精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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263話 小足見てから余裕でした

「皆は各氏族へ親書のことを伝えてくれ。まさか救国の英雄との交流を拒む氏族はいないと思うが」

 

 カルナノーラが釘を刺したところで、一旦解散となる。

 うきうきした様子のラトピアと、黙って聞いていたランダーク、それに神妙な面持ちのナウラが祖龍を残して退室。

 

 ライカとエフェメラは約束通り稽古をしに訓練場へ行った。

 モアは付き添いだ。

 残った面子で次の話へと移る。

 

「さて、報奨の中身をある程度詰めておきたいのだけれど、英雄殿は何が望みかな? 富、名声、女、それとも全てかい?」

 

「それじゃぁ、貸しにしておいてください」

 

 過去の教訓を生かして、シキはそう答えた。

 レドーク王国のアートリース伯爵領 〈星屑の迷宮〉にて、サーライト・ノーグという悪人を捕まえたことがある。

 

 アートリース伯爵からお礼は何がいいかと聞かれ、その場で「国宝級の魔術具を手に入れた場合、それの所有権を認めてもらう」と即答したのだが、後になって考えると早計だった。

 

 そのおかげで魔剣 〈流星砕き〉を手に入れたので結果オーライではあるが、当時問題になっていた王族間の派閥争いへの助勢など、他のお礼を検討する余地もあっただろう。

 

 貸しにし続けるのも失礼かもしれないが、それなら適当なタイミングでその時に必要なものを要求すればいい。

 ただ現時点で富も名声も女も間に合っているが……。

 

「欲のない奴め。ナウラとかおススメなのだ。ずっと抱っこされてたからわかるけど、ナイスバディなのだ。それとも人族的に獅子の顔は嫌か?」

 

「うーん、まあ、種族の差はあるかもね」

 

 ナウラは獅子人族の女性で、人間の手と猫の足、そして人間と猫の中間くらいの顔つきをしている。

 シキは一般人(?)なので、ナウラを見ても女性要素よりも動物要素に注目してしまう。

 

 足の肉球とか顎下とか触りたい。

 あ、そういえばザビとラドールに別れの挨拶をしていなかった。

 今晩にでも接触して、置き土産として猫カフェでも提案しようか。

 

「随分ナウラの肩を持つのですね」

 

「ぴっ」

 

 なにマスターに女をあてがおうとしとんねん。

 とでも言いたそうに殺気を放つオルティエに、祖龍が怯えて首を縮める。

 なお首は元々が短いので、顎が胴体にめり込む勢いだ。

 

「そ、そりゃぁ我輩のせいでシィズ族には悪いことをしたからフォローするのだ。英雄の正妻がいれば立場も安泰だろうし」

 

「祖龍様には申し訳ありませんが、シィズ族には暫く泥水を啜ってもらいます。これまで王族として享受してきた財を手放さなければ、他氏族が納得しません」

 

 騙されていたとはいえ、世界の敵である外様の神に協力していたのだ。

 いずれは他氏族と対等の関係に戻れる。

 それだけでも有情だろう。

 

「シィズ族をフォローして頂けるのであれば、逆恨みしないよう言い聞かせてやってください。ライオス族長は恭順を示していますが、例の三馬鹿はアレですので……」

 

 三馬鹿とはシィズ族の元王位継承権第一位から三位の連中のことで、もちろんリオンも含まれている。

 リオン以下三馬鹿は崇めていたのが偽祖龍だったという現実が受け入れられず、喚き散らし続けたため幽閉されていた。

 

「うーん、あれは我輩にも救えぬものなのだ」

 

「ならば次期族長はナウラですね。彼女なら無難な立ち回りができるでしょう。問題は三馬鹿を御輿にしようとする勢力です」

 

「それならやっぱり英雄の正妻になったほうが箔が付いて……」

 

「は?(威圧)」

 

「な、なんでもないのだ」

 

 

 

 一通り話を終えて訓練場に向かうと、人だかりができていた。

 

「なんかいつ来てもここは賑やかだなぁ」

 

「ほう、冒険者は真面目に訓練するのだな」

 

「いやそういう意味じゃないんだけどね」

 

 シキが頭の上の、肩車している祖龍に向かって答えた。

 人だかりの中央にライカとエフェメラがいる。

 

 二人は石畳の上で組み手をしているのだが、その動きはとても稽古とは思えない。

 魔獣を相手にしている時のような、殺気の籠った殴る蹴るの攻防を繰り広げていた。

 

「ええ……受け損なったら怪我するぞこれ」

 

「おー、達人同士だからか、舞っているかのようなのだ」

 

 祖龍の言う通り息の合った応酬は、もはや演武であった。

 人だかりの冒険者たちも、野次ではなく感嘆の声をあげている。

 

 カンフー映画の格闘シーンが三倍速くらいで繰り広げられているのだから、それは盛り上がるだろう。

 新人冒険者程度では目で追うことすら難しいかもしれない。

 

「ふっ」

 

 シキたちが見始めてから数手の応酬の後、ライカが身を屈めて踏み込む。

 低い姿勢のままエフェメラに肉薄し、上体を起こすと同時に掌底を放った。

 

 びゅう、と風を切り裂く音を響かせながら迫る(てのひら)を、エフェメラは後退しつつ真正面で受け止める。

 エフェメラの手の動きは滑らかで柔らかい。

 

 両手で包み込むようにしてライカの掌底の威力を殺すと、手首を掴み捻りながら引き倒した。

 ライカは力に逆らわず体を捻り、側転のような動きでエフェメラの横をすり抜ける。

 

 そして着地と同時にお返しと言わんばかりに、エフェメラの手首を引っ張った。

 これはすぐに振り払われてしまったが、僅かに体勢を崩した隙は見逃さない。

 

「そこっ」

 

 ライカが再度身を屈めて踏み込んだ。

 今度は掌底ではなく足払いを仕掛けると、エフェメラが飛んで躱した。

 

 ここまでは想定通り。

 空中で身動きが取れないという大きな隙をついて、ライカが背中を使った体当たりを放つ。

 最近のお気に入りでエル直伝の技、鉄山靠だ。

 

「あっ」

 

 これは躱せない。

 思わずシキの声が漏れたが、ここでエフェメラが想定外の動きを見せた。

 

 空中で体を仰け反らせ、胴体を頭の高さまで一気に持ち上げたのだ。

 陸上競技の走り高跳びの、背面飛びをしているような姿勢である。

 

 足払いを躱すための小さな跳躍のはずが、ライカの体当たりも躱して見せた。

 しかもそれだけでは終わらない。

 

 エフェメラは両脚でライカの首を挟み、バク宙の要領で体を後ろに捻る。

 バク宙に巻き込まれたライカの体は空中を一回転。

 エフェメラの背後の石畳に思い切り叩きつけられた。

 

 大きな衝撃音と共に石畳が割れて、周囲へ派手に飛び散る。

 最前列で見ていた冒険者たちは、破片が飛んできて腰を抜かした。

 

 離れた所でトレーニングをしていた冒険者は、音に驚いてこちらを振り向いた。

 訓練とは思えない大惨事に、訓練場が沈黙で支配される。

 

「えーっとなんだっけこのプロレス技……ああ、思い出した。フランケンシュタイナーだ」

 

「なんて?」

 

 あまりに呑気なシキの口調だったので、頭上の祖龍が呆れていた。

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