷嵐(ブリザード)》を受け止めたルミナがタワーシールドの底を地面に叩きつけると、こびりついていた氷の破片が地面に落ちた。

 再詠唱の隙は与えない。

 

「ルーちゃん」

 

「はいっ」

 

 ライカの呼びかけにルミナが応える。

 地面に突き立てたタワーシールドにライカが飛び乗ると、思い切り蹴った。

 ライカの体が弾丸のように飛び出し、射線上にいた中級妖魔を巻き込んで壁に激突する。

 

「Gihihihihihihi!」

 

 ライカに掴まれ壁に押さえつけられた中級妖魔が、皺枯れた老人のような奇声を発しながら藻掻いている。

 

「〈招雷〉」

 

 設定された言葉が引き金となって、ライカの手甲(ガントレット)が魔術具としての効果を発揮する。

 首狩りの魔石に蓄えられた魔力を吸って〈雷撃〉が発動。

 手の平の中で稲妻が暴れ回り、掴んでいる中級妖魔を蹂躙した。

 

「Gih―――」

 

 中級妖魔は断末魔を上げる間もなく炭化。

 消し炭となって、迷宮の床を汚す黒い粉と成り果てた。

 効果は限定されるが、魔術と違って即効性があるのが魔術具の利点だ。

 

 敵は一体だけではない。

 壁から手を離したライカの頭上に、二体目の中級妖魔が現れる。

 

 目と口の端をつり上げ、邪悪としか形容できない笑みを浮かべたそいつは、既に詠唱を終えていた。

 ライカに向けた指先に魔力が収束し、魔術が発現する―――その寸前、一条の矢が飛来して中級妖魔の腕を撃ち抜いた。

 

 これはモアの援護射撃で、二人きりの時から変わらない連携だ。

 ライカは背後を見ずとも、片膝を突いて矢を射るモアの姿が容易に想像できた。

 

「Gihiiiiiiiii!」

 

「姫様、今です」

 

 ライカは「ふっ」と短く息を吐きながら回し蹴りを放つ。

 肘から先を失い、傷口から血を噴き出している中級妖魔は痛みに気を取られていて、ライカの回し蹴りを躱す余裕はない。

 

 遠心力を得た足甲(グリーブ)の硬い踵が中級妖魔の側頭部を捉える。

 ぐしゃ、と熟れた果実が潰れた感触と共に、中級妖魔の頭部だったものが血糊となって壁に張り付いた。

 頭部を失った体は制御を失い、地面に落ちると動かなくなる。

 

 中級妖魔は冒険者パーティーでいうところの後衛にあたるので、攻撃に晒されればこのようにひとたまりもない。

 では今回遭遇した魔獣の群れに前衛がいなかったのかと言えば、否だ。

 

 ライカが中級妖魔の相手をしている間に、シアニスとエキュースが相手をしていた。

 それは巨大な芋虫で、名を怪物蟲(モンストラスオーム)という。

 

 体に無数のレンズ状の目を持ち、その一つ一つが盾のように硬かった。

 巨体と硬さを利用した体当たりが脅威だが、動きは直線的で普段の移動速度は遅い。

 これが後衛役の中級妖魔と先に接敵した一因でもあった。

 

 シアニスとエキュースは怪物蟲の正面に立たないように回り込みながら、目以外の場所を切り刻む。

 それだけで怪物蟲は為す術がない。

 結局一度も突進することなく、全身から紫色の体液を垂れ流してあっさり絶命した。

 

「うむ。お前たち、よくやったぞー」

 

 戦闘が終了すると、シキの横で腕を組み後方師匠面していたエルが皆を労った。

 組み合わせを変えて戦闘を繰り返してきたが、シキとライカたちの連携も十分取れるようになっている。

 

 そろそろ最下層行きの階段前に立ちふさがる、階層守護者に挑んでもいい頃だろう。

 シキが考え込んでいると、疑り深いモアがルミナに質問していた。

 

「よく中級妖魔が前に出ていると気づきましたね。もし怪物蟲が先で突進を受けていたら、一列になった私たちは一網打尽になっていたかもしれません」

 

「どちらにしても私がガードしましたので、大丈夫ですっ」

 

 小型情報端末で見てましたとは言えない。

 ルミナが誤魔化すように力こぶを作って可愛らしくアピールした。

 

「確かにルミナさんなら受け止めてしまいそうですけど」

 

「うんうん。ルーちゃんなら止めてたね」

 

 すぐ横でライカが頷いている。

 

「ライちゃんの守りは任せて」

 

 すっかり仲良くなったので、スプリガンたちとライカはお互いに愛称呼びが定着していた。

 特に同年代? のルミナとエキュースとは気が合うようだ。

 

 シアニスとエルも、妹ないし後輩枠で愛でている。

 ちなみにシキはモアの厳しい目があるので、相変わらずライカとは接触禁止だ。

 

「さて、今日は早めに安全地帯に戻って、明日は階層守護者に挑戦しようか」

 

「「「はーい」」」

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