精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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249話 弾幕系

 その魔女にとって、求められることがすべてだった。

 求められるがままに施し、癒し、滅ぼす。

 あらゆるものを滅ぼすと、求める者はいなくなる。

 孤独になった魔女は月に隠れ、久遠の眠りにつく。

 遥かな未来、求めらえる日々が再び訪れることを夢見て。

 その時はもう間違えない。

 求める者には相応の債務を求めよう。

 さすれば、永遠に求められる。

 

 

 

 これはシキが確認した〈GS-202 マニ・ルーン〉の説明文(フレーバーテキスト)である。

 相変わらず漠然としているし、機体については全く語られてない。

 それでいいのだろうか。

 

 〈真月の杖〉から生み出された巨大なエネルギーの塊が、杖から離れてメナス目掛けて突き進む。

 宇宙空間に浮かぶ純白の輝きは、正に満月。

 

 三機の小型情報端末に気を取られているメナスに躱す余裕はなく、紅玉の眼の下あたりに満月が直撃。

 黒い鱗を貫き、体内へと侵入した。

 

「Woooooooaaaaaa!」

 

「そぉい」

 

 マニが杖頭を引き寄せるように動かすと、満月がメナスの頭頂部あたりから飛び出す。

 

「ほぉい」

 

 続けて杖を振り下ろすと、満月はUターンしてメナスの胴体に再び襲い掛かる。

 その動きはまるで杖と満月が糸で繋がっているかのよう。

 もしくはとてつもなくリーチの長いモーニングスターか。

 

『ぬわーっっ!!』

『あぶない!』

『ころすきかー』

 

 メナスの体当たりに加えて満月も回避するはめになり、小型情報端末たちから苦情が殺到する。

 

「小型情報端末にもコアAIが乗ってるんですか?」

 

「いや、奴らはコアAIではなく、我が使役している使い魔を乗せておる。主ぃ、せめて敬語はやめてくれんかの」

 

「う、わかったよ。それでこのメナスには勝てそう?」

 

「見た所グランデ……いや、ギリでベンティ級かのう。まぁ多少時間はかかるかもしれんが、〈真月の魔女〉たる我にかかれば造作もない」

 

「ほんと? それなら追加のガチャでユニットを増やすのはやめておこうかな」

 

 もしマニが厳しいと言えばガチャを回すつもりだったが、自信たっぷりな様子なのでシキはとりあえずやめておいた。

 Break off Online のガチャはユニット排出率が低い。

 

 およそ90%が装備やアイテム類で、10連でユニットが一体出るか出ないかの確率だ。

 下手をすれば手持ちの無償チップを使い切っても、ユニットが出ない可能性もある。

 一発でマニが出たのは、本当に運が良かった。

 

 それにオルティエたちは頑なに仲間を増やしたがらなかったが、今となってはそれもプラスに働いている。

 もし先んじて無償チップを使い切っていたら、マニすら召喚できなかっただろう。

 

 一応有償チップでもガチャは回せるし追加特典もあるにはあるが、ユニット排出率に影響する内容ではないので、かなりもったいない使用方法となる。

 無論シキの命には替えられないから、そうなっていれば使わざるを得なかったのだが。

 

「うむ。我に任せよ」

 

 マニは喋っている間も杖をぶんぶんと振り回し、満月でメナスを貫き続けた。

 メナスは東洋の龍の姿をしていて、蛇のように長い胴体は全長が数Km、太さだけでも数百mある。

 マニの満月は直径が20m程度なので、小型情報端末の援護を含めたとしても、メナスの巨体を削りきるには時間がかかりそうだ。

 

 不気味なのは頭部で、どの角度から見ても常に横顔しか見えない。

 まるで空間が歪んでいるかのようだ。

 紅玉の眼がギョロギョロと動き、小型情報端末とマニの行方を追いかけている。

 

Wooooooooooonnnn逞�帙>逞>闍ヲ縺帙励>!」

 

「え、なんだって?」

 

 メナスが怨嗟の声を響かせたが、語尾がうまく聞き取れない。

 それと同時に体中の鱗がめりめりと剥がれ、体の表面で垂直に立つ。

 

 鱗が剥がれた皮膚からは黒いオイルのような血が滲む。

 宇宙空間なのに液状? とシキが訝しんでいると、その直立した鱗が一斉にはじけ飛んだ。

 

「ちぃっ」

 

 暗い宇宙空間を、鱗の弾幕が支配する。

 マニは舌打ちして満月を引き戻すと、飛来する無数の鱗と自機の間に差し込んだ。

 

 鱗が月面に突き刺さり、影を落とす。

 満月は理術によって生み出された高エネルギー物質であり、威力は〈SG-068 アリエ・オービス〉の荷電粒子収束射出装置(ラプソディ)と比べても引けを取らない。

 

 鱗は数秒のうちに、満月に呑まれるようにして消滅した。

 

『ひゃーー』

『あっむり』

『なんとぉぉぉ』

 

 小型情報端末たちはなんだかんだ言いながらも、鱗の弾幕を紙一重で躱していた。

 メナスはすべての鱗を使い果たし、丸裸になったかと思われたが、滲んでいた血が硬質化して新たな鱗へと成り代わる。

 

「うわ、再生した」

 

「なぁに、望むところじゃ。文字通りあれは奴の身を削っているからの。その分決着が早くつくというもの」

 

『ふう、驚かせやがって』

『そんなへなちょこ弾』

『あたらないもんねー』

 

 鱗が飛んできた直後は大慌てだった小型情報端末たちも、喉元過ぎれば熱さを忘れるようだ。

 メナスを挑発しながら攻撃を再開している。

 

 マニは削っていると言うがメナスは随時再生しているし、大きさが変わるわけでもない。

 シキは本当に倒せるのかと不安がよぎる。

 

「そう縮こまるでない主よ。いや、これも精神攻撃の余波か。我としたことが申し訳ない。やはり総合支援AIがいないと不便だのう」

 

 マニが片手を水晶に手を翳して機体を操作しながら、もう片方の手で膝の上のシキを抱きしめる。

 すると再びシキの心を侵食し始めていた怖気が、マニの温もりに上書きされて霧散した。

 

 マニの言う通りシキの側には常にオルティエがいて、守られてきたのだと実感する。

 

「抱かれている最中に別の女のことを考えるとは、節操がないぞ主よ」

 

「いや言い方。てかなんでわかったの」

 

「女の勘じゃが……むぅっ」

 

「Wooonnnn�謨�繧aaaaa定ソ斐○!」

 

 メナスの咆哮は徐々に聞き取れない音の割合が増えていく。

 体当たりを躱しているうちに、いつのまにか細長い胴体がシキたちを包囲していた。

 

 結界のように張り巡らされていて、巨大な球に閉じ込められたような状態だ。

 そして再生した鱗が再び剥がれ始める。

 

『あっ』

『それは』

『よくな―――』

 

 次の瞬間、回避不能な鱗の弾幕がばら撒かれた。




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