精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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234話 釣られ熊ー

 迷宮攻略を初めて四日目。

 今日のライカはいつも以上に調子がよかった。

 異常なほどに湧いている魔獣を千切っては投げ、千切っては投げの大暴れをしている。

 

「まさかハンバーグに隠されたバフ効果が?」

 

「確実にありますね。また食べられることが嬉しくて、張り切っています」

 

「あー、そういう意味か。鼻先の人参みたいでなんかちょっと申し訳ないね」

 

 ハンバーグの素材は地球由来のものなので、アトルランの人々の体に悪影響を及ぼす懸念がある。

 個人差でアレルギー反応を起こす可能性もあるので、経過観察が必要だろう。

 そもそもその素材が、本当にシキの知る地球由来のものとも限らないのだが……。

 

 リオンたちの接触を避けるために、今回は普段以上に最短ルートで中層を突き進む。

 異常な程の魔獣の湧きを考慮すれば、一度距離を離してしまえば追いつくことは難しい。

 

 リオンたちは慌てて追いかけてくるだろうか?

 監視用として残した小型情報端末で見てみると、何故かまだ安全地帯にいた。

 

 別パーティーに扮していたリオンの護衛たちも合流し、何やら話し込んでいる。

 シキが目配せするとオルティエが小さく頷き、拡張画面に映るリオンたちの音声が聞こえてきた。

 

 

 

「これから伝えることは王族の秘密だ。口外することは許さん」

 

「お待ちくださいリオン殿下、そのような秘密を我々に伝えてよろしいのですか?」

 

「父上の許可は得てある。口外しなければいいのだから簡単だろ? それに迷宮調査に役立つぞ。中層の途中に最下層への近道がある、という話だからな」

 

「―――!?」

 

 リリが顔を引きつらせた。

 それは近道があるという内容を聞いたからか、それとも同意を確認する前に秘密を聞かされたからか。

 両方だけどあの表情からして、後者の感情の方がより強そうだなぁとシキは思った。

 

「さっさと近道のある地点へと向かうぞ」

 

 全員でぞろぞろと向かった先は、安全地帯から割と近くにある行き止まりであった。

 何もない壁に突き当りで皆が戸惑う中、リオンがおもむろに〈爪龍剣〉を鞘から抜いて掲げる。

 

 すると地響きと共に壁がスライドして、下り階段が出現した。

 

「途中に分かれ道があるが、進路は左だ。間違えるなよ」

 

 リリたちの驚く顔を見て上機嫌になったリオンが、偉そうに説明しながら階段を降りていく。

 全員が階段を降り始めて暫くすると、再び壁が動いてただの行き止まりに戻った。

 

 

 

「オルティエ」

 

「はい、マスター」

 

 これは想定外の事態だ。

 シキはパーティーから少し離れて、こそこそ緊急会議を始める。

 

小型情報端末(リーコン)はどうした?」

 

「現在も追跡させています。最悪回収できず放棄することになるかもしれませんが……勝手な判断をして申し訳ありません」

 

「いや、グッジョブだよ。CR(クレジット)で補充できる物は惜しみなく使うべきだ。あ、コアAIは別ね」

 

「霊廟の前室に繋がっているのであれば、不用意に接近はできません。神気を放つ存在に察知される可能性があります。小型情報端末はこれまで通り、索敵範囲内ギリギリの距離で待機させます」

 

「うん、それでいいと思う。相手が小型情報端末に気付いていないのか、それとも気付いててあえて動かないのかはわからないからね。先回りされたことについてはどう対処しよう?」

 

「別の小型情報端末で常に周囲は警戒していますので、奇襲を受けることはありません。相手の出方に応じて対処すればよいかと」

 

「了解、そっちは任せるよ。気になるのは偽物の〈爪龍剣〉が近道の鍵になっていたことだ。王族が迷宮に関与なんてできないよね? となると迷宮の管理者である祖龍が近道を制御してて、偽物の〈爪龍剣〉を認めたことになるけど……それってつまりどういうこと? 頭がこんがらがってきたよ」

 

「現時点では情報が不足しており、明確な答えが出せません。予定通り祖龍に直接会い質問するしかないでしょう」

 

「うーん、もしかして祖龍に認められることと、爪を賜ることはイコールじゃ―――」

 

「シキー、どうしたの? そんなに離れてたら置いてっちゃうよー」

 

 元気いっぱいのライカがパーティーの最前列から大声で話しかけてきたため、緊急会議は強制終了。

 丁度中層最後の階層守護者の元に辿り着いた所だ。

 ライカが先頭のままドーム状の広い空間に足を踏み入れる。

 

 侵入者を感知して、中央に黒い巨体が三つ現れた。

 後足で立ち上がりこちらを見下ろしてくるのは、見覚えのある熊型の大型魔獣。

 

 著大熊(マイティ・ベア)である。

 著大熊は三体セットの階層守護者であり、この場所でしか発生しない。

 にも関わらず著大熊の一体が迷宮の通路をうろついていたということは、やはり何かしらの異常事態が起きているのだろう。

 

「この間の借りを返すよ、モア」

 

「はい、姫様」

 

「それじゃあみんな作戦通りで」

 

 シキの号令と共にパーティーメンバーが三組に分かれて散開する。

 ライカとモア、ルミナとエキュース、エルとシアニス。

 シキとオルティエはフォロー要員だ。

 

 三組が大きな三角形を作り著大熊たちを包囲すると、それぞれが大声を出したり武器を地面に叩いたりして存在をアピールする。

 すると著大熊たちはあっさりと三手に分かれて、各ペアに襲い掛かった。

 

「簡単に釣れたね」

 

「所詮は獣ですから」

 

 著大熊三体と同時に戦えば大乱闘に発展し、不慮の事故や不測の事態が置きかねない。

 なので分断して各個撃破に持ち込む作戦だ。

 

 一体ずつなら負ける要素はほぼない。

 ルミナとエキュースはそれぞれが守備と攻撃を受け持ち、着実にダメージを与えていた。

 

 エルとシアニスは二人とも素早い身のこなしと、圧倒的手数で著大熊を翻弄。

 二体の著大熊が倒されるのは時間の問題だろう。

 

 残るはライカとモアのペアだが……

 大振りの熊手を掻い潜ったライカが、目の前の大きな腹に拳を突き入れた。

 

「〈招雷〉!」

 

 手甲に付与された〈雷撃〉が発動し、青白い電流が著大熊の全身を駆け巡る。

 

「grooooow!」

 

 ぶるりと体を震わせて動きを止める著大熊だが、分厚い毛皮に阻まれ〈雷撃〉の通りは悪い。

 すぐに復帰してライカに両腕を伸ばす。

 

 頭上から迫る熊手を察知して、ライカは股下をスライディングで潜り抜ける。

 動く得物に釣られて著大熊が自身の股下を覗き込むと、バランスを崩してそのまま前方へ一回転。

 

 でんぐり返しをした著大熊の顔面に飛来したのは、一本の矢だ。

 それは【狩猟神の加護】を持つモアが放った強弓(パワーショット)で、動物の毛皮くらいなら簡単に貫ける。

 

 今回は当たり所が良か(クリティカ)った。

 著大熊の右眼窩に突き刺さると、(やじり)は眼球を貫き、その奥にある脳へと到達する。

 

「Roaaaaaa―――」

 

 尻切れトンボの咆哮を残した著大熊は大の字に倒れ、そのまま絶命した。

 

「え、もう終わり? まだ本気の〈雷撃〉撃ってないのに!」

 

 著大熊の死体の向こうで不満げにライカが頬を膨らませている。

 モアは珍しくライカに反応せず、自身の弓の威力に驚いていた。

 

「当たり所が良かったとはいえ、著大熊を一撃で倒せるなんて……」

 

「四日間の濃密なバトルのおかげで、モアもレベルアップしてるみたいだね」

 

「二人パーティーの時より遥かに効率が良いですから。成長していて当然です。まだ()()()はありそうですね」

 

 さすがにシキの言うようなレベルアップという概念はないが、アトルランの人々は魔獣を倒し溢れた魔素を体に取り込むことによって、自分の力にすることができる。

 ライカとモアの育成は、祖龍の元へ辿り着くまでに行う重要な課題であった。




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