精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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244話 金剛石は永遠の輝き

「マスター、霊廟からリオンの魔素反応が消えました」

 

「えっ、それってし……」

 

 声が大きかったのだろう。

 先頭を歩くライカがこちらに振り向いたので、シキは慌てて黙り込んだ。

 

 少し間を置いてから、オルティエと小声で会話を再開する。

 

「霊廟と龍脈付近は相手を警戒して、小型情報端末(リーコン)の索敵精度を落としています。なので大雑把な位置情報しか追えませんが、リオンは別の場所へ瞬間移動したようです」

 

「瞬間移動?」

 

「はい。ですから残念ながら死んでいません」

 

「はは……」

 

 シキが何を言いかけたか理解しているオルティエが、無表情のまま報告した。

 別にシキとしてはリオンに死んで欲しいとまでは思っていない。

 オルティエの言い回しが、まるで死んだかのように聞こえただけだ。

 

「瞬間移動したと判断したということは、移動先もわかってるってこと?」

 

「現在のリオンの魔素反応は龍脈にあります」

 

「ふむ。迷宮のショートカットを知ってるくらいだから、龍脈へも同じ手段で行ったのかな?」

 

「かもしれません。ただ残されたカルナノーラたちにとっては不測の事態だったようです。慌てて周囲を捜索しています」

 

「リオンの独断専行か。折角護衛に俺たちを待ち伏せさせてるのに、変な行動だね?」

 

「元より短気で愚かな男です。待ち伏せがうまくいかないから、癇癪でも起したのでしょう」

 

 オルティエは相変わらず辛辣だが、シキとしても概ね同意である。

 三体の騎士を倒したシキたちは草原を横断中だ。

 

 草原は見晴らしが良すぎる。

 休憩するには不向きだったので、今日は龍脈の麓まで進む予定だ。

 いよいよ龍脈へ挑む時が迫っていた。

 

「護衛はスルーできたけど、リオンとは再会しちゃうのかあ」

 

「先輩に酷いことをした借りを返せますね! 倍返しです!」

 

 いつの間にかエキュースが近くで会話を聞いていて、大きな声で宣言した。

 笑顔で拳を握ってぶんぶんと振っている。

 その拳で顎を砕かれたことに対しての倍返しをするとなると、リオンの顔面は酷いことになりそうだ。

 

「倍返し? 誰に?」

 

「あっ。な、なんでもないでーす」

 

 折角前を向いていたライカがまたこちらを見てきたので、エキュースは慌てて誤魔化す。

 ライカは特に気にした様子はないが、隣のモアは訝し気な視線を投げかけていた。

 

 

 

 草原を縦断すると、周囲は荒涼とした風景に切り替わる。

 少しずつ上り坂になり、左右に体よりも大きい大岩がいくつも転がっていた。

 

 そして正面に見える円錐型の険しい山が龍脈である。

 シキは富士山や地元にあった羊蹄山を思い出したが、龍脈の標高は1000メートルもない。

 

「龍脈に近づいたら魔物が妙に減ったね」

 

「祖龍の縄張りの内側だからだと推測します。これなら半日とかからずに頂上へ辿り着けるでしょう」

 

 今日は麓で一泊し、明朝が決戦となる。

 野営の準備を終わらせると、明日に備えて早めの夕食を採った。

 

 ライカもさすがに緊張しているのか、黙々とスープを口に運んでいる。

 シキはオルティエに目配せしてからライカに話しかけた。

 

「ライカ様、決戦を前に渡しておきたいものがあります」

 

「ふぇ?」

 

 シキが懐から取り出して手のひらに載せたのは、装飾の少ないシンプルな指輪だった。

 細身のシルバーのリングに、無色の小さな宝石がひとつ埋め込まれている。

 

「この指輪には《守護》の魔術を付与してあります」

 

「しゅご?」

 

 聞いたことのない魔術名にライカが首を傾げる。

 それもそのはずで、《守護》という魔術は存在しない。

 オルティエと相談して捏造したものだ。

 

「はい。名前の通りこれを身に着けていると、いざという時に持ち主を助けます。命に関わる一撃を受けようとしたときは障壁で守り、逆に敵を追い詰めた時は力が増すでしょう」

 

「ふーん。なんかすごい都合の良い魔術だね」

 

 前者はオルティエのパルスシールドで、後者はスプリガンによる援護射撃を想定している。

 これは祖龍戦でライカを確実に勝たせるための保険だ。

 

  Break off Online 製の武器を持たせる案もあったが、非表示設定で外部支援したほうが制御しやすいという結論に至った。

 非表示設定なら正体はバレないので、「その時不思議な事が起こった」で誤魔化せばいい。

 なので当然指輪には魔術など付与されておらず、ハッタリなのであった。

 

「そうなんです。とても都合の良い魔術具なのです。故に《守護》の力は多くても数度発動すれば、効力を失いただの指輪になります。使い捨てですが、ライカ様の助けとなるでしょう。前に強力な武具を頼ることも躊躇わないと仰っていましたが、それは今でも変わりませんか? そうであれば、是非受け取って頂けないでしょうか」

 

「………」

 

 シキの言葉を聞いて、明朗快活、即断即決が売りなライカが珍しく沈黙する。

 ただしそれは指輪を受け取ることを躊躇ったわけではない。

 気持ちの整理をつけ、決意表明するための言葉を考える時間であった。

 

「シキ、そしてみんな。ボクとモアをここまで連れてきてくれてありがとう。ずっと二人きりのパーティーだったけど、みんなと組んでからは新しい冒険がいっぱいできて楽しかった。それにすごい強くなれた」

 

 ライカの言う通り、シキと出会ってから二人は急成長を遂げていた。

 人数が増えたことによる戦闘効率アップもそうだが、食事にこっそり混ぜている Break off Online 製の治療薬のおかげで、体のコンディションも常に最高の状態が保たれている。

 修行環境としては最高水準であった。

 

「祖龍に挑むなんて全然先の話だと思ってたけど、あっという間にここまで来ちゃった。ほんとうに……ほんとうにありがとう。ここまで来たら絶対に勝ちたい。だからシキの指輪もありがたく受け取るね」

 

 ライカがシキに向かって左手の甲を上にして差し出してきた。

 

 ………え、もしかして俺が指に嵌める流れ?

 しかも左手…だと…。

 

 皆の視線が集まった。

 いつも通り怒り狂ったモアが妨害してくると思いきや、彼女はしかめっ面のまま黙っている。

 

 シキがライカに対して邪な気持ちを抱いていないことは、モアも十分に理解していた。

 ライカの言う通り感謝しかないし、更に主の助けとなる貴重な魔術具を与えてくれるというのだ。

 自身の感情なんかで邪魔していい場面ではない。

 

 モアの救援? がないため、しかたなくシキはライカの手を取って指輪を嵌める。

 ブレイル獣王国の作法を知らないし、今更聞く雰囲気でもないので、とりあえず中指を選んだ。

 

「えへへ」

 

 中指は正解だったのか、不正解だったのか。

 指に収まった指輪を見てライカが喜んでいるが、その表情は何故か普段より艶っぽく見える。

 

 ちなみに指輪は嵌めていると戦闘の邪魔になるので、紐を通して首からかけることになった。

 ……なら最初からそうしてよと思うシキであった。

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