精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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235話 げに美しき最下層世界

 階層守護者の著大熊(三体)を倒し、現れた階段を降りた先には……

 

「うわぁ、絶景だね」

 

 迷宮内とは思えない景色が広がっていた。

 シキたちが辿り着いた場所は小高い丘になっていて、振り返ると高さが五十メートルくらいある尖塔が聳え立っている。

 

 この尖塔が中層と繋がっているはずなのだが、見た目は完全に途切れていた。

 尖塔の先端より上に広がっているのは―――満天の星空。

 

 単体の星が散らばるだけでなく、淡く光る星団もたくさん浮かんでいる。

 まるでプラネタリウムを見ているかのようだ。

 

 頬を撫でる風を感じて視線を下げると、丘の斜面には無数の花が咲き乱れている。

 丘を下るように道が続いていて、その先には大きな平原や湖、神殿のような建物が見えた。

 

 視界の右端は断崖絶壁。

 左端には白い砂浜、それより先には漆黒の海が広がっている。

 

 〈祖霊の渓〉の最下層は、絶海の孤島になっていた。

 

「すごい、迷宮の中とは思えないよ」

 

「ついに最下層まで来ましたね、姫様」

 

「「ごしゅじん(様)! 早く探検しよう(しましょう)!」」

 

 ライカとモアは感無量といった感じで、エルとシアニスはそわそわしている。

 ルミナとエキュースも声こそ出さないが、美しい景色に見惚れていた。

 

『マスター、〈SG-070 エイヴェ・サリア〉を〈ユニット転送〉で召喚し、周辺を調査していますが、上空及び側面はある程度進むと見えない壁に阻まれます』

 

『お兄様、星が綺麗です。今度デートしましょうね』

 

『……ん』

 

 ボイスチャットでそう報告してきたオルティエとエイヴェに、シキは周囲にバレないよう短い返事をした。

 仕事の速さには頭が下がる思いだ。

 

 見えない壁があるということなので、エンフィールド大樹海にある迷宮と同じ原理なのだろう。

 あの綿毛羊(フラフィーシープ)たちが住んでいた青空広がる草原も、実際は閉鎖空間であった。

 

「探検したいところだけど、こうも見晴らしが良いとお互いに位置がバレバレだね。湖のほとりにいるのは恐竜? 平原には騎兵みたいのが徘徊してるな」

 

「まるい恐竜近くで見たい、見たい」

 

 エルが袖をぐいぐい引っ張りながら見上げてきた。

 シキはそんなエルの頭を撫でながら皆に問いかける。

 

「さて、今後の方針の確認ですが、最終目的地は龍脈を管理する祖龍の元なのは変わらない。ここまではいいですか?」

 

 シキたちのいる丘の対面、孤島の向かい端には円錐型の険しい山がある。

 活火山のように山頂から煙を噴き出していた。

 

 あそこに龍脈がある。

 ちなみに霊廟は山の麓に見えている神殿のような建物がそうだ。

 

 本来ならリオンの追跡を振り切り、最短で祖龍の元へ向かうつもりだった。

 しかし近道を使い先回りされてしまったので、急ぐ理由がなくなった。

 むしろ急がず相手の出方を伺った方がいいだろう。

 

「俺も最初は寄り道せず、真っすぐ龍脈に向かおうかと思ってました。けどこの景色を見たら少しは冒険したい気持ちが湧いてきました。ライカ様はどうですか?」

 

「賛成! ボクも冒険したい。モアもいいよね」

 

「姫様、そう簡単には決められません。迷宮に籠る期間が増えれば、食料が不足する可能性があります。それに安全確保についてはどうお考えですか?」

 

「食料はまだ蓄えがあります。だよね? オルティエ」

 

「はい。予定より一週間延びたとしても問題ありません」

 

 一般的な携帯食料がオルティエのストレージボックスにまだまだあるし、Break off Online 製の糧食も好きなだけ出せる。

 後者は色々な意味で危険なので明かせないが。

 

「それにちゃんと調べてみないとわかりませんが、この最下層は見た限りでは自然が溢れているので、食料の現地調達ができそうです。安全確保も同じですね。普通の外のように見張りを立てて野営できるかも要検討でしょう」

 

「わかりました。もう少し最下層を調べて、滞在が可能であれば私も反対はしません」

 

「よし決まり。それじゃぁ冒険に出発!」

 

「「おーーー」」

 

 まずは水源の確保ということで、エルの希望通り湖を目指して探索を始める。

 道中で狼の群れに襲われたが、迷宮の最下層に出現する魔獣にしては弱く、簡単に蹴散らすことができた。

 その後に森の側を通りかかると、猪の魔獣―――猪突牙獣(ラッシュボア)が飛び出してきた。

 

「お、今日の晩御飯が自らやってきたぞ。小振りで丁度いい大きさね」

 

「小振り? これがですか?」

 

 モアの反応を聞いて、シキはエンフィールド大樹海に生息する猪突牙獣が他所より大きいことを思い出した。

 樹海の濃密な魔素を吸収して巨大化していたのだ。

 

 猪突牙獣もこちらを敵とみなしたようで、そのまま戦闘となった。

 ライカたちが血気盛んに突っ込んでいくので、シキは下がって様子見だ。

 

「人も魔獣も魔素で成長するんだねぇ。でも中層より魔獣が弱いのはなんでだろう」

 

「マスター、追加の調査報告があります。この孤島は魔素の分布に偏りがあるようです」

 

 シキの視界にある拡張画面に、航空写真のように精巧な孤島のマップが表示される。

 次に魔素の濃淡が色分けされた状態でマップに追加された。

 

「おー凄い。皆がいると攻略本いらずだね。助かるよ」

 

「お褒め頂きありがとうございます。龍脈のある地点が最も魔素が濃く、次いで霊廟、その他と続きます。一番薄い場所だと外と変わりません」

 

「ふむふむ、こうやって見ると湖周辺も結構魔素が濃い目なのか。あの恐竜は手強いかもね」

 

「猪突牙獣の討伐、終わりましたー」

 

 シキとオルティエが後方でひそひそ話をしている間に戦闘は終了。

 報告に来たエキュースの後ろには、皆が囲んでボコボコにした猪突牙獣が横たわっている。

 

 川があれば血抜きも楽なのだが、周辺にはないため皆で協力して木に吊るす。

 必然的に今晩の野営地がここに決まる。

 

「ここをキャンプ地とする」

 

「そうですね? 猪突牙獣が他の魔獣に奪われないよう見張りが必要ですね」

 

「あ……うん、言いたかっただけだから気にしないで」

 

 オルティエのストレージボックスから天幕を取り出し設営。

 量と日持ちの問題から猪突牙獣を食べきることは不可能なので、血抜きの後は必要な分の肉を切り取って残りは埋める。

 

 そもそも食べられるかどうかだが、

 

「塩胡椒を振って焼いただけでも普通に美味いな。もしお腹が痛くなったら言ってね。霊薬を渡すから」

 

「でもやっぱりあのはんばーぐ? には負けるよ」

 

 すっかり舌が肥えてしまったライカだったが、かといって猪突牙獣の肉を食べるスピードが落ちるわけでもない。

 ぺろりと平らげると、おかわりを自分で焼き始めた。

 

『マスター、〈銀猫〉から連絡がありました。依頼していた十年前の出来事について情報を得たそうなので、映像に出します』

 

 この場にいないオルティエからボイスチャットが届くと、拡張画面にスラム街の映像が現れる。

 前回とは違う廃屋のにリファとラドール、そして少し離れたところにザビがいて、丁度話が始まるようだ。

 

 シキは串に刺した猪突牙獣の肉を頬張りながら、映像から流れる音声に耳を傾けた。

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