精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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233話 フォークで掬って舐めればいいのよ

「ああ、君たち。戻ってきたか。実はこの安全地帯に私以外の王族が―――ひっ」

 

 安全地帯へ帰ってきたシキたちを、検問官のナウラ・シィズ・ブレイルが出迎えた。

 リオン・シィズ・ブレイルの来訪を伝えに来たのだが、スプリガンたちの只ならぬ殺気を感じ取って怯む。

 

「また会ったな。人族のガキとメイド」

 

「お久しぶりです。リオン殿下」

 

 空気も殺気も読めない男、リオンがシキたちの前に現れる。

 背後には気まずそうな表情のリリもいた。

 

「一人前に女を侍らせてるのか。どいつもこいつもガキだが」

 

「シ、シキとリオン兄様は知り合いだったのか。いやあ驚いたな」

 

 普段は温厚なエルやシアニスが無言、無表情になっていて滅茶苦茶怖い。

 ナウラがなんとか場を和ませようとするが、

 

「マスター……シキ様の第三位階冒険者昇格をかけた戦闘試験の試験官が、急遽参加されたリオン殿下でした。その節はシキ様の顎を砕いて頂き、大変お世話になりました」

 

「な、なるほど」

 

 いつも以上に感情と言葉の抑揚が消えたオルティエの説明を聞いて、ナウラは天を仰ぐ。

 リオンが傍若無人なドラ息子なのは王族の内で周知の事実だ。

 シキに対して酷い仕打ちをした結果、オルティエたちが激怒しているのだとすぐに理解できた。

 

 ナウラは王位継承権第四位だが、野心はかけらもない。

 実力も器もないと自覚しているので、安寧に暮らせればそれでよかった。

 

 順調に行けばこんな兄が将来の国王なので不安しかないが、その分周囲が団結して兄をフォローするはずだ。

 国政に全く興味のなかった兄が、何故迷宮調査に乗り出したのか。

 シキたちが関係しているのか、ただの気まぐれか。

 

 真意は不明だし知りたくもないが、腐っても兄は王位継承権第一位なのでトラブルになるのはまずい。

 シキたちも迷宮中層で活躍できるほどの猛者なので、刃傷沙汰になれば間違いなく大事になる。 

 

「随分と不躾な殺気だな」

 

「!? 貴方は〈龍鱗〉殿!」

 

 リオンを守るように進み出た人物が、被っていたフードを外す。

 現れたのは琥珀色の美しい鱗を持つ鱗人族。

 第一位階冒険者の〈龍鱗〉ランダークだ。

 

 本来のリオンの護衛が、別パーティーとして遠くから見守っている理由はこれか。

 ナウラは納得する。

 これほど強力な護衛はいない。

 

「それ以上私の護衛対象に殺気を向けるなら敵と見なす。そちらの少年が顎を砕かれたと言っていたが、戦闘試験中のことだろう? 実力不足の逆恨みもいいところだ」

 

「―――は?」

 

 寒いわ。

 殺気がびゅうびゅうと吹き荒れている。

 いつもなら爽やかな笑顔を見せてくれるルミナとエキュースの顔が見れない。

 

 季節が真夏だったら涼しくて丁度良かったのかしら。

 もう手に負えなくなってナウラが現実逃避していると、リリが慌てて割り込んできた。

 

「第三位階の試験で第一位階のリオン殿下が手加減しなかったんだ……と、聞きました。必要以上に難易度の高い試験を受けさせられて怪我をしたのであれば、納得いかない部分もあるでしょう。あ、いやだからといってシキ君が第三位階止まりだとは思ってないからね?」

 

「ふむ、そういう経緯があったのか。ならば殿下が悪い。早合点して申し訳なかった」

 

「ちっ」

 

 素直に頭を下げるダンダークの横でリオンが舌打ちする。

 オルティエの柳眉がぴくりと動いた。

 

「あれは俺の油断が招いた結果です。だから遺恨なんてありません。そうだよね? オルティエ」

 

「……はい、マスター」

 

『どうせ迷宮探索中に別行動してるパーティーと一緒に襲ってくるんでしょ。正当防衛なら消しても構わないよね? にぃに』

 

『その時は任せて。反重力フィールドで角砂糖サイズに圧縮してやるから』

 

「……」

 

 小型情報端末を通して様子を見守っているリファとプリマが、物騒なことを言っている。

 当然反応できないのでシキは無言を貫くが、オルティエは復讐する光景を想像したのだろう。

 うっすらと笑みを浮かべていた。

 

 いや怖いって。

 誰もがシキと同じ感想を抱いたようで、急に笑みを浮かべたオルティエを見て引いていた。

 

「さて殿下、野営の準備をしますので、あちらでお寛ぎください」

 

「ふん、そうだな。いつまでもこいつらの顔を見ていても仕方ない。行くぞ」

 

 同行していた迷宮調査員のフォローもあって、リオンは引き上げていった。

 

「「「はぁ」」」

 

 危機が去ってシキ、ナウラ、リリの三人が同時に深くため息をつく。

 それに気が付いて顔を上げると、揃って胃のあたりに手を当てているた。

 もうお互いに苦笑いするしかない。

 

「オルティエ、(治療薬入りの)お茶を振舞ってよ」

 

「承知しました。すみません、これでも抑えているのですが」

 

「いや、皆が俺のために怒ってくれてる、その気持ちはありがたいよ。ちゃんと堪えてくれるし」

 

 ちょっと殺気が漏れるくらいは仕方ない……と思うことにしておく。

 

「ぴこーん。閃いた」

 

「どうしたのエルちゃん」

 

「オルティエ、糧食のハンバーグ弁当出して。どうせあっちは携帯食でしょ? 見せびらかしながら食べてくる」

 

「それは名案ね」

 

「ちょ、言ってる側から煽るのやめてね? あー、でも明日の階層守護者攻略に備えて英気を養うのはありかな。リリさんとナウラ殿下も、もしよければご馳走しますよ」

 

 苦労をかけた二人への詫びも兼ねて、シキは Break off Online 製の糧食をご馳走することにした。

 糧食には棒状固形の携帯食料(シリアルバー)と料理をパック詰めしたものの二種類がある。

 後者は白米単体の商品もあれば、普通の肉や魚をおかずにした弁当もあった。

 

 どれもパック詰めのものを開封して付属のプレートに乗せる方式だ。

 しかもプレートには発熱する使い捨ての謎のカートリッジが付いていて、米や弁当を温めることができる。

 さすがに糧食そのものを出したらオーパーツ過ぎるので、皿に盛りつけた状態で提供した。

 

 エルのリクエストに応えて、トマトソースハンバーグだ。

 牛と豚の粗挽き肉にトマトソースがよく絡まり馴染んでいる。

 

 ナイフで切れば肉汁が溢れ出て、肉の旨味と甘酸っぱいソースのコラボレーションが炸裂。

 副菜はアンチョビをアクセントにしたグリルポテト。

 間に挟むとポテトの素朴な味で舌の上がリセットされ、ハンバーグの濃い味を何度も楽しむことができる。

 

「どうして迷宮でレストランのような食事が出てくるの? というか城のシェフのより美味しいのだけど」

 

「美味し過ぎます。毒見しましたけどやっぱりこれ何かしらの毒では?」

 

「これは《消臭》して帰らないと、仲間たちから確実に詰められるね」

 

「ふおおおおお」

 

 異世界の料理を初めて食べたナウラ、モア、リリ、ライカが舌鼓を打っている。

 アトルランの住人にとって地球の料理は暴力的な美味さだった。

 スプリガンと出会って再び食べられるようになったシキにはよくわかる。

 

「この料理はオルティエさんが作ったのですか?」

 

「ふふん、これもシキ様に仕えるメイドの嗜みのひとつです」

 

「次元収納から出して温めただけだよね?」

 

「これを作ったシェフを紹介してちょうだい。雇いたいわ」

 

「ギルドの酒場で出したらバカ売れだよこれ」

 

「ふおおおおお」

 

「申し訳ありません。企業秘密ですので……ただし、ここで食べたことを秘密にして頂けるなら、皆さんにはまた無償で提供しましょう」

 

「「「………」」」

 

 無言で見つめ合い頷く三人。

 ライカは食べ終わった皿に付着したソースを、名残り惜しそうに見つめている。

 我慢できず禁断の皿舐めに手を染めようとしたが、

 

「姫様、はしたないです」

 

「ふおっ」

 

 モアにぴしゃりと手を叩かれていた。

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