精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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260話 破滅の王族

「そ、祖龍様だ」

 

 誰ともなく呟いて跪くと、皆もそれに倣って跪いた。

 立ったままなのはシキたちと、何もかもが認められない、認めたくないリオンだけだ。

 

「こいつは偽物だ! 本物はもっと黒く―――」

 

「黙れ小僧」

 

 いつの間にか立ち込めていた暗雲から、低い男の声が降ってきた。

 威厳を感じるその声には、神聖なる魔素である神気が籠っている。

 玉座の間が強烈な圧力(プレッシャー)で支配され、跪く人々の背筋に冷や汗が流れた。

 

「吾輩が祖龍である。レンド族の娘が語ったことは真実だ。故にシィズ族に王族たる資格は無い。よって剥奪する」

 

 一方的な沙汰に、シィズ族の重鎮たちに動揺が走る。

 数十年と続いた既得権益を手放せるわけがない。

 だから王位剥奪など認めるわけにはいかない。

 

 そう思いつつも圧力で顔すら上げられないシィズ族。

 しかしリオンだけは違う。

 

「ふざけるな! そんなことが許されてたまるか」

 

「やめよ、リオン」

 

 跪いていた国王ライオスが顔を上げる。

 獅子頭なので顔色はわからないが、声は震えていた。

 

「祖龍様、シィズ族は王位の座を明け渡します」

 

「父上!」「陛下!」

 

 リオンと重鎮たちは信じられないといった様子で声を荒げる。

 玉座の間は再び怒号に包まれた。

 

「偉そうに言ってるけど、外様の神に捕まった祖龍様が悪いのにねー」

 

「ちょっとそこ、黙ってるのだ。おっほん、何もブレイル獣王国から出て行けと言ってるわけではない。他の六氏族と足並みを揃えて―――」

 

 空気を読まないライカの発言を窘め、シィズ族をフォローしようとする祖龍。

 しかしその途中で、ぽひゅう、という気の抜けた音がしたかと思うと上空の祖龍の姿が消滅。

 白い塊がぽてりと落ちてきた。

 

「いてて、時間切れなのだ」

 

 甲高い声に戻った祖龍が、前足で自分の尻をさすっている。

 

「やはりな、これが本当の姿なのだろう? カバの魔獣め、成敗してくれる!」

 

「殿下!? 何を」

 

 逆上したリオンは傍にいた近衛兵から剣を奪うと、祖龍に斬りかかる。

 王族のコネで第一位階冒険者になったリオンだが、その実力は決して侮れない。

 その証拠に近衛兵が止める間もなかった。

 

「ふぁ?」

 

 神力を消耗し、ぼんやりしている祖龍に凶刃が迫る。

 シキは動かない。

 代わりに祖龍とリオンの間に割って入ったライカが、手甲で剣を受け止める。

 

「結局こうなったね」

 

「邪魔をするな、(たてがみ)を持たん猫の分際で」

 

「むかっ」

 

 〈祖霊の渓〉で経験を積んだライカの実力は相当に上がっていた。

 実質第二位階相当のリオンの連撃を難なく受け流す。

 

「ぐっ、この」

 

「はぁ、仕方ないから一度見せつけてやるのだ」

 

「わかった」

 

 突きを弾いた瞬間、ライカの体が大きく沈む。

 リオンからは突然ライカの姿が消えたように見えただろう。

 

 ライカはリオンの懐に潜り込み、素早く足払いを仕掛けた。

 獅子人族の巨体が宙に浮いたところへ、背中から体当たりする。

 

「がっ」

 

 踏ん張りの利かないリオンは砲弾のように吹っ飛び、周囲の近衛兵を巻き込んで壁に衝突した。

 エル直伝の技、鉄山靠である。

 〈祖霊の渓〉攻略中にこっそり練習していたのだ。

 

 皆が唖然とする中、ライカが勝利宣言するかのように拳を上げた。

 そして魔術具でもある手甲に魔力を込めると、バチバチと稲妻が迸る。

 

「まさか、その光と溢れる神気は」

 

「そうだ。このライカ・バイフ・ブレイルは祖龍を救い、認められ、爪を賜ったのだ」

 

 ライカの手甲には現在、首狩りの魔石の代わりに祖龍の爪が入っている。

 祖龍の体ともなると全身から魔力が溢れていて、爪でも魔石の役割を果たすことができた。

 

 実は先ほど祖龍が本来の姿に戻った時、長い胴体から生えている脚の爪の先がひとつ欠けていた。

 果たして気付いた者がいたかどうか。

 

 カルナノーラの説明を聞いて、真っ先に動いたのは国王ライオスであった。

 ライカの前まで歩き跪いて宣言する。

 

「その圧倒的な神力、まがい物である〈爪龍剣〉とは比べ物にならん。バイフ族の娘ライカよ。新たなる国王、いや女王の誕生をシィズ族は歓迎する」

 

「ううん。ボクはそういうのやらないよ」

 

「……なぜだ?」

 

「だってバイフ族って武術ばっかりやってて、政治は全然やってないもん。王族になっても他氏族の言いなりになっちゃうんだって」

 

「だって?」

 

 ライカは自身の氏族であるバイフ族の事情なんて知らない。

 だからカルナノーラから教えてもらったことを、そのまま話していた。

 

「それにまた王族ができたら、他氏族と喧嘩になっちゃうよ。だからボクは女王にはならない」

 

 ライカは振り返ってモアをちらりと見る。

 彼女は元々商家のひとり娘だったが、幼い頃に商才ある母親が病死。

 

 父親はろくでなしで商家はすぐに潰れ、モアは借金のかたとして売られた。

 これは後になって知ったことだが、商家がすぐに潰れた裏には、シィズ族と他氏族の抗争が大きく影響していたのだ。

 

 いくら父親がろくでなしでも、一年も経たずに商家が潰れるのはおかしかった。

 もしモアが大きくなるまで商家が残っていれば、奴隷として売られずに済んだかもしれない。

 

 モアのような不幸な境遇の子を生み出した王族になど、ライカはなりたくなかった。

 まぁこのことをバイフ族の長が聞けば、折角手に入る権力を手放すなんてと卒倒しそうだが。

 

「幸いにもこの場にいるのはシィズ族が大半で、他部族はライカと私しかいない。シィズ族が黙っているなら、ライカが賜った爪は公開しない。新たな王族に傅(かしず)くよりも、七氏族が横一列に並んで国を運営していくほうが、シィズ族にとってもよいのではないか?」

 

「………わかった。そうしよう」

 

 重鎮たちの反応を見てから、国王ライオスがゆっくりと頷く。

 こうしてシィズ族は王族ではなくなった。

 いや、正しくは七氏族すべてが王族となり、ブレイル獣王国のあるべき姿が戻ってきたのである。

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