精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
「ふむ、スウズ族は貿易、ニオウ族が国防、レンド族が学問といったように、七氏族がそれぞれに役割を持っているというわけか」
「はい、おっしゃる通りです」
龍脈に辿り着き祖龍と対峙したシキたちであったが、十五分ほど経った現在も戦闘は始まっていない。
祖龍はブレイル獣王国の現状を知りたがっていたので、カルナノーラが説明役を名乗り出たのだ。
「しかし残念ながら七氏族が一致団結しているとは言い難く、特に王族となったシィズ族と他氏族の溝は深いものがあります」
そう言ってから、カルナノーラがリオンに視線を送る。
リオンは相変わらず立ち尽くしたまま反応がない。
祖龍曰く「こやつは暫く放って置いて良い」とのことなので、皆も従っていた。
何なら祖龍との決着がつくまで、ずっとこのまま大人しくしていてくれと思うシキである。
獣王国建国の要である祖龍と会話できることが嬉しいのか、カルナノーラは終始テンションが高い。
会話を聞き飽きたライカは、祖龍の姿形が気になるようで近くに寄って観察している。
あまりに不用意に近づいているため、モアは気が気じゃないようだ。
その一方でスプリガンたちは祖龍を警戒している。
この祖龍は外様の神、つまり
オルティエが密かに小型情報端末でスキャンして確認も取れている。
機棲骸はスプリガンにとって不倶戴天の敵だ。
普段ならライカと一緒に祖龍を観察していそうなエルやシアニスも、いつ戦闘が始まってもいいように適度な緊張感を保っていた。
一応 Break off Online では軍人なので、そのあたりの分別はついているのだ。
今のところ友好的な態度を見せている祖龍だが、内心では獣王国への侵略を企んでいるかもしれない。
迷宮内の魔獣が増えている異常事態も、祖龍の差し金である可能性は高いが……
「祖龍様は長きに渡り龍脈の管理をされておいでですが、迷宮内の異変については御存じでしょうか? 迷宮全体の魔素濃度が例年より濃く、魔獣の数が増えております」
「ほう、魔獣の数がのう。冒険者からすれば冒険し甲斐があってよかろう」
祖龍は外の様子を知りたがる一方で、カルナノーラの質問には答えずはぐらかしていた。
シキたちのことを「面白い素性」と冒頭で述べていた割に、こちらの素性を探ることもしない。
祖龍の目的は一体何なのだろうか。
「他の迷宮もここのように閑散としているのか?」
「いえ、そんなことはありません。〈祖霊の渓〉は初代七氏族が眠る霊廟や祖龍様がいらっしゃいますので、シィズ族が制限を設けていまして」
「シィズ族か。余程今の地位が惜しいようだな」
もういいだろう。
話が核心に近づいたのを見計らって、シキが口を挟む。
「祖龍様、〈爪龍剣〉が偽物というのは本当ですか?」
「「「えっ」」」
驚いたカルナノーラとライカ、モアの視線が、祖龍とリオンの持つ〈爪龍剣〉の間を往復する。
「偽物だと?」
祖龍が威嚇するように大声を出す。
鼻息に乗って濃密な魔素が噴出し、シキたちを撫でた。
「シ、シキ君、なんて無礼なことを」
「王都で仕入れた噂話ですよ。シィズ族が実権を握りたいがために、〈爪龍剣〉の偽物を用意したと」
実際はリオンへの諜報と〈銀猫〉から仕入れた情報だが、そこは伏せてシキは問い詰める。
「偽物とはいえ他の氏族や民衆を騙す必要があるので、相応の性能が求められるでしょう。となると祖龍様の力添えも必然ですよね。ただそれなら素直に本物を渡さなかった理由は何ですか?」
「シキ君、やめるんだ」
「カルナノーラさん、俺はまだ〈爪龍剣〉の実力を見たことはありませんが、この〈流星砕き〉と比べてどうですか? 監視してたならこの魔剣の性能はわかりますよね」
「それは……」
リオン曰く〈爪龍剣〉は中位竜の爪が素材らしいので、純粋な切れ味や強度なら〈流星砕き〉のほうが上だろう。
性能が劣るから偽物だと一概には言えないが、劣っている以上は〈爪龍剣〉が本物であるという根拠にもできない。
それがわかっているので、カルナノーラも反論できなかった。
祖龍も黙り込んでいたため、シキは一番聞きたいことを質問する。
「俺たちは十年ぶりの挑戦者だと言っていましたが、その中に黒髪の女性はいませんでしたか?」
「……さて、覚えていないな」
「その女性は祖龍様、あなたの事を〈奈落の王〉と呼んだはずだ」
「!? その名は」
反応したのはまたもやカルナノーラだった。
〈奈落の王〉は〈悪魔卿〉や〈流離う彷徨い〉と並ぶ、強大な外様の神の名である。
昨晩、シキはブレイル獣王国の国王ライオス・シィズ・ブレイルの寝屋へ押し入り、エフェメラのことについて洗いざらい吐かせた。
最初こそ気丈な態度を取っていた国王だったが、「この黒髪に見覚えはないか?」と問うとすべてを察したのだろう。
勝手に懺悔を始めていた。
「さて、そろそろ時間だ」
結局祖龍は何も答えず、玉座から立ち上がった。
蒼玉の眼がシキたちを睥睨する。
「答えが知りたければ我を打ち倒すがよい」
「やっと戦う気になったんだね。というかそれなら最初から戦って、終わった後にまとめて話せばいいのに」
「バイフ族の娘よ。既に我に勝ったつもりでいるのは驕りというもの。そして其方らが五体満足なうちに会話を交わしたのは、我からの温情である。シキといったな。時間を稼ぎつつ隙間を作っておいたから、思う存分暴れるがよい。では健闘を祈る」
「は? 何を言っているんだ」
シキが聞き返そうとしたところで、祖龍の雰囲気が変わる。
体から放たれている濃密な魔素が変質し、黒いオーラのようになってシキたちを包み込む。
「なっ、この恐ろしい、禍々しい魔素は闇の眷属……いや、まさか本当に……」
いつのまにか祖龍の眼の色は蒼玉から紅玉に変わっていて、妖しく光った。
次の瞬間、シキの体は浮遊感に襲われる。
「マスター!」
オルティエが咄嗟に手を伸ばしたが、間に合わない。
シキは足元に突如現れた黒い穴に吸い込まれ、その場から消えてしまった。