精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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266話 防犯設備(網)

 〈克己の逆塔〉まで雑に転移してもよかったのだが、折角なので空の旅を満喫する。

 最初は怖がっていたエフェメラもすぐに慣れたようだ。

 

 複座に座ったまま興味深そうに下界を眺めている。

 マニの使い魔の猫セレネは、エフェメラの膝の上で丸くなって寝ていた。

 

 エフェメラはセレネの背中を撫で続けているが、景色に気を取られて手が止まると、見上げて撫でろとアピールする。

 かわいい。

 

「空を飛んだり転移したり、精霊様って凄いのね。レドーク王国の王都にも一瞬で行けるのでしょう?」

 

「うん。ただ精霊のゴーレムに乗るには、特別な代償を払って契約しないといけないから、まだ人数は限られているんだ」

 

「特別な代償って、大丈夫なの? シキ」

 

 不安気な表情を見せるエフェメラ。

 シキは単に無償チップのことを言い換えただけなのだが、物騒な言い回しになってしまった。

 

「別に寿命が減るとかじゃないから大丈夫。精霊にまつわる特別な証? みたいなものを使うんだよ。そして外様の神を倒すとその証は補充されるんだ」

 

「まるで外様の神を倒すのがシキの使命みたいね」

 

「いやぁ、ほんとだよね」

 

 全くもってその通りである。

 運営曰くシナリオ開始は五十日後。

 

 外様の神こと機棲骸(メナス)との戦いが示唆されているが、既にシキは複数の外様の神を倒していた。

 果たしてそれは偶然なのか、必然なのか。

 

「助けてもらった立場で言うのはおかしいかもしれないけれど、お母さん心配だわ。シキにはこれ以上危ない目に遭って欲しくないの」

 

「ご安心ください、お母様。外様の神など我々の敵ではありません。実際に〈奈落の王〉討伐の際の被害は軽微なものでした」

 

 シキは〈奈落の王〉との戦闘を思い出す。

 マニ単体では苦戦したものの、スプリガン総動員以降は安定した戦いを繰り広げていた。

 フェリデアがダメージを負ったが、あれは深追いし過ぎただけだ。

 

 それにCRを支払えば機体は簡単に修理できる。

 何ならコアAIが死んでもCRを払えば復活するので、それも軽微と言い出しそうでシキとしては勘弁してほしかった。

 

 外様の神である〈奈落の王〉と直接対峙し、倒したのはシキとスプリガンたちだけである。

 ライカとモア、カルナノーラが龍脈で偽祖龍と戦いはしたが、〈奈落の王〉本体と比べれば遥かに弱かった。

 

 つまり外様の神の強さと恐ろしさを、正しく認識している現地人はいない。

 もしシキたちの強さを正しく理解していれば、もっと畏れられていただろう。

 

 最低限のアピールとして、城の玉座の間で精霊オルティエの姿を見せている。

 天井を無音でぶち抜いたが、その直後に祖龍が本来の姿を現わし神気を撒き散らしたので、目撃者の印象はそちらに引っ張られた。

 

 中には天井を壊したのも祖龍だと勘違いする者もいただろう。

 侮られない程度にはアピールできているので、絶妙な匙加減だったと言える。

 玉座の間の天井は直さず、神聖な青空議会の場として運用するそうだ。

 

 

 

 暫くして〈克己の逆塔〉に到着。

 〈降機〉で森の中に降りると、目の前の空間に黒い穴のような亀裂が浮かんでいた。

 

「ここまで戻ってきたのね……」

 

 感慨深げに呟いてからエフェメラが黒い穴、〈克己の逆塔〉の入口をくぐる。

 すぐにシキが追いかけると、「あれ?」とエフェメラの戸惑う声が聞こえた。

 

 その理由はすぐにわかった。

 〈克己の逆塔〉の内部が、がらりと様変わりしていたからだ。

 

 入ってすぐの円形の広間には、大量の魔獣の死骸である骨が散乱していたはずだが、それらが全て消失していた。

 また以前は真っ暗だったが、現在は内部全体が明るく、周囲を見渡せるようになっている。

 光源が見当たらないのに明るいという、迷宮によくある謎仕様だ。

 

「よく来たのだ。待ってたのだ」

 

 正面の壁にも黒い穴があり、そこから祖龍が現れる。

 背中に小さい翼が生えていて、パタパタと動かして飛んでいた。

 

「お、飛んでる」

 

「うむ。少しずつ余裕が出てきたのだ」

 

「随分とここも様変わりしたね」

 

「そりゃぁあのままにはしておけないのだ。ここを国交の中継地点にするんだから」

 

 祖龍はブレイル獣王国とレドーク王国の国交樹立に前向きだった。

 どうやら張り切って〈克己の逆塔〉の内部を改造していたようである。

 

「頑張るのはいいけど、龍脈の管理を疎かにしないでくれよ。また外様の神に乗っ取られても困るし」

 

「わかってるのだ。上司に苦情を入れたから、対策してくれるはず……なのだ」

 

「上司って〈大地熱の神〉だっけ? 聞く限りだと残念っぽそうだけど」

 

「上司は残念だが、上司の上司はちゃんとしてるのだ」

 

 神は大柱、中柱、小柱と三つの格に分けられる。

 このアトルランという世界を作った創造神が唯一無二の大柱。

 

 五つある大陸を守護するそれぞれの神が中柱。

 その他細かい事象を司る神が小柱となる。

 

「上司の上司って、中柱の神?」

 

「うむ。〈地母神〉様なのだ」

 

「おお、大物だ。しかもウル姉の信仰する神と同じだ」

 

 創造神は四つの大陸に〈智慧の神〉〈混沌の女神〉〈試練の神〉〈地母神〉を守護神として配置した。

 シキたちが住むこの大陸に守護神がいないのは仕様である。

 

 神話によると創造神は自身の神力を分け与えて守護神を作ったのだが、うっかりさんな創造神はペース配分を間違えた。

 四番目の大陸の守護神を創造した時点で神力が尽きたため、五番目であるこの大陸には守護神がいない。

 

 故にここは〈神無き大陸〉と呼ばれ、魔獣や闇の眷属、邪人といった脅威に晒されやすい土地として有名であった。

 また地母神は名前の通り生命や豊穣を司っているため、大陸を問わず信仰者が多い。

 

「やっぱりここが〈神無き大陸〉だから、外様の神にも狙われやすいのか?」

 

「否めないのだ。世界網というセーフティーネットはあるが、後手に回りやすいのだ。さすがに暫くは大丈夫だとは思うが、もしまた外様の神の侵略があったら、協力して欲しいのだ」

 

「ええ……そうならないよう神サイドでなんとかしてくれよ」

 

 被害が出ることを考えると、無償チップゲットのチャンス、などと素直には喜べないシキである。

 

「もちろん報酬は用意するのだ。迷宮産の財宝なら融通できるぞ」

 

「ぶっちゃけ間に合ってるからいらないんだよなぁ。それより情報が欲しいかな。外様の神って何者? どうしてアトルランの神々はもっと率先して守らないんだ? 人々に加護を与える割に距離感が遠くないか?」

 

「あー、申し訳ないが、神々に関する情報を開示する権限が我輩にはないのだ。すまぬ」

 

 珍しく祖龍がしゅんとして頭を下げる。

 

「そっか。ならこっちも貸しにしとくか」

 

 シキは祖龍に改めて龍脈の管理の徹底と、国交樹立への尽力を依頼した。

 〈克己の逆塔〉はまだまだ改築中とのことなので、後日改めて訪れることに。

 

「それじゃあここでの用事は済んだことだし、母さん。父さんの所に行こうか」

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