精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
その魔女にとって、求められることがすべてだった。
求められるがままに施し、癒し、滅ぼす。
あらゆるものを滅ぼすと、求める者はいなくなる。
孤独になった魔女は月に隠れ、久遠の眠りにつく。
遥かな未来、求めらえる日々が再び訪れることを夢見て。
その時はもう間違えない。
求める者には相応の債務を求めよう。
さすれば、永遠に求められる。
これはシキが確認した〈GS-202 マニ・ルーン〉の
相変わらず漠然としているし、機体については全く語られてない。
それでいいのだろうか。
〈真月の杖〉から生み出された巨大なエネルギーの塊が、杖から離れてメナス目掛けて突き進む。
宇宙空間に浮かぶ純白の輝きは、正に満月。
三機の小型情報端末に気を取られているメナスに躱す余裕はなく、紅玉の眼の下あたりに満月が直撃。
黒い鱗を貫き、体内へと侵入した。
「Woooooooaaaaaa!」
「そぉい」
マニが杖頭を引き寄せるように動かすと、満月がメナスの頭頂部あたりから飛び出す。
「ほぉい」
続けて杖を振り下ろすと、満月はUターンしてメナスの胴体に再び襲い掛かる。
その動きはまるで杖と満月が糸で繋がっているかのよう。
もしくはとてつもなくリーチの長いモーニングスターか。
『ぬわーっっ!!』
『あぶない!』
『ころすきかー』
メナスの体当たりに加えて満月も回避するはめになり、小型情報端末たちから苦情が殺到する。
「小型情報端末にもコアAIが乗ってるんですか?」
「いや、奴らはコアAIではなく、我が使役している使い魔を乗せておる。主ぃ、せめて敬語はやめてくれんかの」
「う、わかったよ。それでこのメナスには勝てそう?」
「見た所グランデ……いや、ギリでベンティ級かのう。まぁ多少時間はかかるかもしれんが、〈真月の魔女〉たる我にかかれば造作もない」
「ほんと? それなら追加のガチャでユニットを増やすのはやめておこうかな」
もしマニが厳しいと言えばガチャを回すつもりだったが、自信たっぷりな様子なのでシキはとりあえずやめておいた。
Break off Online のガチャはユニット排出率が低い。
およそ90%が装備やアイテム類で、10連でユニットが一体出るか出ないかの確率だ。
下手をすれば手持ちの無償チップを使い切っても、ユニットが出ない可能性もある。
一発でマニが出たのは、本当に運が良かった。
それにオルティエたちは頑なに仲間を増やしたがらなかったが、今となってはそれもプラスに働いている。
もし先んじて無償チップを使い切っていたら、マニすら召喚できなかっただろう。
一応有償チップでもガチャは回せるし追加特典もあるにはあるが、ユニット排出率に影響する内容ではないので、かなりもったいない使用方法となる。
無論シキの命には替えられないから、そうなっていれば使わざるを得なかったのだが。
「うむ。我に任せよ」
マニは喋っている間も杖をぶんぶんと振り回し、満月でメナスを貫き続けた。
メナスは東洋の龍の姿をしていて、蛇のように長い胴体は全長が数Km、太さだけでも数百mある。
マニの満月は直径が20m程度なので、小型情報端末の援護を含めたとしても、メナスの巨体を削りきるには時間がかかりそうだ。
不気味なのは頭部で、どの角度から見ても常に横顔しか見えない。
まるで空間が歪んでいるかのようだ。
紅玉の眼がギョロギョロと動き、小型情報端末とマニの行方を追いかけている。
Wooooooooooonnnn逞�帙>逞>闍ヲ縺帙励>!」
「え、なんだって?」
メナスが怨嗟の声を響かせたが、語尾がうまく聞き取れない。
それと同時に体中の鱗がめりめりと剥がれ、体の表面で垂直に立つ。
鱗が剥がれた皮膚からは黒いオイルのような血が滲む。
宇宙空間なのに液状? とシキが訝しんでいると、その直立した鱗が一斉にはじけ飛んだ。
「ちぃっ」
暗い宇宙空間を、鱗の弾幕が支配する。
マニは舌打ちして満月を引き戻すと、飛来する無数の鱗と自機の間に差し込んだ。
鱗が月面に突き刺さり、影を落とす。
満月は理術によって生み出された高エネルギー物質であり、威力は〈SG-068 アリエ・オービス〉の
鱗は数秒のうちに、満月に呑まれるようにして消滅した。
『ひゃーー』
『あっむり』
『なんとぉぉぉ』
小型情報端末たちはなんだかんだ言いながらも、鱗の弾幕を紙一重で躱していた。
メナスはすべての鱗を使い果たし、丸裸になったかと思われたが、滲んでいた血が硬質化して新たな鱗へと成り代わる。
「うわ、再生した」
「なぁに、望むところじゃ。文字通りあれは奴の身を削っているからの。その分決着が早くつくというもの」
『ふう、驚かせやがって』
『そんなへなちょこ弾』
『あたらないもんねー』
鱗が飛んできた直後は大慌てだった小型情報端末たちも、喉元過ぎれば熱さを忘れるようだ。
メナスを挑発しながら攻撃を再開している。
マニは削っていると言うがメナスは随時再生しているし、大きさが変わるわけでもない。
シキは本当に倒せるのかと不安がよぎる。
「そう縮こまるでない主よ。いや、これも精神攻撃の余波か。我としたことが申し訳ない。やはり総合支援AIがいないと不便だのう」
マニが片手を水晶に手を翳して機体を操作しながら、もう片方の手で膝の上のシキを抱きしめる。
すると再びシキの心を侵食し始めていた怖気が、マニの温もりに上書きされて霧散した。
マニの言う通りシキの側には常にオルティエがいて、守られてきたのだと実感する。
「抱かれている最中に別の女のことを考えるとは、節操がないぞ主よ」
「いや言い方。てかなんでわかったの」
「女の勘じゃが……むぅっ」
「Wooonnnn�謨�繧aaaaa定ソ斐○!」
メナスの咆哮は徐々に聞き取れない音の割合が増えていく。
体当たりを躱しているうちに、いつのまにか細長い胴体がシキたちを包囲していた。
結界のように張り巡らされていて、巨大な球に閉じ込められたような状態だ。
そして再生した鱗が再び剥がれ始める。
『あっ』
『それは』
『よくな―――』
次の瞬間、回避不能な鱗の弾幕がばら撒かれた。
*誤字報告ありがとうございます*