精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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245話 頂で待つもの

「やっぱり魔獣が全然いない」

 

「祖龍の縄張りの内側ですからね」

 

 首元の指輪を触りながら歩くライカにシキが答える。

 龍脈の麓で一晩明かし、日の出……は太陽がないので、周囲が明るくなるのと同時に山頂目指して一行は出発していた。

 

「それに龍脈に近づくと魔素がどんどん濃くなって、なんだか息苦しいし体に悪そう」

 

 通常なら熟練の魔術師や視認できる〈魔眼〉持ちでもない限り、魔素の濃淡を認識することはできない。

 にも関わらず素人のシキでもわかるくらいに周囲の魔素は濃いうえに、進むにつれて濃さは増していた。

 

 このまま山頂まで何も起こらないかと思われたが……

 

「……! 何かが飛んできます」

 

「待ってくださいモアさん。敵意はなさそうなので、様子を見ましょう」

 

 モアが飛んでくる物体を発見し、矢で射ようとしたがシキが止めた。

 それは真っ黒なカラスで、頭上で大きく旋回してから斜面の先に降り立つ。

 カラスは巨大化しながら変形すると、金髪妙齢の美女へと姿を変えた。

 

「カルナノーラさん!?」

 

「やあシキ君。攻撃を止めてくれて助かったよ」

 

 カルナノーラの使い魔がシキたちを監視していたことは、小型情報端末を通じて把握していた。

 カラスの接近にも気が付いていたが、使い魔ではなく本人だとは思わなかったので、シキは素で驚く。

 

「緊急事態が起きてね。情報共有と可能ならギルドとして緊急依頼を出したかったんだが、少し時間をもらえないだろうか」

 

「丁度いいから小休止にしようか。皆もそれでいい?」

 

 反対意見がなかったので、休憩を挟みつつカルナノーラの話を皆で聞くことにした。

 

 リリは正体を隠すための仮の姿だったということ。

 シキたちを追ってリオンと護衛たちが迷宮に入ったが、リオンが姿を消してしまったこと。

 使い魔を使ってカルナノーラもシキたちを監視していたこと。

 

 カルナノーラは現状をそのように説明する。

 さすがに王族のみが知る霊廟への近道は喋らなかった。

 

「勝手に監視してすまない。リオンの護衛が潜む森に近づいたら、警告するつもりだったんだ。運よく君たちは違うルートを進んでくれたが……あまり驚いてないね?」

 

「いやあ、カラスから人間への変身のインパクトが強かったもので」

 

「ふむ、そんなものか。それで緊急依頼の件だが、私を君たちのパーティーに入れてくれないか。これから祖龍に挑むのだろう? どうやって移動したかはわからないが、リオンはおそらく山頂にいる」

 

 カルナノーラは使い魔で龍脈以外の場所を捜索したが、リオンは発見できなかったという。

 龍脈も捜索したかったが、濃密な魔素で使い魔だけでは近づけず、シキたちの力を借りたいということだった。

 

「そしてもしリオンがいたならば、救出に協力して欲しい。色々と思う事はあるかもしれないが、あれでも次期国王なんだ」

 

「あの光景を見ておいて、私たちが協力するとでも?」

 

「っ、それは……」

 

 オルティエの突き放すような物言いに、カルナノーラがたじろぐ。

 あの光景というのは、シキがリオンに顎を砕かれた時のことだ。

 

 シキ本人は気を失っていたからわからないが、相当な修羅場だったことは容易に想像できる。

 だからか、カルナノーラもあっさり引き下がった。

 

「そうだな。協力まで頼むのは図々しいか。すまなかった」

 

「あー、でもリオン殿下から攻撃してこない限りは、こちらから手は出しませんので」

 

「それで十分だ。ありがとう」

 

「……」

 

 オルティエが不満げに見つめてくるので、シキもカルナノーラも苦笑いだ。

 

 

 

 こうしてカルナノーラを加えた一行は山頂を目指す。

 その後も周囲に魔獣の気配はなく、岩肌が露出した斜面を黙々と上る。

 前世なら息も絶え絶えになっていたかもしれないが、シキを含めた全員が歴戦の冒険者なので、額に汗ひとつかいていない。

 

 順調に進み九合目付近に差しかかると、人工物が見えてくる。

 それは石造りの階段で、上りきると水平で広い空間が続いていた。

 

「ちょっと霊廟に似ているね」

 

 ただし霊廟と違って天井はなく、四方が太い柱で囲われている。

 シキの前世の記憶に照らし合わせるなら、パルテノン宮殿のようであった。

 

 見上げると道中は晴れていたはずなのに、いつのまにか分厚い雲に覆われていて周囲は薄暗い。

 足元には綺麗に敷き詰められた石畳が並び、正面の奥には巨大な影と、小さな影がひとつずつ見える。

 

「いよいよだね」

 

「はい、ライカ様、お願いします」

 

 ここから先の主役はライカだ。

 王位継承権を持つライカが祖龍に挑み、強さが認められれば国王の座が手に入る。

 

 とはいえそれはシキだけでなくライカにとっても主目的ではない。

 エフェメラの手掛かりを求めて、ここまで来たのだ。

 

 ライカは胸元の指輪を強く握りしめ、深呼吸してから奥へと進む。

 見えていた小さな影は案の定リオンだった。

 

 抜き身の〈爪龍剣〉を持った状態で佇んでいるが……どこか様子がおかしい。

 ライカたちが接近しても反応せず、虚空をぼんやりを見上げている。

 

 大きい影の主は石造りの無骨な玉座に座っていた。

 漆黒の鱗を纏い、手足には黒曜石(オブシディアン)のように輝く鋭い爪が生えている。

 

 背中から飛び出している羽は蝙蝠のそれに似ていた。

 玉座の横から垂れ下がっている尻尾は、椎骨が連結したような外見をしていて、まるで背骨が外に飛び出しているかのよう。

 

 玉座で頬杖をついて支えている龍の頭部には、蒼玉(サファイア)のように輝く眼が二つ。

 その双眸がライカたちを捉えると、おもむろに立ち上がる。

 

 体長はおよそ五メートル。

 鋭い牙の間から低い男の声が聞こえてきた。 

 

「ようこそ冒険者諸君。純粋な挑戦者は()()()()だ。歓迎しよう」

 

 言葉を発しただけだというのに、濃密な魔素が吐息(ブレス)のようになってライカたちを襲う。

 魔素の奔流に晒され、後ずさりしそうになったライカであったが、なんとかその場に踏み止まる。

 

「……あなたが祖龍?」

 

「いかにも」

 

「ボクはライカ・バイフ・ブレイル」

 

「ほう、七氏族が一つのバイフ家か。懐かしいことだ」

 

「ボクたちは、あなたに挑戦しにきた」

 

「さもありなん。だがそう急くこともあるまい。折角来たのだ、我に土産話の一つでも聞かせてくれ」

 

「は?」

 

 そう言うと祖龍は再び玉座にどすんと腰掛けてしまった。

 すぐに戦闘になると思っていたので、肩透かしを食らったライカは困惑してしまう。

 

「其方の連れも、何やら面白い素性の持ち主のようだしな」

 

 祖龍はシキたちを見回すと、牙を剥き出しにしてニヤリと笑った。

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