精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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242話 メイド服と機関銃

 その黒い馬は体長が五メートル、体高は三メートルを超えている。

 普通の馬より二回りは大きい。

 

 見た目はサラブレッドだが、実際はばんえい馬よりも太い脚で大地を蹴っていた。

 馬に跨る騎士も相応に大きく、黒光りする全身鎧(フルプレート)を纏い、漆黒の外套(マント)を靡かせている。

 

 鎧の衣装は共通だが武器は剣、戦斧、杖と三者三様だった。

 

「三体セットか。階層守護者の熊を思い出すね」

 

「では対応も同じようにしますか?」

 

「そうしよう。皆、三手に分かれて―――」

 

 シキが指示を出そうとした時、杖を持った騎士が先制攻撃をしかけてくる。

 遠い位置から杖を掲げると、シキたちの足元の地面が隆起した。

 

「おおっと」

 

「今更そんなのに当たらないよ」

 

 無数の《地槍(アーススパイク)》となって襲い掛かってきたが、全員回避に成功。

 相手の出鼻を挫いたと思ったが、杖騎士の魔術はまだ終わっていなかった。

 

 地面から垂直に飛び出した《地槍》はその場に残ると、巨大化して石柱に変化する。

 そして並んだ石柱同士が同化して壁となり、シキたちは分断されてしまった。

 

「向こうからこちらを分断してきた?」

 

「そのようですね。俯瞰映像を出します」

 

 オルティエの操作でシキの拡張画面に草原の俯瞰映像が現れる。

 シキたちを中心にして、壁がYの字状に出現していた。

 

 どうやら最初からこちらの分断が目的だったようだ。

 三体の騎士は三手に分かれてこちらに向かってくる。

 

『うーん、無理して合流できなくもないけど、このまま各個撃破でもいいかな』

 

『はい、問題ありません。ライカとモアが同じ場所にいますので、他所では〈武装〉の使用を許可してはいかがでしょうか』

 

『それは名案だ。というわけで許可するよ。さっさと倒してライカたちと合流しよう。あ、死体が消失しないように、トドメだけは普通の武器で。ルミナは合流するまでライカたちを守ってあげてね』

 

『『『了解!』』』

 

 こうして各所で戦闘が始まる。

 シキとオルティエの元にやってきたのは、この状況を作り上げた杖騎士だ。

 

 初手で魔術を放ってきた通り遠距離タイプなのだろう。

 二十メートルほど離れた位置で立ち止まると、再び杖を掲げる。

 

 迷宮の最下層に棲む上位魔獣の権能なのだろうか。

 詠唱もなしに魔術が発現し、杖の先に翡翠色の輝きが生まれる。

 輝きは結晶化すると、4つに分裂してシキたちに向かって飛んできた。

 

「パルスシールドを展開しました」

 

 対するオルティエの権能だって負けていない。

 魔術の発動よりも先に青白い半透明の幕がシキたちを覆い、飛来してきた結晶がそれに触れると蒸発して消えた。

 

「マスターはトドメをお願いします」

 

 オルティエがストレージボックスから Break off Online 製の武装を取り出す。

 両手をメイド服のスカートの中に突っ込み、ゆっくりたくし上げる。

 

 まず出てきたのはオルティエの身長に匹敵する長く太い銃身。

 次に銃身を保持するための太い補助グリップと、酒樽のような追加弾倉が現れた。

 

 〈WR-0666 OVERNIGHT〉という名の重機関銃である。

 

「ライカたちがいないから次元収納に偽装する必要ないのに、なんでスカートから出したの?」

 

「マスターがお好きかなと思いまして」

 

「ええ……オルティエも懲りないね」

 

「ライバルは多いですから、アピールできる時はしていかなければなりません。こういうのはお嫌いでしたか?」

 

「十二歳に見せるものではないかなぁ」

 

「くっ、手ごわいですね。あと……」

 

「あと?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

 あと九か月もすれば二次性徴が本格的に始まる。

 そうすれば嫌でも体が反応して……などとはさすがに昨日の今日なので、口にするのは自重したオルティエであった。

 

 そもそも現在の設定は〈全年齢版〉であるため、スプリガンたちはシキが十八歳になるまで手が出せない。

 だから焦っても仕方がないのだが、現地人にはその制約がなかった。

 

 アトルランでは十五歳から成人である。

 ハニートラップなら対象が接近する前に排除できるが、シキが自ら近しい異性と関係を望むのならば、スプリガンに止める術はなかった。

 

 こればかりは融通の効かないシステムが憎らしい。

 下手をすれば三年間お預けを食らうが、そうなった時に嫉妬で狂わずにいられるだろうか……。

 

 オルティエが悶々としている間も杖騎士からの攻撃は続いている。

 並の結晶弾では通用しないと判断すると、杖騎士は杖を掲げて力を貯めた。

 

 翡翠色の輝きが巨大化し、直径二メートルくらいになったところで放たれる。

 放物線を描いて飛んできた巨大結晶が、パルスシールドに接触。

 巨大質量が衝突し空気が震え、緑と青の輝きが交錯したが、それだけだ。

 

「そろそろ攻勢に出ます」

 

「了解」

 

 巨大結晶の全てを消し去った直後にパルスシールドを解除。

 視界がクリアになったところで、重機関銃〈WR-0666 OVERNIGHT〉が火を噴いた。

 

 オルティエが腰だめに構えて撃つ(ヒップファイア)と、空気を焼くようなけたたましい銃声と共に、大量の弾丸がばら撒かれる。

 〈WR-0666 OVERNIGHT〉は12.7x99mm弾を毎分666発放つ。

 

 樽型の追加弾倉には3000発の弾丸が格納されていて、夜通し(OVERNIGHT)撃てるのがこの重機関銃の売りだった。

 しかし前述の通りカタログスペック上では毎分666発を消費し、銃身の冷却を加味し性能を半分に落としたとしても、夜通しどころか十数分程度しか持たない。

 

 名前は半分ジョーク、半分願掛けみたいなものであった。

 

 なお〈WR-0666 OVERNIGHT〉の表示設定はシキとオルティエ以外にはオフ。

 攻撃判定のみオンにしている。

 

 したがって銃声もシキとオルティエにしか聞こえておらず、音量(サウンドエフェクト)も30%に絞っている。

 あえてシキに聞こえるようにしているのは、銃撃音で攻撃タイミングをわかるようにするためだ。

 30%でも間近にいるとかなりうるさい。

 

 杖騎士からすると不可視の攻撃のはずだったが、銃弾は何かに阻まれた。

 空中で翡翠色の障壁のようなものと接触し、ガラスが割れるような音が連続して響く。

 

「お、向こうもシールドを張ってたみたいだね」

 

「問題ありません。このまま押し込みます」

 

 オルティエが〈WR-0666 OVERNIGHT〉を撃ち続ける。

 翡翠色の障壁が銃弾を防いでいたのは僅か数秒のこと。

 

 障壁を突破した銃弾が横腹に突き刺さると、黒馬が嘶きながら地面に倒れた。

 馬上の杖騎士も巻き込まれる形で転倒し、発動しかかっていた結晶弾が霧散する。

 

 オルティエは銃撃を維持しつつ前進。

 起き上がろうとしている杖騎士が的確に狙える位置へと移動した。

 

 中腰でどっしり構え、重機関銃を乱射する姿は堂に入っている。

 メイド服の銀髪美女というギャップが妙に栄えた。

 

 杖騎士は障壁を張って防御するが、またもや数秒で貫通する。

 無数の銃弾が黒い鎧を叩き、激しい火花が散った。

 

 鎧と鈍角に接触した弾丸は表面を滑り、あらぬ方向へ飛んでいく。

 その一方で真正面から捉えた弾丸は鎧を陥没させ―――やがて粉砕した。

 

 杖騎士が仰向けに倒れると、胸元に開いた大穴から翡翠色の魔素が噴出する。

 それは肉体から魂が抜け出したような光景であった。

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