精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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264話 迅雷姫との約束

 ライカは派手に石畳と衝突したが、シキにはちゃんと受け身を取っていたのが見えていた。

 最初こそ心配したが、二人はちゃんと手加減していたのだ。

 

 その証拠にうつ伏せに倒れていたライカはすぐに起き上がる。

 ただ石畳を砕く程の威力でぶつかっておいて、受け身も何もない気がしないでもないが。

 

「姫様! 大丈夫ですか?」

 

「うん。大丈夫。あ~負けた~。完全に浮かしたと思ったのに、なんでわかったの? エフィお姉ちゃん」

 

「足払いが軽すぎよ。だから次への布石だということが丸わかりだったの。でもわかってても躱すのはギリギリだったから、びっくりしちゃった」

 

「なんか達人みたいなことを言ってるのだ」

 

「実際に達人なんだろうねぇ」

 

 十四歳のライカに対してエフェメラは十八歳(相当)。

 エフェメラは小柄で可愛らしい雰囲気なので、ライカと同年代と言われても違和感はない。

 

 四年分の経験の差に加えて、エフェメラは【武闘神の加護】という加護を持ち、素手での格闘に長けている。

 ライカも相当な武人であるが、エフェメラはそれ以上であった。

 

「シキはさっきの技、避けられるのだ?」

 

「無理無理。来るとわかってても避けられるタイミングじゃないよ。ガードするのが精一杯かな」

 

「あら、シキじゃない。お話は終わったの?」

 

 少しずつ散り始めた人だかりの中から、シキを見つけたエフェメラが手を振っている。

 

「うん、そっちは随分と派手にやってるね」

 

「あんた、あの〈迅雷姫〉に勝つなんて凄いな!」

 

 シキが近づこうとすると、冒険者の男が割り込んできた。

 

「じんらいき?」

 

「おう。ライカ・バイフ・ブレイル様、お前さんのことだぜ」

 

 その男によると、迷宮から帰還してからの四日間のうちに、ライカの二つ名が勝手につけられているらしい。

 ライカが城で祖龍の爪を賜ったことと同時に、皆から嫌われているリオンを鎧袖一触。

 一撃で叩きのめしたことも広まっていた。

 

 その様子が稲妻のような姫……〈迅雷姫〉と誰かが言い出す。

 そしてあっという間に定着したそうだ。

 

「ちょっと! ボクは何も聞いてないんだけど。でも〈迅雷姫〉か、ふむ」

 

 存外悪くはない。

 みたいな調子でひとり頷くライカ。

 

「まだ四日しか経ってないのに、情報が広まるのが早いなぁ」

 

「お、そういう坊主はいつぞやの……なんだそのブタ」 

 

「ブタじゃないのだ」

 

「同じ黒髪に黒目。この人はもしかして坊主の姉ちゃんか?」

 

「あらあら、まぁまぁ」

 

「おいこらスルーするな、なのだ」

 

「いや、俺のか……おねえちゃんです」

 

 若く見られてご機嫌のエフェメラが視線で圧をかけてきたので、仕方なく肯定するシキ。

 十八歳(相当)と十二歳なので、姉弟と名乗っておいたほうが自然ではある。

 

 男はエフェメラを冒険者のパーティーに誘いたかったようだが、明後日には国を出るためそれを口実にして丁重にお断りした。

 ブレイル獣王国の民は強者を重んじているし、冒険者なら尚のこと魅力的に映るのだろう。

 

 エフェメラに熱視線が注がれている。

 伊達に元国王から懸想されていない。

 

 冒険者たちはエフェメラだけでなく、ライカにも声をかけたそうにしていた。

 だがこちらはモアがしっかりガードしている。

 

「皆様、場所を変えませんか? このまま冒険者ギルドに残っていては迷惑でしょう」

 

「そうだね。ちょっと早いけど晩御飯にしようか」

 

 などと言いつつ訓練場を離れようとした時、ギルド職員のヤチヨの姿が視界に入った。

 猫の瞳である一点をじーーーっと見つめている。

 

「……あっ」

 

 危うく冒険者ギルドの施設を破壊したまま、立ち去ろうとするところであった。

 シキは慌ててヤチヨに謝罪する。

 

「すみません。弁償しますので。ほら、二人も謝って」

 

「「ごめんなさい」」

 

「い、いえ。皆さん国を救った英雄の方々ですので、これくらい大丈夫ですにゃ」

 

「そういうわけにはいきませんよ」

 

 そう言う割に深刻な表情だったので、シキはしっかり弁償することを決めた。

 別にお金に困ってはいないから、多めに払ってもっと頑丈な石畳を敷いてもらおう。

 それは紛れもない善意だったが、カウンターに修理の相場以上の大量の金貨を積んで、別の意味でヤチヨを困らせてしまうシキであった。

 

 

 

 その日の夜、エフェメラはライカが住んでいるバイフ族の屋敷へ泊まりに行った。

 次に会えるのがいつになるかわからないし、色々と積もる話もあるそうだ。

 

 暇になったシキは〈群れ鼠〉リファ経由で、〈銀猫〉ザビとラドールへ連絡を取る。

 例の如くスラム街の廃屋で面会。

 

 〈群れ鼠〉のオーナーがシキのような子供で驚かれるかと思ったが、〈精霊使い〉シキの名は〈迅雷姫〉ライカと同様に広まってた。

 なので逆にザビとラドールは納得したようだ。

 

 シキはシィズ族の情報提供への感謝と、明日にはブレイル獣王国を出立すること。

 そして最後に猫カフェの存在を伝えた。

 

「なんと! そんな素晴らしい構想のお店があったとは!」

 

「にゃー(人間の相手? めんどくさ)」

 

 ザビも機嫌良さそうに鳴いているので、早めに実現するかもしれないな。

 開店した暁にはお忍びで来よう。

 満足気に頷いてから、シキは泊まっている宿に撤収した。

 

 

 

 明くる日の早朝。

 シキたちは乗合馬車の発着所にいた。

 

 カルナノーラから貸し切り馬車での送迎の提案もあったが、固辞して乗合馬車を使うことにしたからだ。

 面子はシキ、オルティエ、エフェメラで祖龍はいない。

 

 昨晩のことだが、

 

「それじゃぁ〈克己の逆塔〉で待ってるのだ」

 

 そう言い残すと祖龍は塵となって消えた。

 あの祖龍の体は本体ではなく分体だそうだ。

 

 内包する神気が体を維持できないくらい減ってきていたので、分体を解除したのである。

 邪魔な祖龍がいなくなったので、〈克己の逆塔〉までの移動は楽になった。

 

「あれ、エルちゃんたちは?」

 

「ちょっと別行動さ。後で合流するよ」

 

「ふぅん」

 

 シキたちを見送るため、発着所にはライカとモアも来ていた。

 エフェメラを含めた三名は相当夜更かししたようで、揃って眠たそうな顔をしている。

 

「あのさ」

 

 シキの前に踏み出すと、胸元の指輪をいじりながらモジモジしだすライカ。

 普段の明朗快活さが鳴りを潜めている。

 

「これからブレイル獣王国とレドーク王国で国交を結ぶけど、その大使にボクがなるって言ったら、歓迎してくれる?」

 

「ライカ様が? もちろん歓迎するけど」

 

「ほんと!? というかボクのことは呼び捨てでいいよ」

 

「でも……」

 

 後ろのモアは渋い顔をしているが口出しはしてこない。

 どうやら許可するらしい。

 

 モアの隣のエフェメラも何かに納得したように、うんうんと頷いていた。

 これは昨晩のうちに、擦り合わせが済んでいるな。

 小型情報端末で三人の会話を聞いていたであろうオルティエを見ると、彼女は意味ありげに微笑んでいた。

 

「わかったよ、ライカ。レドーク王国に大使として来た時は、色々と面倒を見るよ」

 

「やったぁ、嬉しい! ボクはレドーク王国へ骨を埋める覚悟で行くから、()()()覚悟しておいてよね」

 

「あ、うん」

 

 覚悟とは何か追及せず、曖昧にしたままシキは頷いた。

 自分は決して鈍感系ではない、とシキ本人は思っている。

 

 今更候補が一人増えたからなんだというのだ。

 成人するまではまだ時間がある。

 

 未来の自分が突如打開のアイデアがひらめいて解決……してくれるに違いない。

 などといった内心の葛藤はともかく、再会を約束したシキはライカとモアに見送られて、ブレイル獣王国の王都を後にした。

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