精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
尻尾を斬り落とすと、恐竜の脅威度は大幅に下がった。
丸呑みにされないようにだけ注意して、皆で
調子を取り戻したモアの援護射撃が恐竜の右目に突き刺さると、本日二度目のダウンを奪った。
「もらった!」
シキは恐竜の体に飛び乗ると、魔剣〈流星砕き〉を喉元に振り下ろす。
ワンパターンな攻撃だが、効果的なので問題ない。
瞬間的に質量を増した隕鉄製の剣が恐竜の喉を斬り裂く。
大量の血が噴き出しシキの全身を赤く染めた。
「Gyaaaaaaaaaaaaaaaa―――」
痛みに苦しむ恐竜が吠えて暴れる。
だがそれは千切れ掛かった首に、自ら止めを刺す形となった。
衝撃で傷口が大きく開き、水風船が割れたかのように血が流れ出る。
恐竜の動きは次第に弱まり、十数秒もすると動かなくなった。
「うげぇ……大惨事」
辺り一面が血の海になり、その中でシキだけが佇んでいる。
普段ならシキから離れないスプリガンたちだが、今回ばかりは血溜まりから早々に避難していた。
「「ごしゅじん(様)ー、大丈夫(ですか)ー?」」
生臭い血の匂いが周囲に漂っている。
敏感なエルとシアニスが鼻先に皺を寄せていた。
主を心配する割に、近づこうとはしない二人である。
「うん、大丈夫。倒したのはいいけど、こいつの素材や肉を回収するのは無理だね。でかすぎる」
「魔石だけでも回収してはいかがでしょうか。セオリー通りであれば心臓付近に発生しているかもしれません」
「おお、そうだね」
ライカたちがいる手前オルティエが曖昧な言い方をしているが、シキの拡張画面には
心臓の右横、丁度体の中央あたりに人の拳より大きい魔石がある。
シキは魔剣を使って恐竜の胴体を斬り進めると、最後は手を突っ込んで魔石を強引に引き抜く。
取り出した魔石は血濡れで色はわからないが、卵のような形をしていた。
「ふおおおおおお、すごい! 首狩りの魔石より大きい」
「こんな大きい魔石、初めて見ました。あれだけで小さい城が建つのではないでしょうか」
「マスター、他の肉食魔獣が寄ってくる前に移動しましょう。湖で軽く血を洗い流してください」
「ん、わかったよ」
シキは湖に体ごと浸かって血を落とす。
ついでに魔石も洗ってみると、エメラルドグリーンの綺麗な輝きを放っていた。
表面はつるりとしているのに、内部は結晶が折り重なっているように見えるので不思議だ。
当初の予定通り、一番上手にある川沿いを少し進んだところで休憩することにした。
「さぁ旦那様、服を洗いますので脱いでください」
「ん、ありがとう」
ルミナに身ぐるみを剥がされ、パンツ一丁になったシキが川でしっかりと体を洗う。
インナーとして着込んでいたパワードスーツ〈GGX-104 ガイスト〉は、服を脱ぐ前にストレージに仕舞ってある。
「先輩、タオルをどうぞ」
「ありがとう」
エキュースからタオルを受け取り体を拭く。
スプリガンたちはそれぞれシキの呼び方が違う。
マスターやご主人様はなんとなくわかるが、先輩ってどうなんだろう?
見た目はエキュースのほうが先輩なのだが。
などととりとめのないことを考えながら体を拭いていると、こちらをじっと見つめるエキュースと目が合った。
「どうかした?」
「い、いえっ。なんでもないです。服を洗うのを手伝ってきます」
エキュースは頬を赤らめると、服を洗っているルミナの元へと走っていった。
「シキの体って色白で細いね。それでよく戦えるね。加護が強いの?」
「ええまあ、そんなところです」
シキは【吟遊神の加護】持ちだが、戦闘能力に対しては何の寄与もしていない。
そのすべてがパワードスーツ〈GGX-104 ガイスト〉と、体内にあるナノマシンのおかげである。
「姫様、まだ幼いとはいえ殿方の裸をそんなに見てはいけません」
「えー減るもんじゃないし、いいよね?」
「ええまあ……」
「やったー」
「姫様!」
興味津々といった感じでライカがシキの体を観察する。
さすがにジロジロ見られると少し恥ずかしい。
あと二カ月もすると十三歳の誕生日を迎えるが、まだまだ子供体形だ。
シキはふと疑問が浮かぶ。
二次性徴っていつ始まるんだっけ?
そろそろのような気もするが、まだ声変わりしていないし、髭も生えていない。
前世がどうだったか思い出そうとしたが、昔過ぎて曖昧だ。
確認するように脇を見たり顎を撫でたりしていると、ライカの視線を遮るようにオルティエが割り込んできた。
「マスター、新しいお召し物です」
「うん、ありがとう」
受け取って着替えていると、オルティエが顔を耳元に近づけてくる。
オルティエは立体映像だから呼吸はしていないはずなのに、湿った吐息を感じたような気がした。
「ホルモン分泌量の推移からマスターの二次性徴は九か月後から始まりまずは―――」
「ええ……こわ……」
シキに引かれてオルティエが凹むという
リオンの護衛たちがいる森は迂回する必要があった。
孤島の端、龍脈のある山を真北とするなら、霊廟は北東、湖は西、森は中央付近となる。
元より最下層は色々と見て回る予定だったので、回り道を提案してもライカたちから異論は出なかった。
むしろ寄り道をして強い魔獣ともっと戦いたい、といった様子だ。
ちなみに恐竜の魔石をライカの手甲に入れようとしたが、大きすぎて入らなかった。
「むー残念。首狩りの魔石でも〈雷撃〉の威力がすごい上がったから楽しみだったのに。……本当に入らない?」
「ちょ、無理やり入れようとしないで。魔石が割れる、割れる」
ライカとそんなやりとりをしながら、川から離れて北上する。
そこは孤島の北西部で、見渡す限りの草原地帯が広がっていた。
高い木は生えておらず、障害物がないので乾いた空気が吹き荒れている。
湖付近のジャングルじみた気候とは大違いだ。
「本当に景色がコロコロと変わるなあ。まるでサバンナだ。どれどれ野生動物はいるかな」
「ごしゅじん、なんか来た」
周囲を見渡してたエルが指をさすのでその方向を見ると、砂煙を上げながら何かが近づいてくる。
それは三頭の黒い馬だったが、ただの野生の馬ではない。
三頭それぞれに別の武器を携えた騎士が騎乗していた。