精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
「そ、祖龍様だ」
誰ともなく呟いて跪くと、皆もそれに倣って跪いた。
立ったままなのはシキたちと、何もかもが認められない、認めたくないリオンだけだ。
「こいつは偽物だ! 本物はもっと黒く―――」
「黙れ小僧」
いつの間にか立ち込めていた暗雲から、低い男の声が降ってきた。
威厳を感じるその声には、神聖なる魔素である神気が籠っている。
玉座の間が強烈な
「吾輩が祖龍である。レンド族の娘が語ったことは真実だ。故にシィズ族に王族たる資格は無い。よって剥奪する」
一方的な沙汰に、シィズ族の重鎮たちに動揺が走る。
数十年と続いた既得権益を手放せるわけがない。
だから王位剥奪など認めるわけにはいかない。
そう思いつつも圧力で顔すら上げられないシィズ族。
しかしリオンだけは違う。
「ふざけるな! そんなことが許されてたまるか」
「やめよ、リオン」
跪いていた国王ライオスが顔を上げる。
獅子頭なので顔色はわからないが、声は震えていた。
「祖龍様、シィズ族は王位の座を明け渡します」
「父上!」「陛下!」
リオンと重鎮たちは信じられないといった様子で声を荒げる。
玉座の間は再び怒号に包まれた。
「偉そうに言ってるけど、外様の神に捕まった祖龍様が悪いのにねー」
「ちょっとそこ、黙ってるのだ。おっほん、何もブレイル獣王国から出て行けと言ってるわけではない。他の六氏族と足並みを揃えて―――」
空気を読まないライカの発言を窘め、シィズ族をフォローしようとする祖龍。
しかしその途中で、ぽひゅう、という気の抜けた音がしたかと思うと上空の祖龍の姿が消滅。
白い塊がぽてりと落ちてきた。
「いてて、時間切れなのだ」
甲高い声に戻った祖龍が、前足で自分の尻をさすっている。
「やはりな、これが本当の姿なのだろう? カバの魔獣め、成敗してくれる!」
「殿下!? 何を」
逆上したリオンは傍にいた近衛兵から剣を奪うと、祖龍に斬りかかる。
王族のコネで第一位階冒険者になったリオンだが、その実力は決して侮れない。
その証拠に近衛兵が止める間もなかった。
「ふぁ?」
神力を消耗し、ぼんやりしている祖龍に凶刃が迫る。
シキは動かない。
代わりに祖龍とリオンの間に割って入ったライカが、手甲で剣を受け止める。
「結局こうなったね」
「邪魔をするな、
「むかっ」
〈祖霊の渓〉で経験を積んだライカの実力は相当に上がっていた。
実質第二位階相当のリオンの連撃を難なく受け流す。
「ぐっ、この」
「はぁ、仕方ないから一度見せつけてやるのだ」
「わかった」
突きを弾いた瞬間、ライカの体が大きく沈む。
リオンからは突然ライカの姿が消えたように見えただろう。
ライカはリオンの懐に潜り込み、素早く足払いを仕掛けた。
獅子人族の巨体が宙に浮いたところへ、背中から体当たりする。
「がっ」
踏ん張りの利かないリオンは砲弾のように吹っ飛び、周囲の近衛兵を巻き込んで壁に衝突した。
エル直伝の技、鉄山靠である。
〈祖霊の渓〉攻略中にこっそり練習していたのだ。
皆が唖然とする中、ライカが勝利宣言するかのように拳を上げた。
そして魔術具でもある手甲に魔力を込めると、バチバチと稲妻が迸る。
「まさか、その光と溢れる神気は」
「そうだ。このライカ・バイフ・ブレイルは祖龍を救い、認められ、爪を賜ったのだ」
ライカの手甲には現在、首狩りの魔石の代わりに祖龍の爪が入っている。
祖龍の体ともなると全身から魔力が溢れていて、爪でも魔石の役割を果たすことができた。
実は先ほど祖龍が本来の姿に戻った時、長い胴体から生えている脚の爪の先がひとつ欠けていた。
果たして気付いた者がいたかどうか。
カルナノーラの説明を聞いて、真っ先に動いたのは国王ライオスであった。
ライカの前まで歩き跪いて宣言する。
「その圧倒的な神力、まがい物である〈爪龍剣〉とは比べ物にならん。バイフ族の娘ライカよ。新たなる国王、いや女王の誕生をシィズ族は歓迎する」
「ううん。ボクはそういうのやらないよ」
「……なぜだ?」
「だってバイフ族って武術ばっかりやってて、政治は全然やってないもん。王族になっても他氏族の言いなりになっちゃうんだって」
「だって?」
ライカは自身の氏族であるバイフ族の事情なんて知らない。
だからカルナノーラから教えてもらったことを、そのまま話していた。
「それにまた王族ができたら、他氏族と喧嘩になっちゃうよ。だからボクは女王にはならない」
ライカは振り返ってモアをちらりと見る。
彼女は元々商家のひとり娘だったが、幼い頃に商才ある母親が病死。
父親はろくでなしで商家はすぐに潰れ、モアは借金のかたとして売られた。
これは後になって知ったことだが、商家がすぐに潰れた裏には、シィズ族と他氏族の抗争が大きく影響していたのだ。
いくら父親がろくでなしでも、一年も経たずに商家が潰れるのはおかしかった。
もしモアが大きくなるまで商家が残っていれば、奴隷として売られずに済んだかもしれない。
モアのような不幸な境遇の子を生み出した王族になど、ライカはなりたくなかった。
まぁこのことをバイフ族の長が聞けば、折角手に入る権力を手放すなんてと卒倒しそうだが。
「幸いにもこの場にいるのはシィズ族が大半で、他部族はライカと私しかいない。シィズ族が黙っているなら、ライカが賜った爪は公開しない。新たな王族に傅(かしず)くよりも、七氏族が横一列に並んで国を運営していくほうが、シィズ族にとってもよいのではないか?」
「………わかった。そうしよう」
重鎮たちの反応を見てから、国王ライオスがゆっくりと頷く。
こうしてシィズ族は王族ではなくなった。
いや、正しくは七氏族すべてが王族となり、ブレイル獣王国のあるべき姿が戻ってきたのである。