精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

244 / 266
241話 サービスショット?

 尻尾を斬り落とすと、恐竜の脅威度は大幅に下がった。

 丸呑みにされないようにだけ注意して、皆で一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)を繰り返し恐竜の体力を削っていく。

 

 調子を取り戻したモアの援護射撃が恐竜の右目に突き刺さると、本日二度目のダウンを奪った。

 

「もらった!」

 

 シキは恐竜の体に飛び乗ると、魔剣〈流星砕き〉を喉元に振り下ろす。

 ワンパターンな攻撃だが、効果的なので問題ない。

 

 瞬間的に質量を増した隕鉄製の剣が恐竜の喉を斬り裂く。

 大量の血が噴き出しシキの全身を赤く染めた。

 

「Gyaaaaaaaaaaaaaaaa―――」

 

 痛みに苦しむ恐竜が吠えて暴れる。

 だがそれは千切れ掛かった首に、自ら止めを刺す形となった。

 

 衝撃で傷口が大きく開き、水風船が割れたかのように血が流れ出る。

 恐竜の動きは次第に弱まり、十数秒もすると動かなくなった。

 

「うげぇ……大惨事」

 

 辺り一面が血の海になり、その中でシキだけが佇んでいる。

 普段ならシキから離れないスプリガンたちだが、今回ばかりは血溜まりから早々に避難していた。

 

「「ごしゅじん(様)ー、大丈夫(ですか)ー?」」

 

 生臭い血の匂いが周囲に漂っている。

 敏感なエルとシアニスが鼻先に皺を寄せていた。

 主を心配する割に、近づこうとはしない二人である。

 

「うん、大丈夫。倒したのはいいけど、こいつの素材や肉を回収するのは無理だね。でかすぎる」

 

「魔石だけでも回収してはいかがでしょうか。セオリー通りであれば心臓付近に発生しているかもしれません」

 

「おお、そうだね」

 

 ライカたちがいる手前オルティエが曖昧な言い方をしているが、シキの拡張画面には小型情報端末(リーコン)による恐竜のスキャン結果が投影されていた。

 心臓の右横、丁度体の中央あたりに人の拳より大きい魔石がある。

 

 シキは魔剣を使って恐竜の胴体を斬り進めると、最後は手を突っ込んで魔石を強引に引き抜く。

 取り出した魔石は血濡れで色はわからないが、卵のような形をしていた。

 

「ふおおおおおお、すごい! 首狩りの魔石より大きい」

 

「こんな大きい魔石、初めて見ました。あれだけで小さい城が建つのではないでしょうか」

 

「マスター、他の肉食魔獣が寄ってくる前に移動しましょう。湖で軽く血を洗い流してください」

 

「ん、わかったよ」

 

 シキは湖に体ごと浸かって血を落とす。

 ついでに魔石も洗ってみると、エメラルドグリーンの綺麗な輝きを放っていた。

 

 表面はつるりとしているのに、内部は結晶が折り重なっているように見えるので不思議だ。

 当初の予定通り、一番上手にある川沿いを少し進んだところで休憩することにした。

 

「さぁ旦那様、服を洗いますので脱いでください」

 

「ん、ありがとう」

 

 ルミナに身ぐるみを剥がされ、パンツ一丁になったシキが川でしっかりと体を洗う。

 インナーとして着込んでいたパワードスーツ〈GGX-104 ガイスト〉は、服を脱ぐ前にストレージに仕舞ってある。

 

「先輩、タオルをどうぞ」

 

「ありがとう」

 

 エキュースからタオルを受け取り体を拭く。

 スプリガンたちはそれぞれシキの呼び方が違う。

 

 マスターやご主人様はなんとなくわかるが、先輩ってどうなんだろう?

 見た目はエキュースのほうが先輩なのだが。

 

 などととりとめのないことを考えながら体を拭いていると、こちらをじっと見つめるエキュースと目が合った。

 

「どうかした?」

 

「い、いえっ。なんでもないです。服を洗うのを手伝ってきます」

 

 エキュースは頬を赤らめると、服を洗っているルミナの元へと走っていった。

 

「シキの体って色白で細いね。それでよく戦えるね。加護が強いの?」

 

「ええまあ、そんなところです」

 

 シキは【吟遊神の加護】持ちだが、戦闘能力に対しては何の寄与もしていない。

 そのすべてがパワードスーツ〈GGX-104 ガイスト〉と、体内にあるナノマシンのおかげである。

 

「姫様、まだ幼いとはいえ殿方の裸をそんなに見てはいけません」

 

「えー減るもんじゃないし、いいよね?」

 

「ええまあ……」

 

「やったー」

 

「姫様!」

 

 興味津々といった感じでライカがシキの体を観察する。

 さすがにジロジロ見られると少し恥ずかしい。

 あと二カ月もすると十三歳の誕生日を迎えるが、まだまだ子供体形だ。

 

 シキはふと疑問が浮かぶ。

 二次性徴っていつ始まるんだっけ?

 

 そろそろのような気もするが、まだ声変わりしていないし、髭も生えていない。

 前世がどうだったか思い出そうとしたが、昔過ぎて曖昧だ。

 

 確認するように脇を見たり顎を撫でたりしていると、ライカの視線を遮るようにオルティエが割り込んできた。

 

「マスター、新しいお召し物です」

 

「うん、ありがとう」

 

 受け取って着替えていると、オルティエが顔を耳元に近づけてくる。

 オルティエは立体映像だから呼吸はしていないはずなのに、湿った吐息を感じたような気がした。

 

「ホルモン分泌量の推移からマスターの二次性徴は九か月後から始まりまずは―――」

 

「ええ……こわ……」

 

 

 

 シキに引かれてオルティエが凹むというアクシデント(自業自得)はあったが、翌日も最下層での冒険が続く。

 リオンの護衛たちがいる森は迂回する必要があった。

 

 孤島の端、龍脈のある山を真北とするなら、霊廟は北東、湖は西、森は中央付近となる。

 元より最下層は色々と見て回る予定だったので、回り道を提案してもライカたちから異論は出なかった。

 

 むしろ寄り道をして強い魔獣ともっと戦いたい、といった様子だ。

 ちなみに恐竜の魔石をライカの手甲に入れようとしたが、大きすぎて入らなかった。

 

「むー残念。首狩りの魔石でも〈雷撃〉の威力がすごい上がったから楽しみだったのに。……本当に入らない?」

 

「ちょ、無理やり入れようとしないで。魔石が割れる、割れる」

 

 ライカとそんなやりとりをしながら、川から離れて北上する。

 そこは孤島の北西部で、見渡す限りの草原地帯が広がっていた。

 

 高い木は生えておらず、障害物がないので乾いた空気が吹き荒れている。

 湖付近のジャングルじみた気候とは大違いだ。

 

「本当に景色がコロコロと変わるなあ。まるでサバンナだ。どれどれ野生動物はいるかな」

 

「ごしゅじん、なんか来た」

 

 周囲を見渡してたエルが指をさすのでその方向を見ると、砂煙を上げながら何かが近づいてくる。

 それは三頭の黒い馬だったが、ただの野生の馬ではない。

 

 三頭それぞれに別の武器を携えた騎士が騎乗していた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。