精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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265話 何が始まるんです?

 乗合馬車の始発便に乗り込んだシキたちであったが、王都の隣街に着いたところですぐに降りる。

 そして人目の付かない路地裏へと足を運んだ。

 

「それじゃぁ〈パイロット登録〉っと。はい、これで母さんもスプリガン、妖精に乗れるようになったよ」

 

「えっ、もう終わったの? 精霊と契約するようなものって聞いていたけど」

 

 精霊と契約する際には精霊と魔力回路で繋がるため、結構な魔力を消費する。

 緊張で体を強張らせていたエフェメラだったが、魔力消費もなくあっさり終了してしまい拍子抜けしていた。

 

「ごめん母さん、厳密に言うと精霊契約じゃないんだ。他に上手い説明の仕方が見つからなくてね。さて驚くのはこれからだよ。なんてったって次は空の上だからね。はい〈搭乗〉」

 

 エフェメラの姿が路地裏から掻き消えた。

 追いかけるようにしてシキ自身も〈搭乗〉コマンドを使用する。

 

「ようこそ! 我が主と主の母君。歓迎いたしましょう」

 

「「「ようこそーーーー」」」

 

 シキとエフェメラを出迎えたのは、小柄ながらも(トランジスタ)豊満な肢体(グラマー)を持つ褐色美女。

 〈GS-202 マニ・ルーン〉だ。

 

「きゃあっ! 落ちる!?」

 

「うわっ、なんでまたこっちなんだ」

 

 エフェメラは座席以外が透明なコックピットであることに。

 シキはマニの膝の上に転移したことに、それぞれ驚いていた。

 

 〈搭乗〉先としてマニを選んだ理由はただ一つ。

 広いからである。

 

 他のスプリガンのコックピットはロボットらしく操縦桿と計器類、それにモニターが並び、座席以外で人が入れるスペースはない。

 

 その一方で〈GS-202 マニ・ルーン〉のコックピットは、ドーム型の空間の中央に操縦桿替わりの巨大水晶と座席があるだけ。

 定員を無視すれば十人くらいは入れそうな広さがある。

 

 現在位置はブレイル獣王国の上空。

 エフェメラが悲鳴を上げたように、全方位が透過していて見晴らしが良すぎるのが難点だった。

 

「そりゃぁ複座は一人掛けだからね。後から〈搭乗〉した主が座れないのは道理。だから理術で転移座標をちょちょいとね」

 

「いやいや、操縦席だって一人掛けでしょ。てか理術ってそんなこともできるのか」

 

「マニ、戯れはそのくらいにして使い魔たちを紹介しなさい」

 

「わかったからそう怖い顔をしないでくれ、オルティエ殿。よーしお前たち、自己紹介しろ」

 

 いつの間にかコックピット内にいるオルティエに言われて、マニが渋々シキを膝の上から降ろす。

 そして待機していた三匹の(しもべ)に命令した。

 

「ヘカテ」「アルテだ」「セレネでーす」

 

 マニの使い魔は真っ黒な(カラス)、鼠、猫であった。

 それぞれが翼を羽ばたかせたり、後足で立ち上がったり、前足で顔を洗ったりしながら挨拶をする。

 

「おお、普通に喋れるんだ」

 

「メナス戦の時から喋ってたやん」

 

「そうじゃなくて、畜生の喉でどうやって発声しとるんって意味でしょ。あ、これも理術の応用です」

 

「へー、理術って凄いね」

 

 シキと烏のヘカテ、鼠のアルテが会話している前を、猫のセレネが横断する。

 そして複座にしがみついてたエフェメラの膝上に、ぴょんと飛び乗った。

 

「主の主の母君ー、大丈夫ー? 背中撫でる? 落ち着くよ」

 

「え? ええ。ありがとう……あれ、猫が喋ってる?」

 

 言われた通りセレネの背中を無心で撫でていたエフェメラが、途中で我に返っていた。

 ただ撫で心地は良かったようで、手を動かすのはやめていない。

 うらやましい。

 

「というわけで母さん、床が透明で怖いかもしれないけど、安全だから安心してよ」

 

「この猫ちゃんたちやそちらの森人(エルフ)? の方もオルティエさんと同じ精霊様なの?」

 

「うん、そうだよ。そして今いるこの場所はその森人っぽい彼女こと、マニ・ルーンが操るゴーレムの腹の中なんだ」

 

「ゴーレム?」

 

「やっぱり厳密にはゴーレムとも違うんだけど、そう説明したほうがわかりやすいと思うから。とりあえずそういうことで」

 

 シキには秘密が二つある。

 ひとつは元日本人の転生者であること。

 もうひとつはオルティエたちが Break off Online というソシャゲのキャラクターであると知っていること。

 

 前者について知っているのは、エンフィールド辺境伯家のロナンドとエリンだけ。

 国に帰ったら実の両親及び親しい人にも告白するつもりだ。

 

 後者については話せないし、話す意味もないだろう。

 レドーク王国の人々にとってスプリガンたちは樹海から国を守る精霊で、それ以上でも以下でもないからだ。

 一部の宮廷魔術師たちは知識欲を満たしたがるかもしれないが、律儀に付き合う義理もない。

 

 実はシキはスプリガンたちに「君たちはゲームのキャラクターなの?」と確認したことはなかった。

 だから後者は断定ではなく仮定となる。

 

 祖父ロナンドからマスター権限を譲渡された時に同意した、108個の利用規約の内容。

 現在進行形で拡張画面に映っている各種メニュー。

 ゲームシステムを理解し、それを当然と受け入れているスプリガンたち。

 マスターというだけでシキに無条件で寄せられる親愛。

 

 状況証拠は揃っているが、わざわざ確認する必要あるかな? とシキは思う。

 答えが何であれ、シキとスプリガンたちの関係が壊れることはないと確信している。

 それなら最初から同じ人間として接した方が誠実で、聞くだけ野暮だ。

 

 仮に彼女たちが造られた存在で魂がなかったとして、そもそも魂とはなんぞや?

 シキだって己に魂があるかなんてわからない。

 彼女たちは今ここにいて、シキと同様に意思を持ち、考え、感情を発露させる。

 

 我思う、故に我あり。

 相手を想う、故に相手あり。

 それで十分。

 

 日本語を理解できれば、マスターはシキでなくてもよかったのだろう。

 だが出会ったのはシキであるし、人と人の出会いなんてそんなものだ。

 一期一会である。

 

 アトルランに住む人々は創造神によって造られたそうだ。

 前世はともかくシキの肉体だって、創造神という高次の存在に造られたことになる。

 何かしらの高次の存在に造られたという意味では、シキもスプリガンも同じではないだろうか。

 

 時にアトルランの神々は神託という形で下界と交信する。

 そしてシキ及びスプリガンにとっての神託は―――おそらくこれだ。

 シキはいつの間にか更新されていた〈告知〉欄にあるものを確認する。

 

 

 

【運営からのお知らせ】

 

平素より弊社〈ストラクティア・インダストリー〉が構築する Break off Online をご利用いただきありがとうございます。

大変お待たせいたしました。

前回シナリオ〈第53次機棲骸冊封戦役〉の配信から基底現実時間にて早くも332年、ついに新シナリオが実装となります。

その名は〈外征輝星(がいせいきせい)たちの伝承詩(バラッド)〉。

地球圏とは別の生命居住可能領域 (ハビタブルゾーン)にある惑星を舞台にして、スプリガンと機棲骸の新たなる戦いが始まります。

こちらは本編を離れ外伝という扱いになりますが、通常シナリオと変わらないボリュームでお届けしますので、奮ってご参加ください。

 

 

 

 告知の最後にはカウントダウンタイマーがついていて、あと五十日と表示されていた。

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