精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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251話 その頃の王子様は

 時はシキが転移した直後まで遡る。

 オルティエの判断は早かった。

 

「エキュース、この場の指揮を任せるわ。私はマスターを追いかける」『エイヴェ、あなたの判断で発砲を許可するわ』

 

『「了解!」』

 

 そう指示を残して、オルティエは玉座の奥に見える龍脈に向かって走り出す。

 祖龍の言う通り、龍脈の中に魔素の隙間ができていた。

 今ある唯一の手掛かりだ。

 

「オルティエさん!?」

 

「エル、リオン王子をお願い! 他のみんなで祖龍と戦います!」

 

「っし、まかせて」

 

 戦闘開始と共に、呆けていたリオンの意識も回復していた。

 

「ここはどこだ……そうだ、あのガキと女を始末しねぇと」

 

「おまえなんか、ごしゅじんが相手するまでもない」

 

「ああん? てめぇはガキの仲間か。なら痛めつけたらガキが出てくるか? いいだろう。望み通り殺してやるよ。そうすればあのガキと女も泣き喚いて……」

 

「いいからかかってこい」

 

 エルは半身になって格闘家のように構えると、手招きしてリオンを挑発する。

 それに対してリオンは、舌打ちと〈爪龍剣〉による攻撃で答えた。

 

 凶刃がエルの小さな体を袈裟斬りにした、かに見えたが……。

 

「……あ?」

 

「なんかした?」

 

 一歩も動かず半身のまま、斬られた様子のないエルが首を傾げてる。

 

「てめぇ!」

 

 激高したリオンが〈爪龍剣〉を出鱈目に振り回す。

 袈裟斬り、横薙ぎ、突き、斬り上げ。

 

 あらゆる斬撃がエルを襲うが、まるでそこにいないかのようにすり抜けてしまう。

 シキが見たら当たり判定消したの? と聞きたくなる光景だったが、そんなずるはしていない。

 

 エルは指に嵌めたナックルダスターで、すべての斬撃を最小限の力で受け流していたのだ。

 繊細な力加減故に、リオンには斬撃を弾かれている感覚すら届いていなかった。

 

「ふざけ、やがってぇぁぁぁぁっ!」

 

 リオンが咆える。

 すると〈爪龍剣〉から黒いオーラのようなものが溢れ出し、リオンの体を包み込んだ。

 

 オーラに支配されたかのように、リオンの目から正気が失われる。

 虚ろな表情で〈爪龍剣〉を乱雑に振り回すと、次第に剣速と威力が増していった。

 

 エルが僅かに顔を顰める。

 

「むう、まずい」

 

 などと呟いたが、それはエルの敗北を指してはいない。

 正気を失ったらごしゅじんを傷つけたことを後悔させられないじゃない、のまずいである。

 

 それともう一つ。

 エルは〈爪龍剣〉の腹を撫でるようにして受け流しているが、緩和された衝撃はすべて〈爪龍剣〉の刀身に蓄積されていた。

 

 〈爪龍剣〉は中位竜の爪で作られた偽物なので、耐久力は本物より劣る。

 それから数秒間の攻防の後、〈爪龍剣〉は中程からぽっきりと折れた。

 

「ぐぎぎぎぎぎぃぃぃぃ!」

 

「あーもう」

 

 苦しみ出したリオンに向かってエルが踏み込む。

 戦闘が始まってから初めて足を動かした。

 

 一足飛びでリオンの懐に飛び込み、フックを水平に放つ。

 ナックルダスターがリオンの左脇腹に突き刺さる。

 

「ぐぱぁっ」

 

 体をくの字にして苦しむリオン。

 獅子頭が目の前に降りてきたので、エルは腰だめに溜めた左腕を突き上げる。

 

「ごぱぁっ」

 

 ショートアッパーがリオンの顎に炸裂。

 ナックルダスター越しに骨が砕ける感触がエルに伝わってきた。

 

 仰け反りよろめいているところへ、エルが飛び上がりリオンの肩を踏みつける。

 すれ違い様に放ったのは肘の打ち下ろしで、リオンの脳天に叩きつけた。

 

「ぐぴっ」

 

 リオンは頭から地面に激突し、白目を剥いて沈黙した。

 体を覆っていた黒いオーラのようなものも霧散していく。

 

「はあ、つまんない」

 

 リオンを納得いくまで懲らしめられなかった。

 エルは不満げに頬を膨らませながら、祖龍との戦いに合流した。

 

 

 

 

 

 

 

 場面は再び宇宙空間。

 常に横顔だった暗黒龍が、遂に正面を向いた。

 歪んでいた空間が正常に戻り、紅玉の眼が二つ、真っすぐシキを見据えている。

 

「蝸壼�諞弱″萓オ略者共よ。」惜し�や縲∝ソ�★蜿悶j謌サ縺�」

 

「……うん? 今僅かに何か聞き取れたような」

 

 シキが呟いた瞬間、暗黒龍の口元が昏く光る。

 間を置かず白い光の壁で視界が遮られ、衝撃で〈GS-202 マニ・ルーン〉の機体が揺れた。

 

「うおおおお、真っ黒い吐息(ブレス)!? 速すぎる。もうレーザーじゃん」

 

「大事ないぞ、主よ。使い魔どもに守らせておる」

 

 暗黒龍の吐息が止むと、光の壁も消失する。

 それはマニの小型情報端末(リーコン)三機を頂点にして展開した、三角形のバリアであった。

 

「おお、格好いい」

 

「こやつらは守りのほうが得意だからの。さて、増援も来たことだし我は大技の準備を始めてもいいか? オルティエ殿」

 

「ええ、いいわ。タイミングはアリエに合わせる形で、こちらから指示します。五輝星(クィンクエ・ステラエ)の本領を発揮して頂戴」

 

「心得た」

 

「くいん?」

 

「スプリガンが持つ階級のことです。マスター」

 

 オルティエの説明によると、スプリガンは能力に応じて一輝星から五輝星までの五段階の階級が割り振られる。

 〈GS-202 マニ・ルーン〉はその中でも最高位の五輝星で、単機の戦闘能力は随一だという。

 

 ちなみに既存の十二機のスプリガンはすべて三輝星だ。

 俗な言い方をすれば、マニのレアリティが☆5で他が☆3ということになる。

 

 〈GS-202 マニ・ルーン〉の機体は特別製で、武装切替やパーツ換装ができない。

 武器は〈真月の杖〉に限られた。

 

 コアAIであるマニは古い時代から存在した魔女で、理術を操る。

 理術とはアトルランにおける魔術と近しい原理で働く術で、〈GS-202 マニ・ルーン〉はその理術の増幅装置の役目を果たしていた。

 

 マニが操縦桿替わりの水晶に手を翳し瞑想すると、掲げた〈真月の杖〉に光が集まる。

 これまでの戦闘で放っていた満月の大きさを超えても尚、膨れ上がりコックピット内を明るく照らす。

 

 その輝きは月というよりも、もはや太陽のようであった。

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