精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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253話 ヒートエンド

 オルティエが撤退を宣言すると、暗黒龍を斬り刻んでいたスース、祖龍を牽制していたプリマもこちらに転移してきた。

 

『マニ、準備はいい?』

 

『オッケーじゃ、オルティエ殿。これが理術の神髄じゃ』

 

 気が付けば〈GS-202 マニ・ルーン〉の掲げた〈真月の杖〉の上には、直径百メートルを超える巨大な満月が生み出されていた。

 しかも二つ。

 

『《疾風なる(アルスヴィス)黎明よ(・アールヴァク)》』

 

 マニが杖を振り下ろすと、双子の月は暗黒龍と祖龍を目掛けて飛んでいく。

 月たちは競い合うように追い越し追い越され、場所を入れ替えながら突き進む。

 

 暗黒龍と祖龍は回避行動を取ろうとしたが、突如出現した赤い光線に妨害された。

 それは―――

 

『逃がさないわよ~。座標固定はできてるわね?』

 

『もちろん』

 

『おっけ~。消・し・飛・べ』

 

 リファの返事を聞いて、アリエが可愛い声で物騒なことを言いながら、荷電粒子収束射出装置(ラプソディ)の引き金を引く。

 

 この戦闘の間に〈SG-068 アリエ・オービス〉は、後衛からも少し離れた位置でエネルギーを貯めていた。

 重量二脚の丸みを帯びたフォルムの機体が、鉄骨のように無骨で長い銃を構えている。

 

 砲身の縦に入っているスリットは赤く輝いていて、引き金を引くと同時に蓄えられていたそれが発射された。

 短い電子音の後に、銃口から赤い光線が迸る。

 

 その光線は広範囲に拡散するが、奇妙なことに数kmはある暗黒龍の体と祖龍の体を囲うように屈折した。

 荷電粒子収束射出装置は防磁繭(ぼうじけん)という電磁フィールドによって荷電粒子を囲い、指定範囲のみ攻撃をすることが可能だ。

 

 つまり防磁繭で暗黒龍と祖龍を囲ったのだが、防磁繭を適切に配置できたのは〈SG-061 リファ・ロデンティア〉の鼠型ドローンのおかげである。

 戦闘中に大量の鼠型ドローンを展開し、暗黒龍の数km先の尻尾まで、防磁繭を設置する座標を取得していた。

 

 鼠型ドローンはブースターを搭載しているので、実は宇宙空間でも運用可能である。

 一生懸命、脚をじたばたさせて宇宙を泳いでいた。

 かわいい。

 

「縺≠ゅあ縺≠ゅ縺≠�辟シいk縲∽薙′轣シ灼代る代k!」

 

 荷電粒子に全身を焼かれ、暗黒龍が声にならない悲鳴を上げる。

 そこに飛び込んだのがマニが放った双子の月だ。

 

 荷電粒子収束射出装置の照射は十数秒続く。

 今度は荷電粒子が双子の月の通り道となり、赤い閃光の中で白い球がピンボールのように跳ね回る。

 

 ジグザグに跳ねて暗黒龍と祖龍の体を蹂躙し、最後に月同士が衝突すると、大爆発を引き起こした。

 シキの視界が赤と白の閃光で埋め尽くされる。

 

 あまりの光量に手を翳して耐えること数秒。

 ようやく宇宙空間に暗闇が戻ってきた。

 

「終わった、のか?」

 

 若干フラグっぽい発言をしてしまったと、後悔したシキである。

 実際にフラグが発動したのかは定かではないが……なんと祖龍は生き残っていた。

 

 足はあぐらを組み、腕は体の前で立てた防御姿勢だ。

 はみ出た羽と尻尾は消失し、四肢と体はエネルギーを消耗し過ぎたのか、痩せ細り骨と皮だけになっている。

 

 防御姿勢を解くと、紅玉の眼の片方が潰れた頭部が露わになった。

 

「何故腐謌代€�°繧奪うェ縺�シ滉ス墓腐謌代€滅r逡上l繧具シ?」

 

「うーん、やっぱり聞き取れない」

 

「メナスとの長きに渡る戦いの歴史の中で、意思疎通できたことは一度もありません」

 

「そうなんだ? 微妙に聞き取れる部分があるけど」

 

「……え?」

 

「え?」

 

 驚くオルティエをシキが見上げていると、祖龍が腕を持ち上げた。

 指先を真っすぐシキたちのいる方に向ける。

 

『させないわ』

 

 背後の暗闇から突然現れた〈SG-066 セラ・トゥー・クロス〉が、半円を描くような特殊な形状のブレード、プラズマショーテルで祖龍の腕を斬り飛ばした。

 

 攻撃しようと指先に溜まっていたエネルギーが行き場を失い、その場で爆発する。

 爆発と共に起きた閃光に紛れて祖龍が動く。

 

 シキに向かって突っ込んでくるが、素早く前に躍り出たのは〈SG-065 リューナ・ヘルカイト〉だ。

 リューナは可変型スプリガンで、機械仕掛けの竜の姿に変形できるが、現在は人型の姿である。

 竜形態の時は頭部パーツにもなる竜面の盾を掲げて、祖龍を迎え撃つべく突進した。

 

『いい加減、消えなさい』

 

 龍面の顎が開き、接触と同時に祖龍の頭部へと喰らいついた。

 引き剥がそうと祖龍が盾を掴むが、しっかり咥えていて離れない。

 

「おお、竜の口、盾状態でも動くのか」

 

 顎が徐々に閉まり、祖龍の頭部が軋み変形していく。

 頭蓋骨が割れると、脳味噌の代わりに紅く輝く結晶が露出する。

 

 それはメナスの(コア)であった。

 更に龍面の顎が狭まると、ぴしり、と核の表面に亀裂が入り―――粉々に砕け散る。

 

 断末魔はない。

 代わりに閃光が迸り、宇宙が紅色に染まった。

 

 もしアトルランから空を見上げている者がいれば、天が燃えていると大騒ぎしていたことだろう。

 閃光は数秒でおさまり、すぐに暗い宇宙空間が戻ってくる。

 

「対象の殲滅を確認」

 

「こ、今度こそ終わった」

 

 シキもメナスの討伐を無償チップの獲得によって確認した。

 気が抜けて複座から少しずり落ちる。

 

「うお、すごい無償チップの量だ。十連ガチャ二回分か。前に倒したムハイはガチャ三回分だったな」

 

「呼称:無敗をもたらすものは、メナスの中では最下位のショート級となります。対して呼称:暗黒龍はグランデ級相当ですので、格が二つ上となります」

 

「なんで階級の呼び名がお洒落なコーヒーショップ風なんだろう……あれでグランデか。更に上もある?」

 

「はい。ベンティ、トレンタと続きます。ベンティでメナスの体長が100km、トレンタで1000km規模となります。観測のみとなりますが、惑星規模のメナスも確認しています」

 

「でっっか」

 

 思わずシキが見上げたが、オルティエの顔はでっっかい胸に遮られて見えなかった。

 

「さて、どうやってアトルランまで帰ろう? 直接〈ユニット転送〉は無理だよね? いや、皆来てるってことはできるのか」

 

「はい。転移先に小型情報端末があれば距離は関係ありません。樹海組は転送で帰還させます。ですが迷宮組の私とマスターは来た道を戻りましょう。ここから7km離れた地点に、龍脈と繋がる()()があります。マニ、指定した座標まで移動してくれる?」

 

「承知した。我が主よ、改めてよろしく頼むぞ」

 

「うん。こちらこそよろしく」

 

 シキは複座から降りてマニと握手を交わす。

 暗黒龍は倒したが、龍脈での偽祖龍との戦いは続いていたし、エフェメラの安否も確認できていない。

 まだまだやることがあったし、そもそも()()()()は最初から空欄だったので意識していなかった。

 

 

 

 だからこの時、シキは気付かなかった。

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