精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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267話 幼女三か月会わざれば刮目して見よ

「え、精霊様とお話できるのですか?」

 

「うん、出来るようになったんだ。オルティエ」

 

「はい、マスター」

 

 非表示状態だったオルティエが姿を現わす。

 本日の衣装は全体的に淡い色調のドレスだ。

 

 フリルの他に花柄や花びらが随所に散りばめられている。

 白とピンクのボーダー柄のニーソックスを履き、頭には兎耳の生えた小振りのシルクハットがくっついていた。

 これは春のイースターガチャで手に入る衣装である。

 

「ふわああ、かわいい」

 

 人形のように整った顔立ちをした金髪碧眼の幼女が、シキの背後に浮かぶオルティエに見惚れている。

 子供らしく口をぽかんと開けて見上げていたが、数秒で我に返るとカーテシーを決めた。

 

「精霊オルティエ様、ごきげんよう。僕はレドーク王国の第二王女、ラシール・レドークです。先の亜神ベリーズとの戦いでは、シキ様共々王国を救って頂きありがとうございます。改めて御礼申し上げます」

 

 ラシールはつい先日、五歳のお披露目を終えていた。

 これで正式に第二王女として国民に周知されたことになる。

 

「あら、丁寧にありがとう。レドーク王国がマスターに恭順を示す限り、共存共栄を約束しましょう」

 

「心得ております。シキ様がエンフィールド辺境伯領の開発に専念できるよう、腐心してまいります。邪魔者はすぐに排除いたしますので」

 

「いやいや、エンフィールド辺境伯はあくまでレドーク王国の一部だからね」

 

 シキはラシールの侍女マリーが淹れてくれた紅茶を飲みながら、不穏な会話をしている二人にツッコミを入れる。

 

 祖龍と別れた後、シキたちは一気にレドーク王国へと転移した。

 転移先は王弟コンスタンティンの私室。

 

 これまでの戦いで精霊オルティエの力が増したことにより、条件付きで転移できるようになった。

 レドーク王国の王族にはそう公表する予定だ。

 

 もちろん条件は厳しく濫用は出来ない設定で。

 シキだと設定を忘れたり間違えたりしそうなので、説明対応は成長して喋れるようになった(という設定の)オルティエに任せる。

 

 都合よくコンスタンティンが一人で書類仕事をしているのを、リファの鼠型ドローンで確認してから転移。

 完全に不意打ちのはずだったのだが、気配を察知したコンスタンティンが顔を上げて勢いよく立ち上がる。

 

「エフィ!」

 

 衝撃で書類やインク瓶が机から落ちるのも構わず、エフェメラに駆け寄ると強く抱きしめた。

 

「ああ、コンス様……」

 

 エフェメラもコンスタンティンの背中に手を回す。

 目からは大粒の涙が零れていた。

 

「これは予知である程度見越していたっぽいね。まぁいいけど。俺たちは他の王族に知らせに行こうか」

 

「はい、マスター」

 

 両親の熱い抱擁シーンを見ていられず、クールに部屋を去るシキ。

 いくら救国の英雄で王城も顔パスとはいえ、通してもいない場所から現れたので、通路に立つ近衛兵も驚いていた。

 

 シキの来城及びエフェメラ救出の一報は直ちに王族へ伝えられ、フランルージュ王妃とイルミナージェ第一王女がコンスタンティンの私室へ駆けつける。

 二人ともエフェメラとは親しい間柄だったので、私室に入る前から既に目を真っ赤に腫らしていた。

 

 大丈夫だろうか。

 両親は燃え上がり過ぎていないだろうか。

 そこだけが心配なシキである。

 

 二人より少し遅れてやってきたラシールはエフェメラとは面識がない。

 なので落ち着いたところでシキに紹介してもらうべく、別室で待機している。

 というのが現在の状況だ。

 

「シキ様のお母様がご無事で何よりです。またシキ様もお怪我無く戻られて僕は嬉しく思います」

 

「ありがとう。ラシール様もお変わりないようで……いや、成長という意味ではかなり変わりましたね?」

 

 出会った頃は舌足らずな口調だったが、現在は流暢になっている。

 そして言葉遣いも王族として更に磨きがかかっていた。

 

「五歳になり正式に王族の一員となりました。これからは王国のため、いいえ、シキ様のために頑張ります。三年後の婚約までに最低限の実績をあげなければいけませんから」

 

「あー、婚約ね……」

 

 シキがアトルランでの成人扱いとなる十五歳のタイミングで、ラシールと婚約発表をする。

 というような話があった。

 

 あの時はうまいこと逃げたつもりだったが、シキもあと二カ月ほどで十三歳になる。

 実質あと二年しかなかった。

 

『ちなみに Break off Online の成人版は十八歳からなので、あと五年ですね』

 

『……』

 

 突然心を読んで精霊語(日本語)で話しかけてきたオルティエは無視する。

 

「ところで最低限の実績って?」

 

「王族という地位だけではシキ様と釣り合いません。隣国に嫁ぐくらいならそれでもいいのでしょうが。シキ様の周りには強力なライバルばかり。だから地位以外の成果を上げて、己の価値を高める必要があります。そのための最低限の実績です」

 

「ラシール様って本当に五歳? 実は人生二周目とかじゃない? 俺が五歳の時なんて鼻垂れで泣き虫だったよ」

 

「? シキ様だってすごいじゃないですか。二歳でお母様とはぐれ、人攫いに攫われ貴族に買われ、四歳で脱走してスラム街で生き延び、孤児院に引き取られた後は単身で奴隷商とその裏にいた貴族と戦ったんですよね?」

 

「あ、そっちね」

 

 シキは前世の五歳の頃を思い出していたが、ラシールは知る由もない。

 人生二周目なのはシキのほうである。

 

「てかラシール様も俺の情報を普通に持ってるのか」

 

「僕がこうして安全に成長し、多くを学べるのは王族という地位があるからです。何の後ろ盾もない状態で貴族と戦ったシキ様のほうがすごいです」

 

「最後はエリン母様に助けられたけどね」

 

「シキ様と敵対した貴族ですが、現在ナージェお姉様と証拠集めをしています。当時は逃げ切って大人しくしていましたが、最近は第二王子派に所属し悪事を働いていました。今度こそ証拠を掴んで滅ぼしてみせます」

 

 むふーと鼻息荒くして語るラシール。

 表情は年相応に可愛らしいが、台詞は物騒極まりなかった。

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