精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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237話 空飛ぶすぱ……

「外様の神か、迂闊に近寄らなくて正解だったね」

 

 夕食を終えたその日の深夜。

 シキは天幕で眠るふりをして、エンフィールド大樹海にあるエアスト村に転移した。

 

 〈群れ鼠〉として働いてくれたリファを労うためだ。

 Break off Online の〈ショップ〉では、ゲーム内通貨であるCRで様々なものを購入できる。

 

 具体的にはコアAI用の武装、治療薬や糧食、戦術(Tactical)車両(Vehicles)といった機材、物資、そして兵舎や指令室、補給倉庫、貯水庫といった部屋そのものだ。

 更には水や発電に必要な謎燃料もCRで購入可能なので、エネルギー枯渇の心配もない。

 

 Break off Online の世界観の影響で購入できる物が軍事用に偏っているが、質実剛健で機能美に優れているとも言える。

 シキはミリタリーデザインが好きなので問題なし。

 

 というわけで岩壁をくり抜いて作ったエアスト村には、現代的、近未来的な設備が整っていた。

 設置した〈応接室〉の備品である二人掛けのソファーに、シキとリファが並んで座っている。

 

 リファはシキの腕に抱きついてニコニコしていた。

 冒険中なのでシャワーを使うわけにもいかない。

 

 なのでくっつかれると臭いそうで恥ずかしいシキであったが、リファはお構いなし……というか、がっつりシキの匂いを堪能していた。

 何よりも嬉しいご褒美なのである。

 

「どうしてエフェメラお母さまは、祖龍は偽物で外様の神だと見破れたのかな」

 

「わからないけど、もしかしたら父さんが未来予知を使って母さんに助言してたかもね。クールぶってるけど意外と過保護だし」

 

「それはにぃにも同じだね」

 

「そうかな……」

 

 前世の記憶があっても親に似るものだろうか?

 というか一緒に暮らしたこともないのに似るのか?

 遺伝と言われればそれまでかもしれないが。

 

「祖龍の正体は現国王しか知らないみたいだね。俺たちのやることはそう変わらない。ライカたちを鍛えて祖龍に挑む。外様の神の出方次第だけど、最優先は母さんの救出だ。それまでに国王に詳しい話を聞くかだけど……」

 

「もし拘束して取り調べるのであれば、龍脈に至る直前がよろしいかと。この国が混乱する期間が最小限で済みます」

 

 ソファーの側に立つオルティエの助言にシキは頷いた。

 オルティエはシキにベタベタくっつくリファを、羨ましそうに凝視している。

 

「うん。問題は本物の祖龍がどうなっているかだ。迷宮の異変は外様の神の仕業だとして、その目的は何だと思う?」

 

「侵略でしょう」

 

「まぁそうだよね。これで三回目? 外様の神と戦うの」

 

 一度目はエンフィールド大樹海にて、〈無敗をもたらすもの〉ことムハイと。

 二度目はレドーク王国の王都にて、吸脳鬼が生け贄を得て進化した〈亜神ベリーズ〉と戦った。

 厳密に言うと二度目は亜神と付く通り、神格を得る手前の状態だったが。

 

「どっちも同じ親玉がいるんだっけか」

 

「外様の神〈悪魔卿〉ですね。〈悪魔卿〉は八つの師団を率いています。そして第八師団〈腐乱の群衆〉に所属しているのが〈無敗をもたらすもの〉、〈亜神ベリーズ〉は第二師団〈集積智会〉の所属となります。また〈流離(さすら)彷徨(さまよ)い〉の眷属である〈囁く闇結晶(ダークウィスパー)〉とも交戦、撃破しています」

 

「あ、そうだったね。大昔に隕石としてアトルランに落ちてきた、〈星屑の迷宮〉の成りそこないだっけか。神話の時代からこつこつ神気を貯めてたんだから、気の長い話だ」

 

 アトルランは創造神が作った〈世界網〉によって守られている。

 〈世界網〉がある限り、外様の神のような大きな存在はアトルランに侵入できない。

 なので外様の神は〈世界網〉に阻まれない矮小な存在である闇の眷属や、創造神を裏切った邪人を介して侵略を企んできた。

 

 これまでシキたちが倒してきた存在も、あと少し放置されていればアトルランで顕現し、大きな被害を与えていただろう。

 そうなる前に倒されたのは偶然なのか、それとも……。

 

 外様の神とスプリガンの宿敵であるメナスは、()()()()同一の存在である。

 

 機棲骸(きせいがい)と書いてメナスと読む。

 様々な機械や構造物を寄せ集めてくっつけたような見た目の惑星外生命体で、文字通り機械に棲む骸なのだという。

 メナスはある日突然現れ、あらゆる機械と構造物を吸収、取り込みながら人類に襲い掛かってきた。

 

 というのが Break off Online での設定である。

 外様の神とメナスに外見は性質の一致は見られないが、エネルギー反応に共通点があった。

 

 ―――そして外様の神を倒すと、無償チップが得られる。

 

 アトルランにスプリガンたちが存在し、侵略者である外様の神を倒すと報酬があるという状況に、シキはより高次な存在の構想、意図、意志、目的といったものが働いているような気がしていた。

 実際にアトルランでは神が人々へ加護を振りまいているのだから、全然ありえる話だろう。

 

「リオンたちの様子はどう?」

 

 彼の名前を出すだけで、周囲の空気は凍り付く。

 隣で甘い雰囲気を醸し出していたリファも、剣呑な表情を浮かべている。

 

「ほんとごめんて」

 

「にぃには何も悪くないよ? 悪いのはあの猫頭」

 

「リオンはパーティーメンバーと共に、霊廟の前室を拠点として迷宮調査に参加しています。合流していた本来のリオンの護衛パーティーは別行動を取っていて、龍脈と霊廟の中間地点にある森に潜伏しています」

 

「潜伏?」

 

 オルティエが拡張画面に小型情報端末の映像を映す。

 そこにはわざわざ危険な森の中で野営する護衛パーティーが見えた。

 しかも斥候がひとり、常に霊廟と龍脈に続く道を見張っている。

 

「はい、我々を奇襲するつもりなのでしょう」

 

「こっちから奇襲して処す?」

 

「うーん、別に彼らに恨みはないし、近寄らずに放置でもいいような」

 

「じゃぁリオン本人は処していいよね?」

 

「どうしても戦わなければならなくなったらね? 相手は一応王族だし」

 

「むぅ、にぃには甘すぎる」

 

 リファが不満そうに頬を膨らませるが、シキ的には「甘い」というよりは「興味がない」という感覚であった。

 

 確かに戦闘試験で油断した結果、顎が割られてしまったが、あれは自分の不注意だ。

 首から上の負傷なので、下手をしたら死ぬ可能性もあったかもしれないが、ナノマシンの治癒力やオルティエのフォローを信じていた。

 

 この先も多少の負傷はあるだろうし、その度に怒っていても疲れるだけ。

 前世の時から怒るのが苦手なシキなのであった。

 

 ただし自分がなんとも思っていなくても、周囲は違うということだ。

 だから伝えるべきことは、ちゃんと伝えておかなければならない。

 

「戦わないに越したことはないけど、戦う状況になったら容赦はしないよ。もし傷つけられたのが俺じゃなくて皆だったらと思うと……あれ、想像するとなんか怒りが込み上げてきたかも」

 

「そう、それが私たちの気持ちよ。忘れないでねにぃに」




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