精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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27話 June bride な精霊さん

 信号弾と魔術の激しい応酬に湧いていた観客だったが、オルティエの出現によって一気に静まり返っていた。

 

 シキから見てもお世辞抜きにオルティエは絶世の美女だ。

 癖のない真っ直ぐな銀髪は太陽光を浴びて絹のように輝いている。

 ダイヤモンドのように煌めく瞳の上には長い睫毛(まつげ)と柳眉が並ぶ。

 

 鼻筋は真っすぐ通り、小振りだがぷっくりとした唇は瑞々しい。

 肌も透き通るように白く、シミどころか皺ひとつない。

 

 メリハリのある女性らしい体つきは、纏うドレスによって更に引き立てられていた。

 それは純白(ピュアホワイト)のストラップレスドレスで、上半身は体にフィットし、腰から裾までは寄せひだ(ギャザー)で広がっている。

 いわゆるお姫様ドレス(プリンセスライン)だ。

 

 小物としてはベール付きティアラにレースの手袋。

 さすがにブーケは戦闘の邪魔になるので持っていない。

 

 そう、これはウェディングドレスで、Break off Online のジューンブライドガチャで出る衣装だ。

 

 何故オルティエはウェディングドレスを着ているのか。

 それはシキに精霊使いとしての箔をつけるため、ということになっている。

 

 確かに普段の軍服姿を見せるよりは、豪奢なドレス姿のほうが使役している精霊の格も上に見えるかもしれない。

 他にもハロウィンガチャのゴスロリドレス等も候補に挙がったが、オルティエの強い、それはそれはとても強い要望でウェディングドレスが選ばれた。

 

 この世界にウェディングドレスという概念は存在しないそうなので、周囲には単に豪華な衣装として受け止められていた。

 オルティエは空中に浮かんでいるため、トレーンと呼ばれるスカートの後ろ側の長い裾は垂れ下がり、その姿をより大きく華やかに見せている。

 

 シキは年末の歌合戦のラスボスみたいだなあと思った。

 ちなみにシキはオルティエにお姫様抱っこされている状態で非常に恥ずかしかったが、ランディを含めた観客全員がオルティエに見惚れていたので誰も気にしていない。

 

『嗚呼、マスターにこの姿を披露できて感無量です。このままハネムーンに連れ去りたいです』

 

『やめてね? 負け試合になってエンフィールド家が取り潰しになっちゃうから』

 

「……それがお前の精霊だというのか」

 

「あ、はい。そうです」

 

「ふざけるな! 精霊なのに何故魔素がひとつも感じられないんだ。魔素を纏わない存在がこの世にいるわけがない。まさか……」

 

 まさか、の続きがあると思い言葉を待ったシキだったが、ランディから飛んできたのは言葉ではなく魔術だった。

 火球、氷槍、そして雷撃といった攻撃魔術を繰り出してくるが、それらはことごとくパルスシールドに阻まれる。

 

 空中にいるため、先ほどのようにパルスシールド内の石畳を槍に変えて攻撃することもできない。

 攻撃は通らない、そう思わせるのがランディの作戦であった。

 

『〈精神攻撃〉を探知しました。サイコフィールドを展開します』

 

『え、なにそれ』

 

 詳細を聞こうとしたシキを、突如強烈な眠気が襲う。

 前世で二徹した時よりも抗い難く、意識を手放しそうになるが、それもほんの二、三秒のことであった。

 

「なにぃ! 《誘眠(スリープ)》が抵抗された!?」

 

 その魔術はランディの奥の手だった。

 理屈は分からないが、魔素そのものはあの透明な壁を通過できると《地槍》で実証済みだった。

 

 壁の外で魔術を発現させると防がれてしまうが、内側で発現、もしくは命中するまで発現しない魔術なら通ると踏んだのだ。

 だから派手な攻撃魔術で目くらましをして、こっそり《誘眠》を放ったのだが、呆気なく抵抗されてしまった。

 

『なるほど。《誘眠》みたいな見えない攻撃はパルスシールドでは防げないのか。それで別種のサイコフィールド? とやらで防御したと』

 

『はい、その通りです。サイコフィールドは超能力(サイキック)による攻撃を防ぐ障壁です』

 

『魔術による攻撃だから超能力とは違くない?』

 

『そういう〈設定〉ですので』

 

『万能な言葉だなあ〈設定〉って』

 

 Break off Online のSFな世界観がこのアトルランと呼ばれるファンタジー異世界に、そういう設定で落とし込まれていると言われれば、シキはもう反論できないのであった。

 

『やはり対人兵装で十分対応できましたね。待機させているスプリガンの出る幕もありません』

 

 オルティエは地上に降り立つと抱きかかえているシキを降ろす。

 そして愛おし気にシキの頬を撫で、口づけしようとしたところで姿が消失した。

 

『そこまでしなくていいから』

 

『強力な精霊の寵愛を受けているという演出ですのに。まあ〈非表示〉にされてもキスはできますが』

 

「魔力切れだ。俺にもう攻撃手段は残っていない。降参する」

 

「……あ、すみません。同じく魔力切れなので降参します」

 

「は? お前ふざけるなよ」

 

 明らかに余力を残しているシキの発言にランディが怒りを露わにする。

 魔力が枯渇して青白い顔をしているランディと、頬の柔らかい感触を受け照れて紅潮しているシキの顔が対照的であった。

 なにはともあれ審判が両者の降参を認めたので、御前試合は引き分けという結果で幕を閉じた。

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