精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
261話 お別れの準備
ライカが爪を賜ったことはすぐに知れ渡ってしまった。
何故かと言えば……
玉座の間には限られた人々しかいなかった。
しかし城の上空に暗雲が立ち込め祖龍が現れた光景は非常に目立つ。
王都のどこからでも見えてしまっていた。
更には神気まで巻き散らしていたので、多くの民がその特徴的な魔素の感覚を、強制的に覚えることになる。
そしてライカの手甲に納められた爪だが、一度発動させると神気が暫く漏れていた。
それに気付かずライカがバイフ族の屋敷に帰ったため、普通に爪の存在がバレて大騒ぎになったのだ。
「あー疲れた。
シィズ族が王族から退いて四日が経った。
ぐったりした様子のライカがテーブルに突っ伏す。
普段ならはしたないと叱るモアだが、今日ばかりは仕方ないといった感じで見守っていた。
族長とは父親のことだが、ライカは一度も父親と呼んだことはない。
「神力って濃い香水みたいだなぁ。つけてる本人は気付かなくて、周囲がうわってなるやつ」
「だいたいボクより弱いやつと結婚なんて嫌だよ」
「ライカ様より強い奴はなかなかいないな。俺でも勝てないし」
「えっ」
「え?」
「それでシキ様、国にはいつお帰りになるのですか?」
微妙にすれ違っていたシキとライカの会話を、モアがぶった切った。
いいからお前ははよ帰れ、というオーラが溢れ出ている。
「ああ、うん。ぼちぼちお世話になった人への挨拶が終わるから、明後日には出発するよ」
「……〈克己の逆塔〉ってところを通ればシキの国に行けるんだっけ?」
「そうだよ」
ここはブレイル獣王国の城にある一室で、隣の部屋では現在エフェメラとライオスが二人っきりで話をしている。
二人の関係は微妙、というかライオスが一方的に懸想していた。
龍脈へ挑む前夜、城に乗り込んだ際にそう本人からシキは聞いている。
シキがその辺りの事情を知っていることをエフェメラは知らない。
二人っきりで話す理由をなんて言おうか。
エフェメラが悩んでいる様子だったので、気を利かせたシキは隣室で休んでいると言って待機していた。
まぁ念のため小型情報端末は送り込んでいるのだが。
ただシキは映像だけにして、音声はオルティエに聞いてもらっている。
シキは割と隠し事が苦手で、顔や態度に出てしまう。
それに込み入った会話を息子に聞かれたくないだろう、という配慮もあった。
映像を見る限り終始穏やかな会話が続き、二十分程で終了。
エフェメラが戻ってきた。
「あら、ライカちゃん。来てたのね」
「
シキに絡むとモアがうるさいので、ターゲットを切り替えるライカ。
あの後も武術を続けていたこと。
母が病気で死んだこと。
外の世界に憧れていた母に代わって冒険者になったこと。
ライカ自身も冒険者、そしてエフェメラに憧れていたこと。
すべてを伝え終わった時、エフェメラは母の死を悲しみ涙を流し、ライカの成長を喜び抱きしめてくれた。
ライカが幼い頃よりもエフェメラに懐いたのは言うまでもない。
エフィという愛称呼びにそれが現れている。
「私の用事は終わったから、あとはシキに合わせるわ」
「明後日に出発予定だよ」
「うーーー、なら今日はこれから稽古しようよ」
「構わないけど、どこでするの?」
城内はどこも慌ただしい。
これまでシィズ族が独占していたが、これからは他の六氏族も城に入って国政を担う。
なので大規模な引っ越しが各所で行われていた。
バイフ族に割り当てられた敷地もあるが、そこで稽古なんてしたら邪魔だろう。
「これから冒険者ギルドに向かうから、そこの訓練場でいいんじゃない?」
「うん、そうしよう!」
「待つのだ。吾輩も行くのだ」
そう言って現れたのは祖龍だ。
しかも何故かナウラに抱っこされての登場である。
「祖龍様まだいたの?」
「いたら悪いか? なのだ」
「迷宮放置しちゃ駄目でしょ」
「少しくらい放置しても大丈夫。何なら外様の神に支配されてた時より平和なのだ」
偉そうに胸を張る祖龍。
腕の中で仰け反るから、ナウラが抱えにくそうにしている。
「どうせ皆にちやほやされたくて残ってるんでしょ」
「べ、別にいいじゃないかなのだ」
「ナウラさん、嫌なら嫌って言った方がいいですよ。じゃないとつけあがりますから」
「あー、いえ、獣王国の礎を築いた祖龍様のお役に立てるなら、嬉しいです……よ?」
自分を見失っているナウラである。
実は周囲から祖龍の世話を押し付けられていることに気付いていない……。
「というか〈克己の逆塔〉を使って帰るなら、吾輩の力が必要であろう」
皆と別れた後は適当なタイミングで、Break off Online 拡張機能の〈パイロット登録〉を使いエフェメラを登録。
スプリガンの複座経由の転移を使ってサクッと帰るつもりだった。
正直に言って邪魔だが、断る口実も見当たらない。
仕方なく祖龍とナウラを連れて冒険者ギルドへ移動する。
「お待ちしておりましたにゃ、シキ様。ギルマスの元へご案内します」
「ありがとうございます。ヤチヨさん」
執務室で待っていたのは、ギルマスのカルナノーラとサブマスのバロウ。
その他にランダーク、バルザ、ラトピアの五名であった。
「あ、ラトピア」
「ライカちゃん、久しぶりね。ちっとも会いに来てくれないから寂しかったわ」
「おや、祖龍様にナウラ殿まで来たのか。七氏族の重鎮が揃っているし先にそっちの話をしてしまおうか」
「そっちの話?」
抱きついてきた小柄なラトピアを高い高いしながら、カルナノーラの発言にライカが首を傾げる。
「うむ。シキ殿の国、レドーク王国との国交の話だ」