精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
オルティエが〈WR-0666 OVERNIGHT〉の発砲をやめる。
シキが杖騎士に近づいて見下ろす。
大穴の空いた黒光りする鎧の中身は空。
最後の力を振り絞った杖騎士が杖を持ち上げ攻撃しようとするが、シキの振り下ろした魔剣〈流星砕き〉の方が早い。
頭部を破壊された杖騎士は乗っていた黒馬諸共、魔素の粒子となって空気中に溶けて消えた。
『こいつらは魔法生物だったのか。死体が消えるなら最悪〈武装〉でトドメを刺しても問題なかったね』
『クレジットは飽和していますので、可能な限りこの世界の武器で倒すことを推奨します。皆、わかったわね?』
『はーい』
『了解です』
『わかりました』
戦斧を持った騎士と戦っているエル、シアニス、エキュースからボイスチャット越しに返事があった。
戦況を確認するため、オルティエが小型情報端末の映像をシキに見せる。
『え、もう穴だらけじゃん……エイヴェの狙撃か』
騎士の体は左肩と右足が消し飛んでいて、戦斧を杖代わりにして辛うじて立っている状態だった。
乗っていた黒馬は頭部を失った状態で地面に横たわっている。
シキが空を見上げると、そこには護衛役の〈SG-070 エイヴェ・サリア〉がライフル〈LR-017 RHODES〉を構えた姿勢で浮いていた。
『あら、お兄様の方も援護したかったのに。もう終わってしまったのですね』
『のりこめー』
哀れにも戦斧騎士はまともな抵抗もできないまま、エルたちに囲まれボコボコにされた。
戦斧騎士が魔素の粒子となって消滅するのと同時に、杖騎士によって作られていた壁も効力を失い崩れる。
元通り見晴らしの良くなった草原に、最後の騎士が佇んでいた。
黒光りする鎧は依然として馬上にある。
手にした剣は翡翠色の刃に覆われていて、刀身が倍近く伸びていた。
剣騎士と対峙しているのはルミナ、ライカ、モアの三人。
ルミナがタワーシールドでモアを守り、ライカは二人から少し離れた位置にいる。
既に数度、剣を受け止めたのだろう。
タワーシールドには真新しい傷がついていた。
「ええっ、他の皆はもう終わったの!?」
ライカが驚いてこちらを見てるが、ズルをしたことは秘密だ。
なのでシキはわざと返事はせずに援護に入った。
魔剣〈流星砕き〉を携えて真横から接近すると、剣騎士が反応する。
「うおっ」
思わず声が零れたのは、予想よりも剣騎士の太刀筋が鋭かったからだ。
馬上から指揮棒でも振るうように、腕力だけで軽々と放ってきた斬撃をシキは魔剣で受け流す。
剣騎士の剣は元々は片手剣サイズだが、翡翠色の刃が追加され大剣並の大きさになっている。
挙動もそれに準じると勝手に思い込んでいた。
翡翠色の刃はしっかりと実体を持っていたが、重量の概念はなさそうだ。
「俺の魔剣とは真逆の性質だね。これは真面目にやりあったら面倒そうだ」
「であれば、真面目にやらなければいいのです。ルミナ」
「はいっ、任せてください」
的が増えてモアへの
タワーシールドを構えて剣騎士へと突進する。
ルミナの体が完全に隠れるくらいタワーシールドは大きいので、剣騎士から見れば盾だけが突っ込んでくるように見えただろう。
シキを攻撃した時と同様に、やはり見た目が大剣とは思えない速度の斬撃がルミナへと襲い掛かる。
翡翠色の刃が乱舞するが、タワーシールドの表面を薄く削るだけで、突進の勢いを抑えることもできない。
このタワーシールドも〈星屑の迷宮〉産の名品であり、優れた防御力と自動修復機能を備えていた。
並の盾で翡翠色の斬撃を一太刀でも受ければ、持ち主ごと真っ二つにしていただろう。
「えいっ」
相変わらずな可愛らしい掛け声と共に、ルミナがタワーシールドごと剣騎士に体当たりした。
その威力はすさまじく、剣騎士は黒馬ごと弾き飛ばされ地面を転がる。
とても細身で可憐な少女から放たれたものとは思えない。
剣騎士の手から剣が離れると、翡翠色の輝きは失われ、ただの剣に戻った。
「おおう……まるで大型トラックに撥ねられたみたいだ」
「よしのりこめー」
エルが足元に転がってきた剣を遠くへ蹴飛ばす。
そして変な号令をかけて突撃すると、剣騎士を皆で囲ってボコボコにする。
こうなってしまえば剣騎士が戦斧騎士と同じ末路になるまで、そう時間はかからなかった。
シキたちが三体の騎士と戦っていた頃、リオン・シィズ・ブレイルは苛立っていた。
中層のショートカットを使って霊廟の前室までやってきたまでは良かったが、そこから先は進展がない。
護衛にシキとオルティエを生け捕りにするよう命令してから三日経つ。
準備が整えば斥候役が報告に戻ってくる段取りだが音沙汰がない。
迷宮調査もやけに慎重で、霊廟前室を拠点にしたまま動いていなかった。
時間を持て余していると、どうしてもあの屈辱を思い出してしまう。
シキは生意気なガキだった。
いくら殺気を飛ばしてもどこ吹く風で、平民の癖に言葉遣いは丁寧だったが、王族への敬意は微塵も感じない。
戦闘試験が始まっても相変わらずで、顎を砕いて気絶させるまで余裕ある態度を崩さなかった。
リオンは王族として何不自由なく生きてきた。
周囲がリオンを敬い、そして恐れて跪くのが当たり前だ。
そんなシキの態度はリオンの
あれは単にへらへらしているのではない。
リオンという存在を何とも思っていないのだ。
あの生意気な顔を恐怖で歪ませ、泣いて許しを乞う姿を見ないと気が済まない。
オルティエも同様だ。
下等生物を見るような冷めた目と、首筋に感じた妙な
自慢の鎧もシキではなく、あの女に壊されたのだと直感していた。
思い出すと今でも体が震える。
そんな時は腰に差した〈爪龍剣〉の柄を強く握った。
すると不思議なことに……恐怖が薄れていく。
あの女を生かしてはおけない。
王族である俺を虚仮にしたことは万死に値する。
毛無しではあるが、その美貌は確かなものであった。
ガキの前で凌辱した後に体を引き裂き、犬の餌にしてやる。
あの時は後れを取ったが、この〈爪龍剣〉があれば問題ない。
父上も〈祖霊の渓〉で王族の勤めを果たすと適当に言ったら、喜んで貸してくれた。
迷宮は魔獣が多くて面倒だったが、教えられた近道のおかげで簡単にここまでこれ。
……そういえば、俺はいつからこの近道を知っていた? 誰に聞いた?
父上に秘密にしろと言われたのは確か、〈爪龍剣〉が霊廟の鍵になっている件で………
……まあ細かいことはどうでもいいか。
この剣で奴らを切り刻めればそれでいい…………
……なに? もっと強い力が欲しくないかだと? 欲しいに決まっている。
誰もが俺の前にひれ伏す……圧倒的な力が……………
虚ろな表情のリオンがゆっくり立ち上がると、霊廟前室内のとある小部屋に覚束ない足取りで向かっていく。
その時、カルナノーラたちは霊廟のすぐ外で打ち合わせ中だった。
だから誰もリオンのことは気にかけておらず、忽然と姿を消しても、すぐには気が付かなかった。