精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
その黒い馬は体長が五メートル、体高は三メートルを超えている。
普通の馬より二回りは大きい。
見た目はサラブレッドだが、実際はばんえい馬よりも太い脚で大地を蹴っていた。
馬に跨る騎士も相応に大きく、黒光りする
鎧の衣装は共通だが武器は剣、戦斧、杖と三者三様だった。
「三体セットか。階層守護者の熊を思い出すね」
「では対応も同じようにしますか?」
「そうしよう。皆、三手に分かれて―――」
シキが指示を出そうとした時、杖を持った騎士が先制攻撃をしかけてくる。
遠い位置から杖を掲げると、シキたちの足元の地面が隆起した。
「おおっと」
「今更そんなのに当たらないよ」
無数の《
相手の出鼻を挫いたと思ったが、杖騎士の魔術はまだ終わっていなかった。
地面から垂直に飛び出した《地槍》はその場に残ると、巨大化して石柱に変化する。
そして並んだ石柱同士が同化して壁となり、シキたちは分断されてしまった。
「向こうからこちらを分断してきた?」
「そのようですね。俯瞰映像を出します」
オルティエの操作でシキの拡張画面に草原の俯瞰映像が現れる。
シキたちを中心にして、壁がYの字状に出現していた。
どうやら最初からこちらの分断が目的だったようだ。
三体の騎士は三手に分かれてこちらに向かってくる。
『うーん、無理して合流できなくもないけど、このまま各個撃破でもいいかな』
『はい、問題ありません。ライカとモアが同じ場所にいますので、他所では〈武装〉の使用を許可してはいかがでしょうか』
『それは名案だ。というわけで許可するよ。さっさと倒してライカたちと合流しよう。あ、死体が消失しないように、トドメだけは普通の武器で。ルミナは合流するまでライカたちを守ってあげてね』
『『『了解!』』』
こうして各所で戦闘が始まる。
シキとオルティエの元にやってきたのは、この状況を作り上げた杖騎士だ。
初手で魔術を放ってきた通り遠距離タイプなのだろう。
二十メートルほど離れた位置で立ち止まると、再び杖を掲げる。
迷宮の最下層に棲む上位魔獣の権能なのだろうか。
詠唱もなしに魔術が発現し、杖の先に翡翠色の輝きが生まれる。
輝きは結晶化すると、4つに分裂してシキたちに向かって飛んできた。
「パルスシールドを展開しました」
対するオルティエの権能だって負けていない。
魔術の発動よりも先に青白い半透明の幕がシキたちを覆い、飛来してきた結晶がそれに触れると蒸発して消えた。
「マスターはトドメをお願いします」
オルティエがストレージボックスから Break off Online 製の武装を取り出す。
両手をメイド服のスカートの中に突っ込み、ゆっくりたくし上げる。
まず出てきたのはオルティエの身長に匹敵する長く太い銃身。
次に銃身を保持するための太い補助グリップと、酒樽のような追加弾倉が現れた。
〈WR-0666 OVERNIGHT〉という名の重機関銃である。
「ライカたちがいないから次元収納に偽装する必要ないのに、なんでスカートから出したの?」
「マスターがお好きかなと思いまして」
「ええ……オルティエも懲りないね」
「ライバルは多いですから、アピールできる時はしていかなければなりません。こういうのはお嫌いでしたか?」
「十二歳に見せるものではないかなぁ」
「くっ、手ごわいですね。あと……」
「あと?」
「いえ、なんでもありません」
あと九か月もすれば二次性徴が本格的に始まる。
そうすれば嫌でも体が反応して……などとはさすがに昨日の今日なので、口にするのは自重したオルティエであった。
そもそも現在の設定は〈全年齢版〉であるため、スプリガンたちはシキが十八歳になるまで手が出せない。
だから焦っても仕方がないのだが、現地人にはその制約がなかった。
アトルランでは十五歳から成人である。
ハニートラップなら対象が接近する前に排除できるが、シキが自ら近しい異性と関係を望むのならば、スプリガンに止める術はなかった。
こればかりは融通の効かないシステムが憎らしい。
下手をすれば三年間お預けを食らうが、そうなった時に嫉妬で狂わずにいられるだろうか……。
オルティエが悶々としている間も杖騎士からの攻撃は続いている。
並の結晶弾では通用しないと判断すると、杖騎士は杖を掲げて力を貯めた。
翡翠色の輝きが巨大化し、直径二メートルくらいになったところで放たれる。
放物線を描いて飛んできた巨大結晶が、パルスシールドに接触。
巨大質量が衝突し空気が震え、緑と青の輝きが交錯したが、それだけだ。
「そろそろ攻勢に出ます」
「了解」
巨大結晶の全てを消し去った直後にパルスシールドを解除。
視界がクリアになったところで、重機関銃〈WR-0666 OVERNIGHT〉が火を噴いた。
オルティエが
〈WR-0666 OVERNIGHT〉は12.7x99mm弾を毎分666発放つ。
樽型の追加弾倉には3000発の弾丸が格納されていて、
しかし前述の通りカタログスペック上では毎分666発を消費し、銃身の冷却を加味し性能を半分に落としたとしても、夜通しどころか十数分程度しか持たない。
名前は半分ジョーク、半分願掛けみたいなものであった。
なお〈WR-0666 OVERNIGHT〉の表示設定はシキとオルティエ以外にはオフ。
攻撃判定のみオンにしている。
したがって銃声もシキとオルティエにしか聞こえておらず、
あえてシキに聞こえるようにしているのは、銃撃音で攻撃タイミングをわかるようにするためだ。
30%でも間近にいるとかなりうるさい。
杖騎士からすると不可視の攻撃のはずだったが、銃弾は何かに阻まれた。
空中で翡翠色の障壁のようなものと接触し、ガラスが割れるような音が連続して響く。
「お、向こうもシールドを張ってたみたいだね」
「問題ありません。このまま押し込みます」
オルティエが〈WR-0666 OVERNIGHT〉を撃ち続ける。
翡翠色の障壁が銃弾を防いでいたのは僅か数秒のこと。
障壁を突破した銃弾が横腹に突き刺さると、黒馬が嘶きながら地面に倒れた。
馬上の杖騎士も巻き込まれる形で転倒し、発動しかかっていた結晶弾が霧散する。
オルティエは銃撃を維持しつつ前進。
起き上がろうとしている杖騎士が的確に狙える位置へと移動した。
中腰でどっしり構え、重機関銃を乱射する姿は堂に入っている。
メイド服の銀髪美女というギャップが妙に栄えた。
杖騎士は障壁を張って防御するが、またもや数秒で貫通する。
無数の銃弾が黒い鎧を叩き、激しい火花が散った。
鎧と鈍角に接触した弾丸は表面を滑り、あらぬ方向へ飛んでいく。
その一方で真正面から捉えた弾丸は鎧を陥没させ―――やがて粉砕した。
杖騎士が仰向けに倒れると、胸元に開いた大穴から翡翠色の魔素が噴出する。
それは肉体から魂が抜け出したような光景であった。