精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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28話 王家の反応

 イルミナージェはシキの精霊使いの力を何度か目撃している。

 樹海で魔獣に殺されそうになった時や、王都への道中で野盗を撃退した時だ。

 

 魔獣も野盗も見えない攻撃を受けて倒されていたので、シキが使役する精霊は他と違って不可視の存在なのだと思っていた。

 姿も攻撃も視認できないのでいまいち強さが認識できないことと、御前試合の相手が王国最強の魔術師〈雷霆〉ランディということもあって、イルミナージェはシキに辞退を勧めた。

 

 しかしシキは戦うことを選ぶ。

 

 ランディを差し向けた宰相の明確な殺意もあり、イルミナージェは気が気ではなかったのだが……それも杞憂に終わる。

 引き分け狙いだと事前に聞いていたが、内容はランディを終始圧倒していた。

 

 ランディの攻撃は完璧に防ぎ、反撃は相当手加減したのだろう。

 鮮やかな煙や光を纏わせていたが、魔獣を倒した時の稲妻のような攻撃は鳴りを潜めていた。

 

(問題はこれからね。宰相の殺意はシキ様の実力を疑っていたからで、本物と分かれば掌を返して囲い込みに動くかもしれない。そしてそれは他の王侯貴族も同じ)

 

 お互いの攻撃が派手なこともあって、大半の観客からは判定の通り互角の戦いに見えていたはずだが……。

 

「驚いたな。宮廷魔術師随一の使い手〈雷霆〉と互角に戦うとは。いや、あれは本当に互角だったのか?」

 

 国王アレクサンドが、精霊に抱きかかえられたままのシキを見下ろしながら呟いた。

 

「エンフィールド家のことは宰相から話は聞いていた。地方にありがちな過去の慣習をただ続けているだけの、実際には魔獣と戦っていない実体のない男爵家かと思っていたが、認識を改める必要がある。あの存在によく気が付いたな、ナージェよ」

 

「稀に冒険者ギルドから市場に流れる貴重な魔獣の素材の出所が、エンフィールド男爵領だったのです、お父様。気になって調べたところ、我が王家とエンフィールド家の盟約の存在を知りました。さすがにここまでの実力とは思いませんでしたが」

 

 愛称で呼ばれたイルミナージェが答えた。

 腐敗した王家打倒の盟約は女系王族にしか伝わっていないし(誤情報だったが)、明らかにもできないので別に用意していた言い訳を述べる。

 

「つまりエンフィールド家は盟約通り、建国当時より魔獣の脅威からこの国を守り続けてきたというわけか。忠義に報いるどころか取り潰そうとしていたのだから、随分と不義理を働いたものだな」

 

「不義理についてはシキ殿を正式な領主として認めて、相応の報奨を……」

 

「まあそんなことはどうでもいい。問題は今後どう使うかだ。貴重な魔獣の素材を冒険者ギルドに卸しているということは、並みの男爵家より裕福なのではないか? もしその利益を隠しているなら、忠義程度では相殺どころか罰せねばならん。それに今まで表に出てこなかったのも、財産を隠すためと考えれば納得がいく」

 

 イルミナージェはエンフィールド家の質素な屋敷を思い出す。

 自身は王族なので感覚はずれているかもしれないが、財産を隠しているにしても質素すぎる生活だと感じた。

 

 表に出てこなかった理由はいくつか予想できるが、最たる理由は精霊の秘匿性だろう。

 シキの使役する精霊は不可視なうえに、魔素も帯びていないらしい。

 黙っていればいるかいないかも分からない、そんな存在だ。

 

 エンフィールド家現当主のロナンドも、精霊が見えない故に自領へやってきた視察団への説明が難しかったと言っていた。

 これまではそうだったのだろう。

 では何故シキの代で精霊の姿が見えるようになったのだろうか。

 

「あのように美しい精霊がいるなんて驚いたね」

 

「そうですね兄上。是非とも手元に欲しい」

 

 呑気な兄たちが言うように、王族を含めた闘技場にいる誰もが精霊の姿に見惚れていた。

 精霊本人が美しいこともさることながら、その身に纏うドレスと装飾品にもイルミナージェは注目する。

 

 これまでに見たことのない素材と洗練されたデザイン。

 許されるならもっと間近で、いや、後ほど頭を下げてでも見せてもらわなければ。

 あのドレスは今後の社交界で間違いなく主流になる。

 

 国王はシキへの認識を改めたようだが、イルミナージェからすればまだ足りなかった。

 エンフィールド家とは絶対に敵対してはならない。

 

 建国から続く国防はほぼ間違いなく、広範囲に及ぶ樹海から魔獣の侵入を防ぐ精霊の力は、王国軍の軍事力を凌駕している可能性すらあった。

 もし敵対して国防を放棄されると、国民が魔獣の危険に晒されてしまう。

 

 王家打倒の盟約は無かったが、打倒できる力は持っているとイルミナージェは確信していた。

 

(なんとしてもエンフィールド家の信頼を得なければ。お父様やお兄様たちはエンフィールド家の危険性に気付いていないし、もし気付いても絶対に制御できない)

 

 王族の実態を知るイルミナージェは心の中で決意を固める。

 

 ―――その様子を貴賓席の端から不可視の鼠が監視しているのだが、王族も護衛たちも察知することはできなかった。

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