精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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240話 傾国(物理)の美女

 シキたちと恐竜の戦いを上空から観察している者がいる。

 それはカラスの姿をしていて、湖の上を旋回していた。

 

 リリに変装しているカルナノーラが操る使い魔だ。

 

(中層の階層守護者より強い魔獣を一方的に屠るのか。やはりシキたちは異常だ)

 

 カラスの視界を通して観戦しているカルナノーラが内心で呟く。

 当たれば即死するような恐竜の攻撃を紙一重で躱し、時には防ぎ、僅か三手で転倒させてしまった。

 追撃でシキが魔剣で尻尾を一刀両断したが、あれは前に見ていたのでそこまで驚かずに済んでいる。

 

 カルナノーラの見立てだと、あの恐竜を倒すには第二位階冒険者パーティーでは厳しい。

 第一位階冒険者のみでパーティーを組み、しっかり連携を取る必要があるだろう。

 

 ここで言う連携とは、シキたちのような攻撃の順序ではなく、全体的な役割分担のことだ。

 まずは回避重視の囮役、後方からの攻撃役、そして後方を守る壁役。

 恐竜の鱗が厚過ぎるため、回避しながらの攻撃は現実的ではない……普通ならば。

 

 冒険者としての才能は、神より賜った加護の内容で決まる。

 例えば〈龍鱗〉ランダークは【大地神の加護】持ちで、大地を踏みしめている間は岩のように頑丈になる、という特殊能力が備わっていた。

 

 ランダークの加護は特に強力で、刃物どころか魔術さえも弾いて鱗に傷一つ残らない。

 これが第一位階冒険者たる所以だ。

 

 このように何かしらの事象を司る神から加護が与えられている以上、加護が強くなればなるほど、発現する能力もより特化したものになる。

 

 先の役割分担の話で言えばランダークは壁役に適していて、囮役と攻撃役にはなれない。

 カルナノーラも攻撃役にはなれるが、他にはなれない。

 

 それと比べてシキたちはどうだろう。

 各人の加護は明かされていない。

 見た通りで判断するなら、全員が特定の武器に特化した達人ということになる。

 

 例えば【剣神の加護】持ちなら剣の扱いに限り、技能や身体能力に絶大なる恩恵を得るが、そんな都合よく武器の達人たちが集まるだろうか?

 しかも恐竜相手に攻撃と回避を両立できる程の実力者だ。

 

(シキの周りにはオルティエを含めて十三名の女がいる。その全員がランダークと同等かそれ以上だって? 一体どんなハーレムだい。それに魔術師や治癒師といった後衛職が一人もいないのも不自然だ)

 

 他にも気になることがある。

 命のやりとりをしているというのに、異常なほどに緊張感がない。

 

 まるで組手の稽古をしているような感覚で、暴れ狂う恐竜へと突っ込んでいく。

 それは無謀でも油断でもなく、余裕を感じさせるものだった。

 

(もしシキたちに本当に余裕があって、皆が足並みを揃えているから似たような実力なのだとしたら……まさかね。だったらリオンがやらかした時に国が滅んでいるか)

 

 カルナノーラの懸念はほぼ当たりである。

 穏便に済ませたいというシキの意向がなければ、どうなっていたことやら。

 

 気になることはもう一つ。

 ライカとモアだ。

 

 初手で死にかけたせいもあり、モアの顔色は青白く表情も硬い。

 強敵である魔獣と戦っていれば、これが普通の反応である。

 

 だからシキたちに馴染んでしまっているライカはちょっとおかしい。

 エルのフォローありきだが、第一位階の領域に片足を突っ込んでいる。

 

 これまではモアと二人パーティーで効率が悪かったが、シキたちと合流して急成長していた。

 元々才能があることは知っていたが、ここまでとは。

 

(これなら順当に祖龍の元へ辿り着きそうだ。となると問題は……)

 

 カルナノーラはシキたちの観察をやめて、使い魔のカラスを湖と龍脈の間にある森へと向かわせる。

 森の中にはリオンの護衛たちが潜伏していた。

 

 中層から霊廟前室へのショートカットで最下層にやってきたカルナノーラたちであったが、合流していたリオンの護衛たちは周辺調査を名目にすぐ別行動を取る。

 調査と言う割に森に籠りっぱなしで、斥候が一人道を監視していることから、シキたちを待ち伏せしていることは明白だ。

 

 どうせリオンの差し金だろう。

 ここまでくると、もう介入せざるを得ない。

 

 カルナノーラは使い魔を消し、意識を自分の体に戻す。

 目を開けると、そこは神殿のような石造りの部屋になっていた。

 霊廟の前室である。

 

「〈龍鱗〉様、少しよろしいですか?」

 

「何かね? リリ殿」

 

 カルナノーラはランダークを霊廟の外の裏手に呼び出す。

 何かを察したランダークは、蜥蜴の目を細めながら言った。

 

「リリ殿、気持ちは嬉しいが私は見ての通り蜥蜴人族だ。人族とは文化や身体的特徴がかなり違うので……」

 

「はぁ、何を勘違いしてるんだい。誰があんたに告白するのさ」

 

 カルナノーラが変身を解く。

 黒髪は金髪に、黒いローブは明るい灰色に。

 背が少し伸びて、顔つきも若々しいものから、大人びた妙齢の美女へと変化する。

 

「お、おばば様!? まさか変装だったとは……これは違うのです。日頃から財産目当ての雌がですね」

 

「はいはい。わかったから声をもう少し小さくしな。他の連中に気付かれる。あと私をおばばと呼ぶんじゃない」

 

「ぴっ」

 

 殺気を飛ばされて思わず変な声が出た。

 背筋を伸ばし、気をつけの姿勢を取る第一位階冒険者〈龍鱗〉ランダーク。

 彼は幼い頃からカルナノーラに厳しく躾けられてきたので、決して逆らうことはできないのだ。

 

「私が正体を明かしたのは、情報共有と頼み事があるからだ。まずリオン殿下だが、シキを恨んで護衛たちをけしかけようとしている。使い魔を飛ばして見てきたが、道中の森に潜伏していたよ」

 

「殿下がシキ殿を恨んでいる? 逆ではなくてですか?」

 

「ランダークは現場を見ていないし、殿下も言わないから知らなかっただろうけど、オルティエにあの金ぴかな鎧を割られたからね」

 

 冒険者ギルドの戦闘試験でシキとリオンが戦い、シキが顎を砕かれ負けた話まではランダークも聞いている。

 しかしその後、主を踏みつけられ怒るオルティエと一触即発になり、殺気で威圧されただけでなく自慢の鎧を割られたことは知らされていなかった。

 

「なるほど、それで殿下はいつものお気に入りの鎧を着ていないのか。そして逆恨みしていると。ではシキ殿が殺されないように殿下を抑えればよいのですね?」

 

「いいや、それも逆だよ。殿下が殺されないように守っておくれ。シキたちはどうにも得体が知れない。あれは実力を隠しているね。彼らが本気を出したら殿下なんてイチコロだよ。この私ですら、オルティエがどうやって鎧を割ったかわからなかったからね」

 

「ほう、それは興味深いですな」

 

 あの場では試験中のシキの攻撃が原因で割れたのだろうと、適当なことを言って誤魔化したが実際は違う。

 あれはオルティエの意思で何かが起こっていた。

 その場にいた護衛を足止めし、リオンの鎧をかち割ったのだ。 

 

「陛下の護衛たちとシキの接触は避けるようにするんだ。幸い森に引きこもってるから、シキさえ遠ざけてしまえばなんとかなる」

 

「それは護衛たちにとっても僥倖でしたな。今最下層をうろつき回れば、命がいくつあっても足りない」

 

「ああ、そうだね」

 

 リオンという邪魔者はいるが、カルナノーラたちは本来業務である迷宮の調査を行っていた。

 そして中層と同様に、この最下層でも異変が起きていることを確認する。

 

 従来より濃度の増した魔素による魔獣の増殖と強化。

 シキたちが戦っていた恐竜もまた、魔素で強化された魔獣なのであった。

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